熟練者

※元同級生主×高専卒業後恵

男なんていらないって何度も言ったのになんなんだこの現状はと隣を睨みつけても目が合ったはずの友人は気にした様子もなくヘラヘラと笑っていた
3ヶ月前恋人に振られた、同じ大学の後輩に取られて詰めた結果「先輩は悪くないんです、私が無理やり言ったから」「いやこの子は悪くないんだ…全部、全部俺のせいなんだだから怒るなら俺に」なんて茶番を繰り広げた目の前の男女に罵声を吐くことも出来ず呆れてどうぞお好きにと告げた
それ以降仲のいい友達はいたく男を紹介してきたが全て拒否しただがしかしその日食事に行こうと誘われて来た結果が合コン等とは思わずため息が深く出ていった

「和泉智花です」

仲のいい友達3人と相手は3人、1人遅れてくると言われたが適当に流して早急に帰ろうと考えて名前を名乗るだけの愛想のない挨拶
楽しそうに会話をする皆を見つつ静かに端っこの席で生ビールと頼んでいたホッケの開きをつついた
隣から楽しもうなんて声が聞こえても知らないふりをして、始まってから30分程でドアが開く

「ごめん、遅れた」

黒髪にツンとした冷たい目、シンプルなモノトーンの服装の男性を見て智花は思わず目を見開いた

「恵くん?」

「智花何でここに」

え?知り合い!なんて驚きの声があがりながらも自己紹介して席に着く、みんなそろそろ席替えだと良いながら男女混合の席に変わる、ちょうどよかったと恵を隣に招いて注文を入れる

「中学ぶりかな変わらないね」

「お前も綺麗になったな」

「女の子はメイクとか髪型変わるから余計かも…恵くんも何かさらに体格良くなったね、言ってた呪術師ってのしてるの?」

伏黒恵は学校内じゃ有名だった、不良を倒して学校の中じゃ怖がられていて、けれど威張ること無く静かでお姉さんがいた、1つ前の席に座る彼の背中を1年間見続けていつもプリントの回収やらなんやらをしていればいつの間にか軽く話す様な関係になった
昔から幽霊等が見えると言った時彼は目を丸くしてそれが何かを教えてくれた、そんな世界や職業があるのかと思ったが同じような人は沢山いて生業にしない人達も沢山いると教えられた
窓と呼ばれるバイト代わりの仕事をしては居るものの直接恵に合うことも話すことも無かった為に実に数年ぶりの再会だった

「智花は変わらず頑張ってんだな」

「うん、それより友達も同じ呪術師の人?」

「そんな所だな、まぁ合コンなんて知らなかったけど」

「恵くんもなんだよかった、合コンしたくないって言うのに無理やりこさせられたんだよ」

互いにそう文句を吐きながらもテーブルに並ぶ食事に手をつけて話をする、あぁ彼は変わらないなと思った
綺麗な横顔に白い肌黒い髪、大人になって少し骨張った指先やら顔立ちは少し色っぽく思えてしまい智花は顔を逸らした

「なんか変な顔してたか?」

「してないしてない」

「久しぶりに会えたからはしゃいじゃって変な顔してるかも」

そういって口端を軽く上げた恵に誤魔化すようにまたビールの注文をした、遠くから友達が私もと注文を進めていき合コンはそれとなく進んだ、恵も智花も席を変えることなくずっと話しをしていて無理やり連れられてきた者同士だったので仲良ければいいかと判断した友達たちはそのまま続けていた
二次会にカラオケはどうだと話をされ智花は即座に明日も予定があると嘘をつき断り、恵も同じく仕事だと言った、仕方なく残りの行けるメンバーで行こうと話をして席の時間間際になりお金の回収を受ける

「電車?徒歩?」

「この辺近いから歩きかな」

「送ってく、流石に危ないだろ」

「悪いから大丈夫、私みたいなの襲う変な人いないし」

「んなわけないだろ」

店の外で軽く話をして結果的に一緒に帰ることになった、送り狼はやめろよと揶揄う恵の友人の相手もせずにみんなの背中を見ていた歩き始めた
もう冬が近いのか夜になれば吐いた息が白くなって消える、寒いね。と零せば恵は背負っていたリュックから薄手のストールを出して首に巻いてくれた

「まだ寒いなら上着貸すけど」

「いいって、なんか恵くん変わったね」

「そうか」

「優しくなった」

「優しいつもりだけどな」

人通りの少ない道を歩いて二人で話しをする、智花は悩んでいた3ヶ月前のあの事件から正直男なんて要らないと豪語してきたにも関わらず再会したばかりの恵が魅力的であった
異性に優しくされるのが初めてでは無いが、昔の思い出も相まって恵の優しさや温かさを実感した、合コンに来ると言うなら彼女ももしかしたら居ないかもしれないと悪知恵ばかりが働いては頭の中で緊急会議が開かれている

