ゆうやけこやけ
銀色のように光に当たってはキラキラと輝く髪、まるで雪を被ったような白いまつ毛、万華鏡のように不思議と惹き付けられる薄い水色の瞳
「結婚式は両方しよう、他の奴らは呼ばずに2人で静かに」
低いその声は変わったが彼は昔と変わらない無邪気な笑顔で笑った。
その日智花は人混みの中で怒鳴られた、恋人とのデートに来たはずなのに目の前の男は怒鳴りつけて智花を引っ叩いた、声も出ずに見上げても彼は怒り続けていた、あんなやつを呼んで無茶苦茶だと訳も分からない話をし続けた
周りの人間はカメラを向けて見てきた事に羞恥心や恐怖が込み上げて逃げるように背中を見せた
「許さないからな」
その言葉に何か分からずに逃げた
何かの間違いで夢な筈だった彼とは順調に進んで結婚しようと約束をした2週間前、今日は指輪を買いに行こうと話をした1週間前彼は優しく微笑んでそれに応えた
考えても埒が明かず、ベッドに寝転がりスマホを開いた彼の言葉が呪いになって頭の中で響く、悪い夢を見たと思い目を閉じて智花は深い眠りについた
ピーンポンと間抜けなチャイムがなる、時刻はいつの間にか12時間も回っていたらしく朝になっており思わず慌ててカレンダーを見たが休みだったと思い居留守をした
それをわかっているのかチャイムは鳴り響き続ける、薄い部屋の壁は隣まで聞こえやすい事は隣の大学生カップルのせいで理解していた、仕方なく重たい腰を持ち上げ智花はドアを開けた
スラリとした細身のサングラスをした銀色なのか白髪なのかはっきり出来ない髪を持つ男性は口元を緩めた
「迎えに来たよ」
まるでそれはドラマや童話や漫画の世界のようで、王子様のように彼は抱きしめられた、寝起きとはいえハッキリとした意識の智花は思わず抵抗しようとしても彼はそんなことは気にもせずビクともせずに離れなかった
「誰ですか、離してください警察呼びますよ」
「酷いなぁ僕らの仲なんだし照れなくていいだろ」
「知りません、貴方みたいな人知り合いにもいませんけど」
「は?」
それまでニコニコと楽しそうに話をしていた彼が突如低い威圧的な声を出した、知らない異性に突然そのようにされ戸惑った智花は思わずビクリと大きく肩を跳ねさせた、彼は他人の家を気にもせずに入っていく警察を呼ぼうとテーブルの上のスマホに手を出す前に奪われる
「何しようとしてる訳」
「こっちのセリフですよ、不法侵入ですよ分かっているんですか」
「警戒心高いのはいい事だけど相手選びな、僕だよ?」
「だから知りませんってあなたみたいな人忘れることもないと思うけど…出ていってくださいよ」
押し問答が続くが目の前の男は気にした様子もなく智花の部屋の中を漁る、まるで自分の部屋を掃除するように彼はゴミ箱の中に見慣れた写真立てを入れたり、引き出しにある男性用のスウェットや下着を入らないのか指定ゴミ袋を出して入れていく
「何するんですか!!」
「はぁ…智花さ、いい加減してよ僕ら結婚するんだよ?」
「意味わからないです、貴方のこと知らないって何回も言ってるしそんな約束してません、私恋人いますから」
「昨日殴られたのに?あんなに酷くされてるのに?最低だよアイツ」
「昨日のことは分からないけど別に普通の人です、貴方なんかよりずっと素敵な人ですから」
智花の頭は混乱気味でわけも分からず彼を追い出そうとしてもピクリと動きもせず、彼ははぁ…とため息をこぼしてサングラスをテーブルの上に置いて、智花に座るように言った
彼の瞳を見て思わずその場に正座をしてしまえば彼は気分よく笑う、アイスブルーの瞳は人なのかそれ以外なのか分かりもしないほどだった。
ベッドに腰掛けた彼は言う
「五条悟、君の夫だよ」
「知りませんよ」
本当に知らない、人違いだと智花は言い続けた
その日から五条悟と名乗った男は智花を連れ去った、大きなマンションの一室に住まわせた、部屋の中は好きに出入りできるが何故か玄関のドアだけはまるで壁でもあるかのように触れることも出来ないでいた
