隣の隣人(へんたい)くん

この世には知らなくていいことは沢山有る、子供の頃から存在し大人になるに連れて無意識下でそれを知ってしまったり、知りたくないのに人の噂に流れてきたり、そして…偶然自分で知ってしまったり。

隣人の観音坂さんはあの猫背と目の下の深い隈と相反して美形青年(中年)である、時折出勤時刻が被り朝の挨拶をする時もこうだ

「おはようございます観音坂さん」

「ぁ、ふっおはようござっます」

何が君をそうさせるのか、陰キャ陽キャという言葉があるなら彼は根っからの陰キャとやらで一歩間違えれば自殺するのでは無いのかと思えた、いやなんなら自殺してもワンチャンいいのでは無いのか…という事件がその日発生した
それは智花がたまたまその日普段は必ず定時原則の会社でありながら突然のクライアントからの指示により、長い残業を本当にこのホワイト企業に来て初めてという程の残業を味わい苦しみながらもコンビニ弁当片手に帰宅した

マンションの裏側から帰ろうとした時だった、たまたまゴミをガサガサと漁る音が聞こえてどうせ誰かがゴミを放っているのだろう等と気にせずに通り過ぎようとした際にソレはいた
観音坂はスーツ姿のままゴミ袋を開けてその中のゴミを物色していた、そして智花はそのゴミを見たよく見れば小さな指定ゴミ袋の中には自分の捨てた覚えのある下着やら手紙やら様々なものがある中で観音坂の手には白地に赤い物が付着したもの、それが生理用ナプキンだと気付いた時には走り出した

「待ってください!!勘違いしてます!!」

観音坂は追いかけたが先に家に入った智花は慌ててチェーンを閉めた、どういう事なのかなぜ隣人がゴミを漁っていたのか、仮に自分のゴミで無かったとしても問題はゴミを漁ったことと物色していたものが気持ち悪すぎた
インターネット上ではよく僻みのように(ただしイケメンに限る)や(イケメンならセーフ)などと言った顔面差別があるが、この事態は智花がどれだけあの男を美形だと認識してもそれ以上の犯罪者の匂いは消せなかった

「あの!和泉さん!!」

チャイムの連打される音、名前を呼ばれることなど全てこれは悪い夢だと思いながら智花はスーツからパジャマに着替えて紅茶を入れた、その頃には騒音は消えており智花はスマホから引越し先を考えた、まだ未遂の可能性もあるため警察は早いだろうと思い「あっここいいなぁ」なんて呟きつつ見ていた時だった
ガチャガチャッと窓から音がしたことにより恐る恐るカーテンを開けた

「………何してるんですか」

「いや、勘違いされてるかと思いまして!」

「ここまで来たら勘違いじゃないでしょ」

「聞いてください」

「仮にさっきのが勘違いでもこれはアウトでしょ」

「自己防衛のためです!和泉さんに勘違いされたまま俺は生きたくないんです」

なら死んでくれ。と心の底から願った仕方なく開けてやればまるで初めて彼女の部屋に来た中学生男子のようにソワソワと部屋中を見渡した、靴はしっかり脱いでくれた彼に仕方なく紅茶を出してやり座る

「事と次第によっては社会的抹消を考えております」

新宿とはいえやはり今は女の地位が高くなった現在は下手なことをしても男には重刑が課せられる場合も勿論ある、そうなれば彼も困ってしまうに決まっているので嘘をついてくれるだろう、智花は目の前の男がどうかまともな言葉を話してくれるように願ってしまう。

「勘違いしてると思ってまして、決して盗んだという訳じゃなくて…借りたんです!!」

胸を張って堂々とそういった目の前の美形男子がこれほど頭のネジが外れているなど知るはずもなく泣きたくもなった
きっと濃い隈からみて彼はいつも仕事や責任に追われてエナジードリンク片手に深夜まで仕事をして苦しくなりこんな奇っ怪な行動に走ってしまったのだろう、きっとこの都会の喧騒に頭を殺られてしまい縋る場所も分からずになったに違いないと智花は納得をした

「僕は智花さんが好きなので、必ず返す予定です」

「いえ結構です」

というか使ったナプキンを返されても困る。使われてももっと困る
智花の頭はまるでカーニバルを開いたようにどんちゃん騒ぎが発生している、にも関わらず目の前の男は子犬のような顔をして智花を見つめる

「ずっとクソ会社で心病んで死にそうで辛くて…けど智花さん見るだけで元気が出てそれで魔が差したんです、そしたらいつの間にかエスカレートして」

「同情はするんですがやっぱり自分のものってのが気持ち悪いんですよね、仮に私が観音坂さんのゴミ漁ってたらどうします気持ち悪いでしょ」

「いえ、幸せです」

それはもう恍惚とした表情で彼は答えるもので智花は頭を抱えた、安眠したく思いカモミールにしたはずが今日は無理だとも思え目の前の男を見て言った

「いっ、今までもそういうことしてきましたか」

「少しだけ」

少しとは。あなたの言う少しはどの程度の少しなんだと智花は胸ぐらを掴んで叫んでやりたかった、いっその事警察へ届けるか?と智花は真剣に悩んでいた時目の前の男は話した

「ずっと社会の荒波に揉まれて、会社のクソ上司にいびられて、同僚達には陰口叩かれたりとかもういっそ自殺してやるって時に…智花さんが隣に越してきたんです、笑顔で俺に引越し蕎麦をくれてあっこの笑顔がまた見たいから生きようって思って」

「そうなんですね」

「俺智花さんが好きなんです!付き合って欲しいとかは言いませんから見守られせてくれませんか!!」

お願いしますと土下座をする観音坂に何となく同情してしまう、確かに東京という都会で生きるのはストレスを抱えてしまうそんな中で彼は犯罪的だが癒しを見つけて必死に生き抜こうとしているのか…と、さっきからずっと名前呼びをされてることは気になるがどうせ郵便物で名前がバレたのだろう
智花は深くため息をついて土下座する観音坂の肩に触れて止めるように言う

「見守るとかはアレですけど、普通の隣人とか友人付き合いじゃダメなんですか?」

「いいんですか!!」

「私も地方からでてきた身ですから友達とかそんなにいないし、普通の隣人とか友人なら歓迎します、ゴミやら郵便物やら漁らないならよろしくお願いします」

そういって差し出した右手を観音坂は泣きながら両手で握り返して死ぬほどでかい声でよろしくお願いします。と叫んだ
この人の情緒が分からないと思いつつもまぁイケメンだしいいか、と内心思いながら智花は独歩と友達になった

その後そんな変態犯罪者予備軍と恋人になるとは智花も分からずに隣人付き合いを始めるのだった。

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