貴方は可愛いテディベア

男は狼なのよ気をつけなさい。だなんて歌を思い出したそのワンフレームは昔から言う比喩表現であり誰も本当の話などしてない
本当の話だと仮にしてもまだ狼ならイヌ科だし何とかなったか?とも智花は思った目の前にいるクラウス・V・ラインヘルツはその巨体から人間とは異なる耳が頭の上に出ていて、さらにいつもの体格よりも少し大きくなり鋭い爪と牙が見える

「あ、あのぉクラウスさん?」

「だから言ったんだ、やめた方がいいと」

私の恋人は熊でした

元紐育現HLでは今までの世界等無かったと言うように変わってしまった、今さら驚くことはこの街じゃ何も無いと思っていた智花も半年近く前にHLにやってきた、秘密結社ライブラに所属をしていたが異動になった際にHLだとも思わずに本部に文句を言ったのはつい最近のことのようだった
それでも来たらきたでこの街の異常性に楽しさ半分怖さ半分であり仕事も順調でそして…人生初の恋人もできた
大きな身体に低い声上司に恋をするとは思いもよら無かったが智花はクラウスに恋をした、プライベートの食事の3回目彼は言った

「私と付き合って頂けないだろうか、君を幸せにする」

席を外して帰ってきた彼の手にはあの大男を隠しそうな程巨大な薔薇の花束を抱えており、智花はそれを受け取り笑顔で頷いた
彼との交際も順調であり互いの考えも趣味もよく合うものだから楽しかった、だがしかしそんなことが起きるとは思わなかった

「美味しいですか?」

「ふむ、日本食はあまり食べたことがなかったがヘルシーで美味しい」

「よかった、HLだと食材選ぶのも一苦労ですから」

仕事終わりに智花の家で夕食にしようと智花から誘えば彼は二つ返事で頷いてくれた事に智花は機嫌よく買い物をして帰り狭い家に彼を入れて持て成した
態々日本から取り寄せも出来ないこの街で仕方なく探し回った日本食の為の食材や調味料は味付けがあったらしくクラウスは全て完食した後洗い物まで手伝ってくれた、隣に並びながら智花は嬉しそうに微笑む

「なんだか新婚さんみたいですね」

「っ、あっあぁそうだろうか」

「私楽しいんです、初めて付き合った人がクラウスさんみたいな優しい人で」

「…私も智花と出会えて嬉しい、これ以上の喜びはないだろう」

そういってクラウスの大きな右手が智花の頬を包むように触れる、少し背伸びをした智花が目を閉じる彼が触れる時は合図だと言うように認識してそのまま触れ合った唇にぼうっと惚けた顔をして智花はクラウスを見つめた

「すまない、見ているとつい」

「いえ、嬉しいです」

「ならもう一度してもいいだろうか?」

「はい」

智花は不思議だった、人生の中で男性経験が彼しかいない為に世間は普通なのかもしれないが彼は唇を重ねる以上をしない
裸で眠ることも風呂に入ることも、速さは重要ではないとわかりながらも相手に気を使わせてるのではないか?と智花は思いながらいつも悶々と悩んだ、何故なら職場に男女関係にだらしない男がいるからだ、あの銀髪の話だと男女がキスをしたらそれ以上に行くのが普通だとも話していた
子供では無いためにどうしたら子供ができるかくらい智花も理解している
それでも互いの年の差、恋愛経験の差、体格差など上げればキリのない経験値の違いに智花も悩んだ、クラウスは優しく自分から求めることも無いだろうと察した智花は思わず言った

「お風呂一緒に入りませんか」

「いや私は結構だ、壊しかねない」

「じゃあシャワーだけでも!」

「着替えがないだろう」

「とっ泊まって欲しいとは言いませんから」

智花は一世一代の勇気を振り絞ったがそれは綺麗に避けられた、仕方が無いと思いつつもクラウスも申し訳なさそうな顔をして智花を見つめる

「すまない、本当に嫌な訳では無いんだ」

「はい、分かってますから大丈夫です」

「代わりにと言ってはなんだがその智花の好きなチョコレートがあるのだがどうだろうか」

「え!嬉しいです」

クラウスの言葉に機嫌を良くした智花にほっと胸を撫で下ろしてクラウスは紅茶を入れてやり、狭い部屋の中で配信サイトの映画を見ながら2人で夜のお茶会をする、楽しそうに話をする智花をみればクラウスも釣られて優しく微笑むものだからお互いに気持ちのいい日だった
その時までは

