ぴゅあハート

「いいじゃん、なんでダメなの」

光に当たれば輝く巻かれた金髪を揺らして彼女は言った、目の前に立つ如何にも冴えないサラリーマンの男は眉を下げて困った表情をしていた

「ですから仕事もありますし」

「終わるまで待つけど」

「いえ遅くなりますし、それに私はただの補助監督ですからね和泉さん」

「智花って呼んでっていってんじゃんか、つか別にいいってば五条先生には言うし」

「私とあなたは大人と子供なんです、立場ってものがあります」

あぁこの子は純粋に自分を好きになってくれている。と理解したのは1年前入学前に彼女は高専に来ていた
その頃は真っ黒な髪に普通の学生だった、ある日一般家庭内で特級が突如現れ彼女の家族を奪った、いつからか気付かぬうちに家に密かに住み着いていた呪霊はいつの間にか大きくなり殺した、街中であったが故に早急に五条悟により祓われたが彼女を見つけた伊地知が初めに保護をしてメンタルケアをした
彼は何処までも優しかった、優しくまともが故に慣れなかったのかもしれない救われた少女智花には呪力があり更には力の使い方も知っていた

「あんな人達死んだら良かった…ついでに私も」

ベッドの上で全治1ヶ月の怪我を負った少女はそう言ったのを伊地知は嫌という程理解した、家族関係等を調べれば彼女がそういう理由も分からなくはなかったがそれでもただの15.6の少女がそんな発言をする事が心苦しかった

「そんな事言わないで下さい、貴方が救われたから私の心も救われるんですから」

華奢な両手を握ってそう伝えれば少女は涙を零して赤子のように泣いた、ずっと泣くことも忘れて絶望の縁をさ迷った結果だろう
それから智花はグングンと成長して、今では同期の恵同様2級呪術師になった程だった

「私が大人ならいいんだ」

「そういう訳じゃ」

「ふぅん、でも今度の休みは絶対付き合ってよ」

「善処します」

鼻を鳴らして彼女は背中を向けて言った、あの日から彼女は恋心を隠さず伝えた、高専に入ってすぐに好きだと言われ答えられるわけがなかった
子供と大人、いつ命を落とすのか分からない世界で彼女の全てを貰う様な事になる、簡単で単純な子供の告白でない事は目を見ればわかる
短いスカートに少し懐かしいルーズソックスも長い爪もピアスも彼女の個性であり自由だった、それを満喫して欲しい若く生きているうちこそが花である、自分ではなくて別の人を好きになって欲しいとそう願うのは臆病だからでもあるのだろう

「ねぇそろそろ付き合う気起きたでしょ」

「いいえ、いつも通りですよ」

「つまんないのこんなに貢献してるのに」

「貢献度と好意は違いませんか」

「でも仕事する方が伊地知くん喜ぶじゃん」

「そりゃあまぁ」

最後の1匹を倒しきった智花が建物から出てきてはそう告げる、困ったような顔をいつも通りしても智花は気にした様子もなく助手席に乗り込む
スマホを弄ることなく運転している間黙って運転中の伊地知を見つめては軽く話をする、任務で疲れたことコンビニスイーツが食べたいこといつ付き合ってくれるのか、いつも通り代わり映えない話車をコンビニの駐車場に停めて降りる

「私外で待ってるからミルクティーホットで」

距離があった任務の為か帰り道は流石に車の椅子に疲れて外に出てきた智花に了承してコンビニに入る、栄養ドリンク数本コーヒー数本と欲しがっていたスイーツとミルクティーをカゴに入れ会計する勿論領収書は忘れずに
ふと外を見つめれば同年代の少年と話をして笑う智花がいた、ちくりとする胸の痛み等知らないふりをして自動扉を通る

「なんで置いていくの」

「話していたから邪魔かと」

「声かけたのに無視するしホント伊地知くんって分かりやすいよね」

「そんな事ありません」

それ以上何も言わずに智花はレジ袋からミルクティーを取り出して一緒に入っていたスイーツに目を輝かせた、食べてもいいよと伝えるも帰ってからね!と大きく返事をした智花は幸せな顔でストローに口付けて帰り道の街並みを見つめる
同年代の異性と話をする彼女は平凡な高校生だ、あの事件がなければ普通の高校で友達を作って家族に反抗していたとしても一般的な生き方が出来たのではないかと思う、考える度に自分では不釣り合いでいつか飽きられてしまうことの怖さ、置いていかれることへの怖さが強くなる
伊地知とて恋人がいなかった訳では無いが仕事優先をした結果フリーになった、呪術師の女性は多くはない出会いもそこまでなければ恋人を求めることも無い
だからこそ智花は新鮮でピュアでまるで一輪の花のようだった

「私伊地知くん以外好きになんかならないよ、死ぬ覚悟はあるけど死ぬ気なんかないし」

「そうですか」

「年下とか嫌い?ガキ臭い?」

「いいえ、全く思いませんが智花さんは特別なんです」

手折れそうな花を自分で拾ってその花がまた凛々と咲き誇って自分にその美しい姿を見せてくる度に、自分がただの道端の石だと思える
下品に紙パックジュースを飲みきった音が車内に広がったあと口を離して静かに響く

