シンデレラタイム
付き合い初めて早8ヶ月経過した、28歳と23歳の大人の恋愛は思ったよりピュアに進んでいると当事者である智花は思った
3年前紐育は変わった深い霧に飲み込まれ異界と人界を繋いだ、それでも裏社会の中でも人以外を知っていた智花達からすれば不思議だと思いながらもそうなった以上仕方が無いとしか言い様がなかった
元より日本の牙狩りとして仕事をしていた智花がHLと呼ばれるこの街に呼ばれるのは当然の事であり2年半前ライブラ本部の指示によりこの街に住み、そして現恋人を見つけた、見た目に反した紳士であり自分で育てる植物を何より大切にする、そんな彼に恋をするのは出会ってすぐだった
1年間智花は誰が見てもわかるほど分かりやすくストレートに彼に想いを伝え続けた、クラウスは異性として意識していない訳では無いが無理だと断り続けたそれはもう彼もストレートに
だとしても智花の涙には勝てなかった、丁度想いを伝えてから1年の時、もうこれ以上好きとは言わないから本当の気持ちを知りたい。と伝えた智花にクラウスは狼狽えそして言った
「私も智花…君を愛してる」
その大きな手が彼女の涙を拭い、2人はキスをした…そこから2人は進んでいなかった
智花はそれを同僚のK.Kやチェインに散々吐いた、成人済みの男女が泊まることがなかったとしてもホテルに行くことも無い、帰りの電車がないという言い訳はできずにいつも丁度いい夜の深くなる時間前に彼はいつも車で送ってくれる。
今日も楽しかったとデートの感想を互いに言い合って、次はどこに行こうここに行こうそう言えばここに行きたい。会話をするデート自体に文句はなく智花も満足だったが身体は素直であった
もし彼がプラトニックを求めていたら?本気の恋ではないとしたら?智花の不満は募っていくが、それ以上彼に聞くとも出来なかった
「でももう半年以上ですよ、ねぇ聞いてるんですかチェイン!!」
「んー知らない」
「知らないじゃなくて話聞いてくださいよ」
智花は今日も甘いカクテル片手にチェイン・皇に愚痴った生酔い気味の彼女はぼうっとした瞳で智花をみた、人狼局の人達は特別お酒が好きで強いが智花の話に聞き飽きているチェインは酒に逃げ続けた
毎度恒例の店でいつもの愚痴をもう半年は聞いている、K.Kは最初こそ楽しんだが進まなさすぎる2人に痺れを切らしたがそれでも進まずに付き合わされた結果逃げるようになってしまった、チェインも相手はしたくなかったが飲める口実を作れるならいいかと思い付き合った
「うー、また今度」
「弱いんだから無理しないでいいのに、気をつけてね」
「はー…い」
解散する頃には時刻は0時を回っていた、どうせいつもの事だと智花は思いつつ少し絡まりつつある足であるきだす、家までの距離は徒歩15〜20分酔い醒ましには十分な時間だった
「クラウスさん…」
「すまない、そういう気分には…申し訳ない」
あの日も
「今日は」
「迎えを頼んである、そろそろ帰ろう」
この日も
「私帰らなくても大丈夫です」
「明日は予定があるからすまない」
その日も
「私帰りたくないです」
「…すまない」
何度断られたのだろうかと智花はふと頭の中で考えてしまった、酒に酔いすぎたと思いつつも思考は悪い方に向いてしまい頭の中で断られてきた彼とのやり取りがずっと頭の中に残りそしてふと思い出した
10代の頃初めてできた恋人の言葉を
「お前って面白くないんだよな、機械みたいだし」
その人の為に必死に努力をして恋人らしい振る舞いをして学び彼に尽した時、行為を終えた男の言葉に頭を殴られた気分になったことを何年経っても忘れられずにいた
あの人とクラウスは違うとわかっている、紳士的で優しく誰よりも人を思う彼が断る程なのだから余っ程行為に嫌悪があるのか何か理由があるのだろうと考えていれば小さく携帯が震えた、ディスプレイに表記された名前は丁度クラウスであった、今電話に出ればきっと彼に別れを告げてしまうかもしれないと思った
鞄の奥に閉まって智花は止まった足を進める
「君一人で帰ってるの、危ないよって無視?酷いな〜でもいいや着いていくし」
落ち着いた頭で歩いていれば同じように少し酔った男が現れ一人で話をし続けた
若くクラウスとは違う、どちらかと言えば表面はザップみたいな軽い男だろう、歩き続ける智花に気にもせずついて行きながら彼はずっと話す
「なぁ俺とヤろうよ」
「手を離してください」
「いいだろ?どーせ1人なんだしさ」
「痛い目にあわせますよ」