「か、帰らないでください」

「ダメなんだ!私と夜を過ごすのはやめた方がいい」

「どうしてですか、もう少しですから」

「智花私は君に知られたくない」

何が?と聞きたかったがまるで2人には深夜0時の針が大きく聞こえた、智花は我儘だと分かりながらクラウスの腰にしがみついて叫ぶように行くなと言い続けたがクラウスも吠えるように智花を拒否した、本気になれば片手どころか指一本で持ち上げれそうな智花を突き放すことも出来ずにしていたが日付が変わった途端クラウスは床に蹲った彼の背中を摩り何度も名前を呼んだが苦しそうにするばかりで反応もなかった
慌てる智花が立ち上がった途端だった部屋に大きな物が倒れるような音がして何事か分からなかったが、智花は自分が倒れたことを理解した
大きな影が自分の上に覆いかぶさってる事実に目を丸くして見上げた

「あ、あのぉクラウスさん?」

「だから言ったんだ、やめた方がいいと」

彼の体は人なのか獣なのかハッキリとは言い難い身体であった、まるで動物のような毛質の腕や鋭い爪、服は張り裂けそうな程大きくなっており普段少し大きな服を着ていてもこれ程なのだから立ち上がれば2m30cmくらいはある事だろう
鋭い歯は更に尖っており、まるで熊のような姿だった、だが普段彼のことを例える時にクマとは言うものの本当にそんな存在だとは知らずに目を丸くした智花と申し訳なさそうな普段のクラウスがいた

「すまない…怖がらせるつもりも、隠すつもりも、騙すつもりも無かったのだ私を怖がるなとは勿論言わないが嫌いにならないで欲しい」

「えぇあの、本当にクラウスさん?」

毛深くなった顔に触れて、人間の耳がなくなり頭の上にある耳に触れれば擽ったいのかピクピクと耳は小さく動いた事に驚きを覚えつつも智花は身体と反対に小さくなったクラウスをみる

「見てわかる通り私は熊だ、昼は人間だがこの時間から3時頃までの数時間はこの姿になってしまう…特に満月が強い日は中身も近くなってしまう」

「そうなんですか、苦しく有りません?」

「あぁ平気だ、重たいだろうすまない」

「とりあえず部屋戻りましょう聞きますから」

そういって立ち上がった智花はクラウスの手を引けば彼は立ち上がるそれでなくとも狭い家の天井にぶつかったクラウスに智花は困惑しつつ、またリビングの椅子に座り向かい合う
クラウスの話をまとめれば、彼自体が過去に戦った異怪人のせいでその身体になったという呪いのようなものであり解除は出来ないが抑える事は出来たと。一日の数時間熊のような姿形になり理性も大変な時だと無くして慕う時があるという彼はまるで叱られた子供のようだった

「すまない、驚かせるつもりではなかったんだ」

「すっ…素敵です!ワイルドで凄くかっこよくて私どうしよう、益々クラウスさんのこと好きになってしまいそうです」

「智花?」

「クラウスさんはご自身の事をあまりよく思わないかもしれませんが、私はどんな姿でも貴方だから好きなんです!だから私と一緒に寝てください」

「…あ、あぁ」

予想外の反応だった、この姿自体は随分と昔になってしまい初めは大変だった交際する相手に初めは伝えても理解されることはなく離れてしまい、智花とは真剣な付き合いをしているために伝えられなかった
それでも今回このような事で判明しても智花は嬉しそうに好きだ惚れただと言い続けられればクラウスは恥ずかしく感じた、自分の好きになった相手はこの人だからなのだと再認識して、智花の言った通りシャワーを2人で浴びて健全にベッドに入った
成人女性サイズの狭いベッドはクラウスを入れることは難しく、仕方なく寝室の床に布団を敷いて横になる、この時ばかりは日本人仕様の部屋にして良かったと智花も安堵した

「すごいですね、手のサイズもいつもよりもずっと違います」

「君の手がさらに小さく感じるな」

「牙も髪の毛も全部少し変わるんですね、でもなんだが普段のクラウスさんが毛深くなったような感じであんまり変わらないような気もしますよ」

「怖くないだろうか?」

「今さら貴方を怖がるわけがないですよ、初めて出会った時の事忘れませんから」

そう言われれば2人が出会った頃智花はクラウスに怯えていた、日本人でもなかなか見ない強面はなれずに話しかけることさえ難しかったが仕事をするうちに自然と2人は側にいて交際を始めた、毎日泣きそうな顔の智花を見る度にクラウスも困ったように他の仲間たちに相談したのがもう数年前のように懐かしく感じた

「君は随分と怖がりだったことを覚えている」

「はい、今じゃ可愛いテディベアですよ」

「…それなら智花はウサギだ、私の幸福のウサギだ」

「捕食されてしまいますね」

「他にされないように私が必ず守って見せよう」

その言葉に智花は幸せそうに笑ってクラウスの腕を枕にした、少し硬い毛質が愛おしく智花はクラウスにキスをして2人して挨拶をして眠り着いた
翌朝元に戻っていたクラウスと朝食を取り、次のデートを誘った

「今度は私の家に来ないだろうか…可能ならば泊まって行かないか?」

智花はその言葉にコーヒーを零しながら返事した、とびきり可愛い下着を買おうと考えて。

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