「次の任務最後にするから、次からもう伊地知くんじゃなくていいよ」

伊地知は智花や五条悟専門と言えるほど多かった、特に智花は専属だったそれ以外の車には乗らない乗るくらいなら徒歩で行くと言って聞かずに帳も自分で開くから結果だけ待っていて欲しいと言う始末だった
もちろん実力は1級である智花が出向けば任務は直ぐに終わるので問題は何も無いが高校生である為にそんな簡単には許可はできない
両親が亡くなり親戚とも関わりがなく1人になった彼女の親代わりは伊地知だった、家も食事も生活も全て助けてやった、からこそ尚更様々な感情が智花に出てしまう
親として、男として、仕事として、それでも智花は気にもせず土足で上がり込むばかりだった
先程告げられた言葉が頭の中で回り続ければ回数を増す毎に腹痛さえやってくる

「…畏まりました」

絞り出した声が震えていなかったか心配になりながらも高専に車を停めて智花が降りる、軽く挨拶をして彼女の背中を見つめるのは何回目か隣を歩くことが出来るのは同じ強さがある者だけだ
伊地知には何も無い、富も権力もルックスも性格も無いと信じている平凡でつまらなく弱者であると信じているのだ、そんな事がないと誰が伝えたとしても。

「ではお気をつけて」

「うん、ねぇ伊地知くん」

「はい?」

「私やっぱり伊地知くんが大好き、助けて貰ったからじゃなくてあの時誰よりも優しく抱き締めてくれたから…伊地知くんって弱くないしかっこいいし優しいんだよ、まぁ返事後で聞くけど振られても諦めないけどもう言わないからよく考えて返事してよね」

じゃあ行ってきますと今日も綺麗にカールした髪の毛が揺れていた、ポケットから覗くストラップが沢山ついたスマホがキラキラと光っていたそれでも答えは変わらない
1時間たっても連絡は入らない、何か問題が発生した可能性を考慮し近くにいる2級呪術師の手配も済ませ帳の中に足を踏み込む静まり返った現場に恐る恐る進めば真ん中に智花は倒れていた

「…い、じちく?」

「智花さん!大丈夫ですか!呪霊ですか!」

「はらったぁ、けど結構やばい」

そう言って意識を飛ばした智花に早急に帳を解除し車に乗せる、現場の後処理は先程頼んだ呪術師と共に来る補助監督に任せるようにメールを早急にうち高専に戻る
事前連絡をしていたおかげで定時が過ぎたにもかかわらず居てくれる家入の治療のために智花を置いて部屋を出る

-伊地知くんのこと好きです-

初めてそれを言われたのは出会ってから二ヶ月後だった、助けてもらったことに対してだと思い「ありがとうございます」と返せば彼女は真剣な顔で、恋愛的な意味ですと公言した、10個以上下の子供にそんなことを言われて答えられる訳もなく拒んだ
それでも負けることなく彼女はずっと言い続けた、だが任務前の言葉通りならそれも最後なのだろう

「お見舞い来てくれた嬉しい」

「もう大丈夫ですか」

「平気、少しまだ体痛むから2.3日は任務ダメって」

「本当に焦りましたよ、死ぬんじゃないかって」

智花の私室に入って部屋の中に最近流行りの原宿のカップケーキを置いてやれば嬉しそうに手を取る
ベッドに座る智花が立ち上がろうとするため制し、手馴れた形で部屋にあるコップと紅茶の袋を取り電気ポットからお湯を入れ渡してやる、一緒に食べたいという智花に仕方なくコーヒーを入れてベッドに腰かけカラフルなカップケーキを手に取る

「来るなら先言ってもらわなきゃ私メイクもしてないのに」

「構いませんよ、あまり見る機会ないですから」

「見せたくないよ可愛くないし」

「そんなことありません、可愛いですよ」

「伊地知くんのそういう所ずるいよね、私好きなのにそんなの言われたら勘違いするよ」

マグカップをサイドテーブルに置いた智花が伊地知の手を取って目を見つめる、普段と違うカラコンの入ってない目もキツくない素の顔の智花も久しぶりに見たような気がした

「伊地知くんの返事聞けないのに死ねないから、教えてよ」

「え、あぁ、そうですねえっと」

「付き合うの、付き合わないの」

「付き合います!」

急かすように智花に言われ思わず本音が零れた、いや違う違わないけど違います。と慌てて言う伊地知がふと静まった智花の顔を見ればまるで林檎のように顔を赤くした少女がそこにはいた
何も発することなく静かに涙が溢れていく智花に驚いてどうすればいいのかも分からずにマグカップを隣に置いて抱きしめてやる

「ほんとに付き合ってくれる?」

「…はい」

「好きでいてくれる?」

「はい」

「私も潔高さんのこと好きだよ」

「えっ!あの名前」

「ダメなの?」

胸元に顔を埋めていた智花が見上げて驚いた顔をした、今までの呼び名から変わったことに驚くもダメだと言いきれずにいれば離れた智花の顔が近付き思わず彼女の肩を掴んで離し真っ赤な顔で伊地知は見つめた

「なっなっ何しようと」

「キスだよ、恋人なんだから」

「ダメです!そういうことは卒業するまでしませんよ」

「何それ今どきの小学生でもキスくらいするのに!」

わーわーきゃーきゃーと叫んで暴れていれば隣の部屋の野薔薇が鬼の血相で入ってきては怒鳴りつけた、だがしかし智花の言った言葉に同意して2人して伊地知に説得するのはすぐの事だった。
そしてまだどうやらこれから先も智花専属の補助監督になるようだ

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