取り敢えずメアド交換から
※全員生きてるし平和時空
普通・平凡・常識的・一般論
などといった言葉が、焦がれる者など滅多に居ないだろう、だがしかしその少女は心底それを願って止まなかった
智花は捨て子であった、幼く弱い彼女を拾ったのは6歳になったばかりの創一だった、おくるみに巻かれて泣くことも無く目を開いて抱き上げた彼を見て微笑んだ彼女を見て次に隣に立つ付き人を見ていった
「妹にしたい」
と、創一の願いを父は大いに笑い賛成してやり、智花は切間の家の娘になった毎日スーツの屈強な人間が行き交う巨大な屋敷のような家の中で何年も過ごし、学校に通いながら気付いた事は自分は平凡でないということ
毎日送り迎えがあり、家は大きく欲しいと願ったものは伝える前に用意される生活に疑問を抱かなかったがふと12歳なった時に気付いたのだ、そして中学に進学する時にはエスカレーター式の大学まで確立された学校に入学をさせられ自分が特別な家にいることに気付いた
元より学力も運動神経もとびきり良かったのは彼女の才なのか、はたまたこの家に来たからなのかは分からなかったが特別な子供になった
「…私高校は別のところに行くっていったでしょ」
「ダメだ智花、絶対にパパは許さん」
「お兄ちゃんも許さない」
漸く家族3人揃って食事ができた、専属立会人として付いてくれていた夜行さんには伝えていたが、この今の学校から離れて遠くの学校に行くとようやく決心をしたことは拒否された
「私だって少しは世間のことを知りたいし勉強したいんです」
「ぐはぁっそう言われたらやらせてやりたいのが親の気持ちなんだがな」
「だとしてもそんなに遠くじゃなくていいだろう」
「ッ私は2人のお人形じゃないんだもん、少しくらいいでしょそんなに人形扱いするなら2人とも嫌いだから」
「「「あ」」」
ふと周りにいた立会人達が突如声を揃えたかと思いきや父も兄もテーブルに突っ伏して血を吐いていた、泣きそうな声で「嫌わないでくれ」と言った兄に冷や汗をかきながら「ごめんね」と零して以降、嫌いという言葉は完全なるNGワードに変わった
あの事件の後すぐに栄羽に言われたことは、2人は心底愛しているゆえに心配なのだということ、離れることは子供は当然だがまだ心の準備ができていなかったと出来る限りは従って欲しいとも
特に兄は健忘症を患っているが必ず自分のことだけは忘れなかった、だからこそ余計な心配はかけるべきでは無いかとも考えた
結果として高校は転校許可がおり女子校に変わったはいいものの家からは近く超有名校であり倍率もとてつもなく高いかった…そんな所に何故か推薦で入ったのは2人のせいだろう
「いらっしゃいま………お疲れ様です門倉さん目蒲さん」
「智花様もご苦労様です2人ですが空いていますか?」
「えぇいつものとこで空いてますよ、すぐお水出しますね」
高校生になって新しい環境になって直ぐに父と兄に相談したことはバイトをする件についてだった、これについては猛反対の嵐であり立会人達でさえ反対だった
いつまでも子供扱いされても困ると言うと理解されず結果隠れてファミレスのアルバイトを始めたものの、採用された次の日にバレた
葬式の帰りですか?と聞きたいほどの黒スーツの集団が店を埋めて行き、いらっしゃいませと言う度に知った顔が嬉しそうに来店してきて研修を受けている間でも気にせずやってきた
「ちょっと!鉢名さんオーダーミスしてるよどうなっ……まぁ次から、ね」
土日の多忙な時間にミスをした時も他の人に怒鳴りつける店長が黙る理由など分かっていた、兄の一言でこの店は一瞬にして潰れるし店長はきっと店長で居られなく事くらいは馬鹿な高校生の智花でも理解していた
だとしても汗水垂らして働いて得られたお金は今まで与えられていたブラックカードや札束より重たいものだった
「お兄ちゃんよかったらこれ…」
「…タイピン?どうしたのこれ」
「アルバイトのお給料初めて入ったの、いつもスーツだしこれならあわせれるかなぁって…パパより先に渡しちゃってるから言わないでね?」
「すごく嬉しいよ智花、お礼に何か欲しいものは?行きたいところとかはある?」
「平気だってば、それよりもお兄ちゃんやパパが元気にしてくれたり一緒にご飯食べれたりする方が私ずっと幸せだから…って泣かないで」
兄は普段感情が乏しいと思われがちだがそんな事は無い、優しくいつだって喜怒哀楽が激しくただ少しポーカーフェイスが得意なだけだろう
「智花様随分とご機嫌ですね」
「うん、お兄ちゃんもパパも喜んでくれたから」
「それは大変宜しかったですね」
