貴方の心になりたい
昔から子供にはあまり好かれない方だと思っていた、あまり愛想のない人間だと自分を認識していたし、初めて出会った時(家庭の事情とはいえ)えらく警戒された覚えもある
好みのタイプは年上だし、黒髪が好きだけどあくまでそれは一応好みのタイプなだけ、決して好きになる人みんなが黒髪なんかじゃあない…筈だ
「それで返事は」
目の前にいた伏黒恵という少年は数秒前、恥ずかしげもなく「智花さんが好きです」と伝えた2回り以上年上の30過ぎの女に対して、16歳の少年がだ
それも自分は彼の事を4.5歳頃から知っている、知り合ったきっかけがセフレだとはあまり言いたくない言葉だが彼らにはお父さんの友達だと伝えた、何をしていて居たのかは知らないが
「返事って言われても私のことよく見て見なさいよ」
「はい、見てますけど」
「いや、何処がいいのか分からない」
「そりゃあ俺が好きなだけですから」
年々見た目だけはあの人に似てる…なんて思いながらもこの子達の成長を近くで見て喜んだ
変な出会い方とはいえこの子達は必死に生きてきてそれを支えてきたのだから勝手ながらも親気取りくらいさせて欲しかった
「好きか、嫌いかだけ答えてくださいよ」
「いや好きだけど」
「それはライクでしょ、ラブは」
「恵よく考えてよ私もう37だよ恵は16でしょ普通に考えてそんなの変でしょ」
「別に年の差なんて今時珍しくないですよ、遺産目当てとか思うならもっと別の人間狙うし、何が嫌なんだよ」
イライラしてるのが目に見えてわかる、恵は昔から結構短気だもんなと思いつつもテーブルの上にある缶ビールに手を伸ばすもそれは避けられてしまう、素面でこのまま話せる訳ないと思って睨み付けても子供を相手するような冷たい目が向けられた、可愛くない子
津美紀が呪いに掛かってから恵は変わった、思春期特有の反抗を止めて彼女の為に善人を平等に救うと決めた、あぁあの人には無かった瞳だと思った
恵に言えるわけがない、未だに君の父親の無くなった影を探してるなんて察していたとしても伝えられる筈がない
「恵が思うようなまともな人間じゃないんだよ、もうこの話おしまい私お風呂入るから」
覗いたり入ってきたりしたら嫌だよ。と零せばそんな事するかと吐き捨てられた
下着等を片手に風呂場に向かう間も洗い物をする音はいつもより五月蝿くて納得しなくてイライラしてるんだろうなと察した
風呂から出てリビングに戻れば、帰りますとだけメモを残したのは恵なりの考えだろう冷蔵庫からビールを取り出してプルタブを開け喉に通す
「こんな味だったっけ」
そう零しながらテレビを見れば、36歳差結婚をした芸能人夫婦が取り上げられていた
恵達が残したこの家に住んでからもう何年目だったか、出会って共に成長して大人になっていく彼がいつかまともな女性と付き合って挨拶に来てもらって、津美紀が彼氏を連れて来たら簡単には許可はしないぞ、と沢山考えた
部屋の端っこにある棚からアルバムを取り出して、小さい頃から見てきた2人の写真を眺める
「恵のこと振ったって!」
「うわ…めっちゃウザイ人にバレてるんだけどなんで」
「そりゃあ僕にはなんでもお見通しさ」
それから数日後だった、溜まりに溜まった事務作業をほっぽり出して連れてこられたかと思いきやそんな話かと隣に立つ男を睨み上げる
無駄に身長の高いこいつ相手に睨んでも仕方ないかと諦めて少しでも離れさせるために胸ポケットにある煙草を取りだしたが気付いた頃には煙草は散り散りに消されていた
「それよりなんで振ったのさ」
「私がなんであの子達と一緒にいたかアンタが1番知ってるでしょ」
「知ってるけど、別に離れることも出来たじゃん智花の優しさで世話したかもだけど別に僕みたいな人間がいるんだから放っといて良かったでしょ」