「可愛い顔で怒るなよ台無しだろ、欲求不満そうな顔してるのがバレバレ」
突如男に腕を捕まれ智花はきつく睨みつけても彼は気にもせずにそう言って智花の頬を優しく撫でる、彼の言う通りだとは智花も少し冷静になった頭で思った、霧の深いこの街で男女が路上で揉め事をしてても誰も気にしない智花だってライブラの一員だ到底そこらの男に負けるような女ではない、けれど酒に酔った頭と不安定な精神はそんな男の言葉に返事が出来ずにいた
「ほらな、大丈夫だって俺についておいで」
痛い思いも悲しい思いもさせないから。と男が言って手を引っ張った
「私は…」
「私の恋人に何か様でも」
「え」
ぎゅっと男の腕を掴んだのは智花を掴む男の2倍以上ありそうな大男だった、赤い髪に鋭い牙ときつい三白眼はまるで敵を見るような目で男を見ていた、こんな夜中に何故ここに?と思いながらも声も出ずにいれば彼の低い声が耳に入る
「私が送るのでお帰りいただいて結構だ、申し訳ない」
「あ、あぁ」
到底一般人ではクラウスなど勝てる訳が無く彼は大人しく引いて行った、そして智花をみてぺたぺたと身体に触れて溜息を零した
「ついて行く気だったのだろうか」
「いえ、お断りするつもりでした」
「家に行っても?」
「あ、えっと…はい」
断りたいと智花は思った、下着はバラバラだし部屋は正直汚い、彼の住む部屋と自分の部屋は天と地の差がありあんな狭い1ldkの部屋に呼んでも彼の口に合う紅茶の1つも出せないと思った
帰り道にあるコンビニに立ち寄ってカゴに水とお茶を入れる
「あぁコレも」
カゴの中に1つ長方形の箱が入った、それが何か分からないほど子供でもなく智花は眉を八の字に下げて会計をする隣のクラウスを見上げた
彼の手に似つかわしくないレジ袋が引き下げられカンカンと階段の音を立ててアパートの階段を上がる
「部屋の掃除少ししてもいいでしょうか」
「あぁ、突然来てしまって申し訳ない」
鍵を開けてクラウスを外に待機させ大慌てでゴミを片付けベッドを綺麗にして、少し窓を開けて切れてる芳香剤もゴミ箱に入れて部屋用のスプレーを軽くふりかけオマケに掃除機も軽くかける、走り回るように狭い1ldkの部屋を掃除してドアを開ければクラウスが立っていた
「どうぞ」
「お邪魔します」
彼は丁寧に挨拶をして靴を整えて上がる、日本人相手だからだろう態々同じようにして貰えるのは智花にとっても助かった、出しておいた彼の足のサイズに合わないスリッパを履いてもらい部屋に案内してコップを2つ出して買ってきたお茶を入れる
もうすっかり酔いが消えた智花はリビングの真ん中で正座するクラウスをみた
「怒ってますよね、さっきのも」
「いや、怒ってないと言えば嘘になるが私が原因であることもわかっている」
「いいんです、人それぞれですから私が子供過ぎたんです、でも知りたいんです私の事はもう嫌なのかとか」
「それは断じて違う、私は本当に君が好きだ…だが」
「だが?」
「は、初めてで…そういう行為をすることも、キスも智花が全て初めてで緊張してしまう」
彼が顔を真っ赤に染めてそれを隠すように真下に向ける、智花は席から立ち上がりクラウスの顔を覗き込めば彼は両手で顔を隠したが耳も首も赤く染っている、更に覗こうとすれば彼は背を向ける
そんな彼に智花は下がっていた眉が上に上がってしまう事を抑えられずに彼の手を優しく取って顔を見た
「本当に恥ずかしいんだ、いい歳して恋も知らない私が」
「私凄く嬉しいって言ったら嫌ですか?」
大きな彼の膝の上にはしたなく股がって、クラウスの目を覗き込んで両手を軽く抑えるように繋ぐ、本気で嫌ならきっと抵抗して見せれる
28年間恋も知らず、何も知らないこの人を染め上げることがどれだけ気持ちいいのか、歓喜した智花はクラウスのメガネを優しく外してテーブルに置く
「私の事はしたないって思ったりしませんか?」
「そんなことを思うわけが無い」
「あんなもの買ったんですから、いいって事ですよね」
その言葉に彼は小さく頷くあぁ乙女の純潔を奪うような気分になりながらも智花はクラウスから退いて彼の手を取り寝室に向かった
2人はようやく今日大人になれる、そう思いながら深夜に2人はベッドに潜った。
だがしかしその日2人は買ってきた避妊具のサイズのせいで本当にベッドに潜って眠るだけになったことはあとの話だった。
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