「来月はね、もっと頑張ってお給料貰って妃古壱さんと丈一さんとかみんなにも買ってあげるの」
学校への通学の車の中で妃古壱に言われた言葉にどうせプレゼントはいつかバレるし、1人にあげたら全員が欲しがることは分かおり昔バレンタインに父と兄そしてその日の専属であった伽羅にプレゼントをしたところ争奪戦になり死人がでかけた
それらを考えて高くなくてもそれなりの物を全員分頑張って買えばいいと思い行動をした、あくまでこれは皆へのプレゼントの為であるのだ
そう伝えたところ運転中の妃古壱がふと目頭を抑えたことに智花は首を傾げつつ、到着したところで車から降りる「今日もバイトなので終わったらお伝えします」と一言告げて校門をくぐった
学校内は女子校故に女の子しかいない、恋の話や最近の流行り事が話の中心で智花もそれを楽しんでいた時ふと友達が言った
「智花ちゃんは好きな人いる?」
「そうそう、この間の送って貰ってたスーツの方もかっこよかったよね」
「強面な感じがぐっとくるよねぇ、あっでもその前の渋いおじ様も」
ピシッとまるで魔法をかけられたように手足が固まった、みんなは彼氏や好きな人バイト先にいるかっこいい先輩の話をして盛り上がっていた事に自分が色恋沙汰から随分離れていたことに気づく
異性にそういった誘いがないわけでなかった、今のバイト先にはキッチンの年上大学生がおりバイト先の女の子みんなと1回ずつデートしたと言うほどの人もいて声を掛けられたが次の日から来なくなった…そしてその原因は家にあることは知っていた
「私も好きな人欲しいなぁ」
ふと、出会いの無いことに気付いてそう呟きながらやって来た数学教師をみれば腰の曲がったヨボヨボのお爺さんであった、若い男の先生なんていないのだと思いつつ眠気と戦いながら授業に勤しんだ
そんな智花に転機が訪れたのはある日のバイトへ向かう途中だった、突然の大雨に折り畳み傘を使って向かった時ふと店の前で困った顔をした男性が立っていた
「あのどうかしましたか?」
「えっ、あぁ傘忘れちゃって軽く出たけど大雨で濡れちゃったからどうしようってなってて」
その言葉にふと彼を見れば確かにTシャツは濡れてしまって、髪の毛もセットを乱していた、ふとカバンに入れていた使わなかった大きめのタオルと傘を渡す
「私帰り迎えが来ますし、タオルも使ってないので平気ですからどうぞ」
「えっそんなの悪いですよ」
「いいんです、私ここでバイトしてますから」
「…じゃあ今度返しに来ますからお名前教えて貰えますか?僕は梶隆臣と申します」
「梶さん…私鉢名智花です」
気分がよかった、ミュージカルに出ている人物が突然歌い出す気持ちがはっきりとわかる気分で智花は上機嫌に仕事をした、大雨で暇だとしても休憩時間になったり仕事終わりの立会人達はいつも通りここに来てお茶をして帰るものだった
「機嫌良さそうですねぇお嬢様」
「へへぇ分かっちゃいますか?」
「まぁそんな顔されてましたら」
「弥鱈さんは恋ってしますか」
「経験はなくないですね」
「そっかぁ」
1人で窓際を座っていた彼にコーヒーを入れるために近づいて話をすれば、少し驚いた顔をするがすぐに気にした様子もなく軽い雑談に付き合ってくれる、皆同じスーツ違うのはネクタイについたタイピン、まだまだ渡せていない人はいるがいつか全員分渡せるように…と願いながら仕事をすればするだけやる気も出てくるものだと感じつつも先程の男性が忘れられなかった
「はぁ…かっこよかったなぁ梶さん」
ぼそっと呟きながら洗われたばかりのスプーンを拭いて片付けていく、客席には疎らに一般人と一緒にサラリーマンの振りをした知り合いが沢山いたがいつも通りのため気にすることなく仕事をした
それから永遠に頭の中から離れられなかった、爽やかに笑う好青年のあの人を…
「プリンアラモードとドリンクバー」
「リブステーキ2人前Bセットで」
「では私はドリンクバーで」
「私も」
そして日曜日滅多に見ない客が現れた、兄と立会人の父と棟耶と栄羽だった、そして普段よりも明らかに黒服の知り合いが多く店長は胃痛で早退した
「はぁい…ってお兄ちゃんとパパがどうして、こんなに暇じゃないでしょ」
「気になることが出来たから来てみたんだ慣れてきた?」
「うん、そりゃあもう半年だしみんなの分のプレゼントも順調だよ」
「それより智花、好きな人が出来たのか」
あまりにも大きな声で話した父に思わず智花は手に持っていた注文を打つ機械を落としそうになり、声が裏返りつつも返事をした
「そっそっ、そんなわけないじゃん!」
