天使は甘い夢を見るか
もってあと10年ですかね
禿げてチビの痩せっぽっちな医者がそう言った時智花はただ自分が反射して映っている窓ガラスを見つめていた
智花は自分の命が長くないことを理解していた、母親は智花を産んですぐに亡くなった、代々女は短命な一族だった仕方がない
「へぇ死ぬんだ」
1つ先輩の五条悟はまるで明日の献立に対して返事するように呟いてベッドに寝転がった、私のベッドなんだから退きなさいな。なんて言っても聞かない彼を今更もう退ける気は無くなって
「うん」
と言葉を出した
「智花さぁもっと生きたいとか思わねぇの」
「五条先輩知ってるじゃないですか、私の家は代々女は短命だって」
「だから聞いてんだろ」
まだ15歳なのだからしたい事なんて沢山あって、謳歌したいと願うのは当然の事だろう
それでも一つ下の後輩和泉智花は全てを理解した顔して苦しそうに微笑んでクッションを抱きしめたものだから五条悟という少年は何も言えずに彼女のベッドの枕に顔を埋めた
五条悟は和泉智花を大層愛していた
実家にも和泉の娘以外と結婚しないといい彼は見合い話を蹴り飛ばして、高専をとっとと卒業して特級呪術師として腕を上げ続けた
智花が短命なのは自身を器にしているからだ、和泉家は代々呪いを受け継ぎ血を受け継ぎ子孫を残して血を与えるのだという、智花の中には凶悪な呪いが何千も存在している上にそれらを制御していた
当然和泉智花は呪術界では大切にされた、特級と分類される呪物でさえも自身の中に封印しているのだからもし彼女達が解放されれば呪いは世界を埋めつくし即座に崩壊していくだろう、誰にも守られることなくただ喰らうのみを許される存在を人は呪術師より、巫女と呼んだ
「俺教師になろうと思うんだけどどう思う」
「…先輩が、ですか?教えるの下手なのに」
「聞こえてんだよバカ」
五条悟は天才だ、この世界の何においても呪術師以外の腕も並外れた才能を持ち、天才は何をしても天才だと言うがその通りである
智花は肉弾戦こそ得意ではないがそれ以外はそれなりに得意だった、勉強もソコソコただ時間はそれを許さなかった
大人になると同時にゆっくりと命の焔は確かに消えようと小さくなっていくのが智花は感じ取れた、短命とはいえ医者に言われるなどと思わなかった次の後継者を探すことで今は手一杯だ、子を宿そうと考えたがそれは何より五条悟が許さなかった、彼は1度決めるとそれが子供のような考えであったり家の事であっても決して譲らなかった、だがしかし五条と和泉の混ざり子を作るとは2人は考えなかった例え大人が望んでも
智花はゆっくりと衰弱していった、呪いの影響だろうがまず味覚を失った、それに初めは誰も気づかなかったが悟は智花にある日微弱な毒をもって判明した辛いものが苦手だというのに智花が平気で食べられるようになったのが不審に思ったのだと語ったが彼の同級生達は怒鳴りつけるように怒ったもし死んだらどうするのだと
そして次に嗅覚を失った
「俺の匂いわかる?」
「…もう、わからないです」
それを知ったのは2人が20歳になったときの初夜だった、智花と悟は夫婦になったその日の夜に問えば隠すことも無く微笑んでそういった
時間が無いのだと2人は思った、親友を失って仲間を日に失うこの職業を今更後悔していないがゆっくりと苦しくなっていった、感覚をなくしたのは21歳の頃だった呪術師を辞めた智花を家に置くようになったのは結界を何重にも張っている安全な場所だからだ、家に帰った途端に香った血の匂いに慌ててリビングに行けば智花は壊れたように割ったお皿で太股を刺していた
「何してんの!!」
「…悟さん?ごめんなさいお部屋汚しちゃってあの私片付けますから」
呪いの制御が出来なくなっていき箸を持つことさえ出来なくなっていき弱る智花を皆が見放してただ言うことは彼女の中の呪いを誰に移すのかだった
即ち誰が和泉家を継ぐのかだ、苛立ちを抑えきれないのに感覚も無くなって耳も目も聞こえない話すことも出来ないでベッドに横たわる智花は微笑んでるように見えた
「僕はエゴイストなんだ」
目の前を歩く担任、五条悟は生徒である伏黒恵にそう呟いた
「そうですか」
「恵も分かるでしょ、受け入れられない真実ってさ」
頭の中で姉を思い出した、そういうことだと言いたげに五条は口角を上げた
和泉という呪術師の家が亡くなったのはここ数年前であり狭い呪術界は動揺した、あのあまたの呪いをどうしたのだ夫であった五条はどうしたのだと、それは大層動揺して強く責め立てられたが一喝した
お前達は何もしなかったくせにと、智花は23歳で亡くなり予定よりも早い死を迎えた細い体でチューブに繋がれた自宅の中で静かに眠るように死んでいたが呪いは溢れなかった、通常通りの器になって死んだことが不思議であったが理解した、全てを犠牲にしたのだろうと普通ならば溢れる呪いを塞ぎ込んで死んだ智花を受け入れられなかった
「ただいま」
「おかえりなさい悟さん」
やることを終えて帰宅した家の中は味噌の匂いがして、それまで感じてなかったはずの空腹感が途端にやってきて顔をあげれば昔と変わらない智花が走ってやってきて飛び付くように抱き着いてきた
そこには確かに匂いが残って温もりがあって確かに彼女は存在した
五条悟は禁忌を犯した、これは到底許されるものでは無い、死者を冒涜したやり口だろう
そう、彼女を呪いで縛りつけたそれも条件を沢山つけて一方的に縛り付ければ彼女はもうこの家以外どこにも行けないそして死んだことさえ覚えていない、生き返らせた時彼女は記憶がほとんどなかった事は好都合であり体の呪いは未だに残っていると言っていた
「はぁ今日も疲れた智花ご飯は?」
「麻婆豆腐にしましたよこの間食べたいって言ってましたよね」
「うん、智花が作ってくれるならなんでもいいけどさ」
よかった、なんて下から見上げて言うこの人を守るためなら僕は何処までも意地汚く生きて守り続けやる、何を犠牲にして何をしたとしてもそれで良かった
いつかこの甘い夢が崩れてしまう前にどうか僕を殺して欲しいと願うのは最低な事だろう。
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