キャンディひと粒
「今日誕生日なんだっておめでとう!」
ドアを開けた途端にクラッカーを鳴らされ思わず目を丸くすればそう大きな声が聞こえた、朝から貘くんは元気だと智花はふと冷静な頭で思いながらもいつも通り部屋の中に入る
近ごろは少し大人しく、なりを潜めているためか暇を持てあまりしているらしい
「智花おはよう」
「おはようマルコ、朝から元気だね」
「うん、誕生日って聞いたおめでとう」
「ありがとう」
いつも通り大きなその子供のような彼の抱擁を受けつつ目の前にいる貘から手に小さな箱が渡される、つい先日欲しいと零していた時計がそこにはあり目をまた丸くして顔と時計を交互に見た
「誕生日プレゼントだよ、欲しいって言ってたでしょ」
「で…でも高かったよこれ、本当いいの」
「智花が普段頑張ってくれてるから、それくらいさせてよ別にそのくらいの金額ならまたすぐ取り返せるし」
確かデパートで見た時は500…始まって0の数は数えるのも面倒くさかった金額で買うのは諦めたものだったが気にした様子もなく渡されれば返すことも出来ずに子供のようにはしゃいでいれば後ろからまだ抱擁した腕を外さないマルコが悲しそうな顔をしていた
「どうしたのマルコ、お腹痛い?」
「違う…マルコ智花の為のプレゼント用意していない」
「いいんだよさっき言葉で伝えてくれたし」
「ダメ、智花のことマルコは大好きだからちゃんと祝いたい」
そう言われてしまえば嫌な気持ちになる訳もなくソファーで横になりゲームをしていた貘がふと顔を上げて財布を投げた
「その中のお金なら好きにしていいし智花とプレゼント選んでおいで俺もうちょっと寝るし」
「貘兄ちゃんありがとう!いってくる」
「貘くん本当いいの?お金大事だよ」
「んーいいよ、どうせすぐ倍以上の金額は帰ってくるしそしたら智花にも働いてもらうしね」
いつも通りの優しい表情で言われれば断ることも出来ず、マルコも機嫌良さそうな顔をしていた、とはいえ寝起きだったのかスウェットのまま行くことも出来ずにマルコの服を用意するところからのスタートとなった
用意が出来れば外に出る、泊まっていたホテルも都市部の真ん中で非常にアクセスがいい…そのおかげで買い物はしやすく万が一荷物が増えてもまたフロントにおいてを繰り返せばいいだけだった
念の為…と失礼ながら財布を覗けば常人の知るはずのない財布の厚みも札束が入っており頭を抱えそうになる、マルコ自体はあまり理解していないことも多く買えるものならなんでも買おうと言うかもしれない、その為に金額の範囲でと考えたがその考えももう消えてしまいそうだった。
「マルコはなにかプレゼント決まってるの」
「何も決めてない智花が欲しいやつ」
「私かぁ」
欲しかった時計は貰って、最近マフラーも買い換えた、服も近頃欲しいものはなく、ゲームなんて対戦したいという理由だけで貘が買って渡してくる、アクセももし何かあった時の命取りになりかねない存在はあまりつけたくも無いと、自分で考えれば欲が無いのか意見がはっきり出てこなかったのか優柔不断だった
「マルコが選んでくれたやつがいいな」
「マルコが?」
「そう私のこと考えて悩んで選んでくれるもの」
「分かった、じゃあマルコが選ぶ」
子供のような大型犬のようなそんな彼に釣られて笑って手を握り直す、大きすぎる彼の手のひらの中に小さな自分の手があってこれじゃあ子供はどっちなのか分からなくなるなと感じつつデパートの中に入った
「違う」
マルコがそういったのは入ってすぐだった、こういった店に来るのは珍しくはない緊張もしないのだろう、金額等で引くことはなく反対に一般人よりも別の意味で感覚がズレているために気にすることも無く堂々としたマルコはどのブランドを見ても、服もカバンもアクセもコスメも違うといい頭を悩ませた
自分のせいで余計に頭を抱えさせているのはどうかと考えて、1度昼食がてらカフェに入って何か適当に欲しいものを考えるか…と思いながらカフェラテを飲んでいた時だった
「マルコもういいよ?私ほしいもの出来たかも」
「本当?!」
「この後買いに行っていつも通り少し遊んで帰ろうか」
ぱぁぁっと花が咲いたような表情をしたマルコは上機嫌に戻って頼んでいたパフェを口に放り込んでいって3口目で綺麗に消えてしまった
お会計を済ませて手を繋いでデパートを出て歩き始める、どうせ買うなら2人で楽しめるものがいいと考えて住宅街を歩いていればソワソワとした様子で周りを見るマルコに少し笑えてしまう
「はい、ついたよ」
「ここは?」
「駄菓子屋さん、お菓子が沢山置いてるのここの中から300円くらいでお菓子買ってきて欲しいな」
「お菓子を300円で買う」
「できる?」
「できる!」
外で待っていると伝えて外から中で奮闘する彼の姿を見る、あぁでもないこうでもないと唸りながら沢山の駄菓子に囲まれるマルコが新鮮で携帯のカメラを向けて1枚撮る
なにもプレゼントは物だけが全てじゃないと思いつつふと見上げればマルコは嬉しそうな顔で立っていた
「買ってきた!智花にはこれ」
「ありがとう…ってこれなぁに」
「飴ちゃんあそこのお店の人に聞いたらこれ美味しいって」
滅多に見た事のない少し大粒の飴玉に目を丸くして、古い箱に入っていた飴玉のように個包装ではなく金魚すくいで捕まえた時に貰える巾着式の服に入ったそれは薄いピンクにキラキラと光っていた
「これで300円?」
「うん」
「そっか、マルコの分は買ったの?」
「買ってないよ、智花の誕生日プレゼントだけ」
「私からも選んでいいかな」
「じゃあマルコ外で待ってる」
「一緒に行けばいいのに」
「智花外で見てる時楽しそうだったから、マルコも外で待つ」
そんな顔していただろうか?と疑問を抱きながらもドアを開いて狭い駄菓子屋の中に入った、折角だから同じ飴玉にしようと思い亭主に声をかければもうあれが最後だと言われてしまい仕方なく大粒の別の飴玉を3つ購入して出ていけばまるで待てをしていた犬のように彼はうずうずとした顔でそこにいた
「楽しかった?」
「ドキドキした」
「そっかそろそろ帰ろう、貘くんも1人は寂しいだろうしね」
「うん、智花は何したの」
問われたことに忘れるところだったと慌てて袋を渡せばクリスマスプレゼントを開ける子供のように希望に満ちた顔で袋を開ける
「マルコのと違う」
「300円のやつはもう無いみたいでね、別のやつ選んだのどうかな」
「凄く嬉しい智花大好き」
「え、あっうん、私もだよ」
まるで熊のような大きな身体で抱き締められて持ち上げられれば思わず驚いてしまうがこんなプレゼントも嬉しいものだな…と思いながらマルコの首に腕を回して抱き締め返した
ホテルの帰り道に飴玉を舐めてその事を貘に伝えれば彼は至極羨ましそうな顔をしたのはスグの事だった。
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