「智花様は大変わかりやすい可愛らしいお人ですね」
「棟耶さん違うってばあっお仕事しなきゃだから、あんまり変な事せずにすぐ帰ってね」
深い溜息をつきつつ料理を取りに行くまでで沢山の立会人たちに絡まれては似たような話を聞かされる、さては前回の弥鱈立会人と話した内容でみんな知ったのだと理解した時には遅く皆まるで噂話の好きな主婦のように感じた
というより賭郎は暇なのだろうか?とも思いつつ見当たらない面々は立会でもしているのだろうと察して日曜の昼の営業を忙しなく動き続ける、入店チャイムがなり思わず席を見てみればあと1席しか残っていなかった
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「よ、4名です」
「あっ!梶さん」
まるで疲れが飛んだような感覚でふと後ろには懐かし伽羅がいてはしゃいでしまう、四人できたのか銀髪の人と伽羅のように大きな青年がソワソワとたっていた
「席があそこしかないんですけどいいですか?スーツの人多いけど常連さんなので気にしないでくださいね」
「へぇ、常連さん達殺気立ってるけど大丈夫?」
「??はい大丈夫だと思います」
メニュー表を持ちながら席を案内したが間違いだったのかと思う、まさか兄とその銀髪の男、斑目貘が知り合いだとは思わなかった
適当に退散してお水を出しにもう一度行けば兄も貘も気にした様子はなく話をしていた
「智花さんこれこの間のお返しに来たんです」
「タオル新しいのにしちゃったんですか?」
「はい、やっぱり僕が使ったの渡すのはどうかな…って思って、すみません大切なようならすぐ返しますし」
「大丈夫ですよ、傘まで態々ごめんなさい」
前回渡した折り畳み傘と一緒に渡されたのは新品のタオルでわざわざプレゼント包装までして紙袋に入れて渡され思わず微笑んだ瞬間だった、隣から伸びてきた手が中身を見始めた事に思わず固まる
「パパ何してるの」
「ん〜?俺の娘に何されたのか確認してるだけだ」
「お兄ちゃんも何してるの」
「変なものが着いていないかみてるんだ」
渡されたばかりのタオルの包装を破って見ていく兄も、返された傘の骨を折りそうな勢いで見ていく父にもそして何故か集まる立会人達にも思わず智花は必死に取り返して胸に抱えた、渡した張本人梶を全員で睨む始末でマルコと呼ばれている青年も貘も伽羅も気にした様子はなくメニューを見ていた
「梶様もしや智花様を」
「梶様といえど許されません」
「そもそも嘘喰いが何故智花様の元に」
次々に飛び交う疑問の嵐に智花は深呼吸して叫んだ
「私と梶さんの邪魔しないで!じゃなきゃ皆"嫌い"になるんだから」
智花はここ数年で理解した"嫌い"という言葉の魔力に、ふと気付いた時には立会人父兄含め胸を押え倒れていたことに顔面蒼白になり梶の手を取りバックヤードに引いていく
後ろから聞こえる声も気にすることなくバックヤードの自分のロッカーに荷物を放り込んで改めて目の前の梶を見上げた、疲れたような困った顔をする彼に心底申し訳ない気持ちになった
「ごめんなさい、あんな知らない人達に責められて」
「いやまぁ知らない人じゃないんですけど、みんな智花さんのこと大切なんですね」
「そうですね少し過保護のような」
「いやでも僕別にそれ以上は特に関わったりしないようにするんで大丈夫ですよ」
眉を下げてそういった梶に智花は思わず俯きながら彼の手を取って、じっくりと瞳を見て話す
「そんなこと嫌です、私梶さんのこともっと知りたいです…それとも、私は嫌ですか?」
現役の女子高生に、かわいい女の子にそんなことを言われてNOと言えるはずも無く梶は固まってしまう、空いている片手をどうすればいいのか分からずまだ知り合ったばかりのこの子にどの返事をするのが正しいのか分からずにいた時だった
大きな音を立ててドアが崩れ落ち複数の顔見知りの立会人達がそこにはいた
「お兄ちゃんは認めない」
そして華麗に立っていた兄、切間創一はタイピンを手に握って席に戻った、立会人達も次々と「認めない」「智花様お戻りを」「お幸せに」と様々な声をかけられ戻っていく
残された梶と智花は顔を見合わせて疲れきった顔でため息をこぼした
「僕も智花さんのこともっと知りたいのでさっきの話よければ…」
「っはい!」
2人は友達から始まったが今はまだ知ることは無い、その道が険しく大変だということを
まだメールアドレスを交換したばかりの2人には知る由もなかった。
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