荷物は何一つ持ってくることは出来ずに家の中からネットで注文して其れが別の人たちの手でこの広い部屋の中にやってくる、その人たちに話しかけても彼らは「悟様にお聞きくださいませ」といい何も答えなかった
「今教師してるんだよ凄いでしょ」
彼は毎日来る訳ではなく来れる日に来るようで、数日来ない時もあれば1週間ほど来ない時もある、彼の身の上話を毎日聞けば彼がどんな人間かも理解する
「きっと…人違いですよ、私じゃない」
「そんなわけない、僕の目が間違える筈がないんだからさ、でもいいんだよ…智花が忘れてても怒らないから」
始めてきた1週間は毎日泣きじゃくった、毎日叫ぶように違うと言い続けて窓から出ようとしたがあまりに高いマンションは東京の夜景を綺麗に見渡せる程でそこから飛び降り出来るほど勇気があるわけもなかった
食事も作らなければ決まった時間に手伝いさんが来て料理をしたり家の事をした、何も不便はない生活だが違和感しか無かった
いつまでもあの男の言う意味が理解出来ずただその偽りの優しさが常人には怖くて堪らなかった
夜深く眠る時その夢はやってきた、夕暮れの公園で一人きりで迎えを待っても誰も来なかったみんな迎えに来て帰っていく背中を見て仕方が無いと思っていた、同じような少年が1人そこに居てブランコで遊んでいた
「なぁ、押せよ」
「わたし?」
「お前以外居ないだろ」
「わかった」
少年の顔も声もはっきりと覚えていない、いつも綺麗な和装を着ていた少年だった
夕暮れ母親が迎えに来て智花は彼の背中を押す手を止める
「わたしかえるね」
「もう?」
「もう真っ黒だよ、お母さんたち迎えこないの?」
「んー来てるから大丈夫」
「じゃあね」
「また明日遊ぼうな」
彼の声は鈴のようだった、毎日夕暮れブランコを押しあって手を振った、夏も秋も冬もずっと繰り返して同じブランコの背中を押した、ある日の夕方大人達が数人居た、少年はその人たちに囲まれていてそこから抜けてやってくる、いつからかここの公園には誰もいなくなっていた、昼間にはいるが夕方頃にはまるでみんな逃げる様に消えてしまう
それを少年に聞いても彼はきっと晩御飯のせいだ、と答えたような気がした仕方ないと思いながらも関わりのない子達を気にしても仕方なくブランコを押した、その日は珍しく大人が沢山居て時間は18時を回れば大人のひとりが声をかける
「〜様、お帰りのお時間です」
「はぁ、もうかよ」
「帰るの?」
「うん俺ここから離れるんだ、暫く京都にいる」
「遠くなの?」
「遠くだよもう暫く会えないんだ」
泣きじゃくる幼い智花の手を取って彼は優しく微笑んで笑う
「大丈夫だよ、俺が絶対迎えに行くからその時は」
アイスブルーの瞳が光った、銀色の髪が夕焼けに照らされて白い肌はまるで雪のようで
バチンと電気がついたように意識が戻れば目の前にはタキシード姿の彼がいた、周りには家族やら彼の職場の人たちなのか人々は嬉しそうに拍手する
「では新婦、誓いますか」
低い年老いた神父の声に智花は意識を取り戻して目の前の男を見た、意識していなかったが口は自然と「誓います」と言葉を漏らしたその後同じくタキシードを着た五条が言葉を続けて左手を取り指輪をはめた、幼い頃のように無邪気に笑い彼は言った
「ようやく思い出してくれたんだ」
あぁ確かにあの日の夕暮れの中、誓い合った次に会う時は結婚しようと。奥にいた母は涙を流して喜んでいた
重なった唇は誓いのキスではなく呪いだと理解した時には遅く
「愛してるよ智花」
耳元で囁いた彼の言葉は嘘偽りなどなかった、どうして忘れてたのだろうか彼は必ず迎えに来ると言っていたのに。
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