「別に恵のことは嫌いじゃない、最低だけどあの人によく似てて付き合って欲しいって言われたらOK出来るし、抱かれる事だって問題ない別にあの人重ねる訳じゃなくて伏黒恵として」
「なら尚更答えてやりゃあいいじゃん」
「恋愛経験が貧しいあんたに分からないよ、大人に恋する子供なんてごまんといるの」
昔の私みたいにね、と軽く鼻にデコピンを入れたくてもよく分からない術式とやらのせいで届くことは無く背中を向ける
恵のことをラブという意味ではあまり好意はない、恋愛経験のせいか人に疲れたのかもう恋をする気力も残っていない、1番好きだと思えた人と結ばれる事などこの世界には無かったしそれが当然だと理解したのは10代だった
「帰らないんですか」
「恵か珍しいねここまで来るの」
「伊地知さんに言われたんだよ、最近ずっと忙しそうにしてろくに寝てないんじゃないかって」
片手にコーヒーのマグを持って事務室にやってきた恵が隣に腰かけてコーヒーを渡してくれる、息抜きすることも忘れており脳が嫌に冷静になる
気まずさと普通に会いに来てくれたことの嬉しさ、そして何より怪我をしていないこと、いつだって彼らは怪我ばかりでそれがまだ子供同士の喧嘩ならどれだけ良かったのか命を懸けた仕事をする彼にまともな顔で喜べるはずもなかった
呪力もなければ、呪霊を見るのもぼんやりとしている自分では窓さえ出来ない、簡単な彼らの後処理程度しか出来ないばかりだった
「寝てないんだろ」
「別に寝てないわけじゃないよ、最近忙しいだけ」
「俺が智花さんに迷惑かけて困らせたって言うならあの時の言葉撤回する」
「え」
「困らせたり、苦しませたりしたい訳じゃない、俺がいつ死ぬか分からないから結ばれたいとも願ってないただ好きなんだ、真っ直ぐ俺たちをみて笑って育ててくれた人に言う言葉じゃないって分かってるけど」
「それでも智花さんが好きなんだ」
コーヒーの味が突然しなくなって固まってしまう、真っ赤になった真剣な顔の恵が立ち上がって、ごめん…と小さく呟いた
あんな顔をさせたかったわけじゃない、私が悪かったんだと言いたくても動けなくて背中を向けられる長い足が1歩ずつ進んでドアに近づこうとした
「なんだよ」
低い声と悲しそうな目はやっぱり親子で似てるなんてまた最低なことを思ってしまう
唾液を飲み込んで声を出す、初めの言葉が少しだけ掠れてしまった
「私も恵が好きだよ、恋人になりたいでも私おばさんだし、恵のお父さんの事だって好きだった気持ちもあるの、そんな最低な人間なのにいいのかっ……なって…おもったの」
「うん、良いよ智花さんが俺のこと好きってそれだけが本当なら俺幸せだから」
言葉の最中に強く抱き締められて思わず肩口から横を見ても表情は読み取れなかった、腕を背中に回せば分厚くなった彼の鍛えた体がはっきりと制服越しに感じられる
いつも使っている洗剤の匂いが香っていて、彼は変わらないんだと思えた
「もっかい、好きって言ってくれねぇの」
まるで恋する乙女みたいに恵が言うものだから恥ずかしくなりながらも抱き締められながら呟くように答えれば、抱きしめた腕に力が込められる
高専に出れば外はもう真っ暗で吐いた息が白くなっていた、もうそんな時期なのかと思いながらも車に乗り込みエンジンをかければ突然助手席のドアが開く
「えっえっ、どうしたの」
「外泊許可貰ってきた、明日休みだし泊まる」
「いやいや私明日も仕事」
「五条先生が休みだって、それより俺の家なのに帰ったらダメなのかよ」
「…変なことはしないから」
そう言って車を出せば恵は黙ってシートベルトをつけてあの人に似た表情で笑っていう
「変な事じゃないから大丈夫だろ」
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