「こんな所公園なんかあるんだな」

「ホントだ、まだお話したいし軽くよっていく?」

「智花明日は朝早くないのか」

「私嘘ついちゃったから、明日何も予定ないし大丈夫だよ」

ならよかったと2人して小さな街頭しかない公園のブランコに座る
学生時代の思い出はよく覚えていた、プリントを回収したり寝ようとする恵を軽く揺すったり先生に呼んできてくれと頼まれて探せば体育館の裏で喧嘩していたり

「恵くんってやんちゃだったもんね」

「そうか、智花は優等生だったかもな」

「皆が恵くんの事怖がるから全部私に来たんでしょ」

「俺は楽しかったよ、お陰で3回もバレンタイン貰えたしな」

「うわぁよく覚えてるね」

恵はそれなりに女の子にモテる、顔もいいし無口でそこらの中学生男子のように下品じゃなかった、だから必然的に女子の中でかっこいい男の子の話にはよく出てきた事は覚えている
バレンタインも自分はいつもお世話になっているから。とお姉さんと恵の分を渡していた事は懐かしくそれ以外の女子は数名くらい隠れて恵の靴箱や机の中に入れていた事にからかった事も勿論あった

「そりゃあ好きな人との思い出だしな」

「へぇそうな…え」

「変なこと言ったか?」

ブランコを軽く漕いでいた足を止めて思わず立ち上がり見つめれば座っていた恵が目を丸くして見つめた

「いやあの、なんて?」

「思い出だしな?」

「違うよその前」

そういえば恵が立ち上がり笑った、優しくない少し意地悪めいた顔で近づく長い足が1歩ずつ近づく度にじりっと後ろに下がってしまい、それを何度も繰り返せばブランコの周りを囲む塀にあたる

「智花は俺の事どう思う」

「いやあの」

好きだと言えば自分はもしかして軽い女なのでは無いかと思った、たかだか3ヶ月されど3ヶ月前と言え自分はしっかりあの人が好きだった、勿論浮気をされ振られた側だが自分はいいのかわからなかった
中学時代確かにその気持ちがあったが恵とは静かな席の前後が心地よかった、黙って見下ろされ思わず目を逸らす

「好きなんだ智花が、もう次会えないかもしれないから今の内に言っときてぇって思った困らすつもりじゃなかったごめん」

そういって背中を向けようとした恵の腕を掴み、振り返った彼に告げる

「わ、私も好きです!けど…さ、三ヵ月前に彼氏に振られたのにそんないいのかなってなっててあの」

あぁだらしない女だと思われるだろうかと思ってしまい顔を上げることが出来なかった、ただ感じる顔の熱は巻いてもらったストールなんていらないほどで掴んだ手のひらも汗ばむのではないかと思えてしまう

「いいに決まってんだろ、俺が好きなんだから」

そういった恵をみれば彼の顔は耳も首も全てが真っ赤になっていた、白い肌のせいもあって夜なのにはっきりとわかったその色に更に顔に熱がたまり2人して少しの間沈黙が流れる
ふと変わった視界は真っ白で背中にあたる腕の感覚に抱き締められたのだと気づく

「絶対大切にするから俺と付き合ってください」

改めて真剣に言葉に出されれば、こんな真っ直ぐに言葉を使ってくれたことなんて今まで味わったことがないと思えて背中に腕を回して小さく頷いた

「はい、よろしくお願いします」

と返事を付けて
2人して少し暖かくなった身体で歩き始める指先を絡めて
先程と変わらない他愛ない話をしていた時恵があっ、と声を出す

「終電無くした」

「え?タクシーで帰れる?」

「いや、遠いから難しいんだけど…どうするかな」

「…明日仕事でしょ」

「いいや智花と一緒で嘘ついただけ、どうするか」

「恵くんってずるいよね」

そういえば彼は中学生の頃のように笑う、少し無邪気にあの頃より優しい瞳で
コンビニに入って適当にメンズ下着や歯ブラシを入れてレジに行く、奥でレジをする恵の手にあった長方形の箱が見えたが気付かないふりをして共に寝る予定になった狭い家のシングルベッドを頭に浮かべる、ふと通知がやってきたスマホを覗けば

-どう?持ち帰られた?-

なんておじさんみたいな連絡してきた友人には返事はやらなかった、それが返事だと察してくれるだろうから。

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