女王と犬
♀スティーブンと♂主
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暗い霧の夜、氷の上に佇む姿はまるで女王だろう
程よい筋肉が付いた脹ら脛や、肌触りの良さそうな太もも、細すぎない全体の脚は20デニールの黒いストッキングに薄く隠される、肌色と黒色が混ざり合うそこはまるで男を誘うようだ、ショートヘアから覗く顔の大きな傷も女でありながらも何処までもミステリアスを誘い、首筋から見える赤いタトゥーは足まで続いているのが分かるせいでその美しく着飾ったスーツの下までも探りたいほど
「智花、ぼーっとしないでくれ」
「すみません、良ければ僕の腕掴んでください」
「すまないね、全く私は忙しいのにザップ達め何してるんだか」
文句を吐きながらも自身の腕を掴んで氷の山から降りてきたその女王の爪先は綺麗に切り揃えられてネイビーのネイルが施されている
薄いメイクだとしても整った顔は変わらない、頭一つ半下の年上の女王は上司だ、そして飼い主である
「お腹空いたしサブウェイ行って帰ろう、今日も残業だろうしおやつも買っていこうか」
「毎日サンドイッチだと体に悪いですよね」
「なら君が作ってくれたらいい」
「サンドイッチしか作れませんよ」
如何にもなアメ車を運転しながら智花は後ろタバコを吸うスティーブンをバックミラー越しに見つめた
騒動が一悶着してしまえば街はまだ少し静かになった、一昨日からクラウスが実家に呼び出しをくらった為に書類仕事は減ること忘れてスティーブンの机の上で溜まり続けた、そろそろ限界だったのか事務所が冷えていく程でみんな逃げていく、その結果スティーブンの秘書兼ボディーガードの智花しか残らなかった
レオナルドはバイトにザップは新しい愛人にベタ惚れ、チェインも人狼局に忙しく、K.Kは別任務、ツェッドが処理する書類はそもそもない
そうなれば必然的に智花しか手伝う相手もいないのは当然のことだった
「女性が体に悪いですよ」
「クラウスがいないんだケチケチしないでくれ、彼女がいたら吸ってないだろう」
「出来るだけ僕は貴女の健康状態を気に来てるんですけどね」
「いつから過保護になったんだい」
「飼われた頃からですかね」
いつもの見慣れた緑の看板が見えて店の前に車を停めて店内に入って二人分を注文して外に出れば車から出て煙草を吸う彼女に声をかける異界人と人間の2人組は下品に彼女の両サイドを挟む
腰に差していた刀に手をかけそうになりながらも、その事さえ楽しむ事を知っている性格の悪い彼女を喜ばせないように怒らないように近づく
「どっかに行けよ、僕の女(ヒト)なんだ汚い体を寄せるな」
「アァんだこのヒョロ男」
「こんな奴より俺らのがいいんだってよ」
「ごめんよ智花、彼等の方が楽しそうだ」
そういって腕をその金髪の男に絡めて顔を近づけた、気分が高揚する2人組に智花は強く睨みつけてスティーブンの腕を強く掴んで引っ張り車のドアを乱暴に開けて誘拐かのように彼女を車の中に投げ込んで閉めた
予定通りなのだ、時折この女はそういう意地悪をしたがるのを知っていたが我慢ならない
軽く鞘から開けている刀に指を這わせて地面に血を落として呟く
『鬼倒四十六氷柱」
智花はそう呟いた後に男達に背を向けて愛車に乗り込んだ、さっき買ってきていたサブウェイをいつの間にか開けていた彼女は満足そうに頬に詰め込んでクスクスと上品に笑う、遠くで聴こえる人々の喧騒も聞こえない程に苛立ちながら事務所へ車を向けていたが、後ろに座っていたスティーブンが智花に近づいた
「私の家でいいよ、もう今日は帰って家でするよ」
「わかりました」
苛立ちが指先に溢れハンドを握る手は信号待ちの度に貧乏ゆすりのように動く、後ろに乗っているスティーブンはそんなことも気にした様子はなくノートパソコンに向かって溜息を零しつつ仕事の続きを始める
15分程すれば着いた安全性の高いマンションに着いて部屋まで向かう、ドアの鍵を開けて慣れたように荷物をいつものソファーに置いて智花は夕飯の用意を先にするためにもキッチンに向かおうとした
「智花」
スティーブンがその低い声で名前を呼ぶものだから彼は黙って近づいた、それは合図なのを知っている
ソファーに座る彼女の足からガラスの靴のようにぴったりのそのピンヒールを外して見上げればまだだと彼女は言いたそうに暗い部屋の中でも消えぬ緋色の目で見た
失礼します。と声を出して彼女のスーツスカートの下にある薄いストッキングを脱がしていく、冷たく白い肌はまるで病人のように感じられる、日々氷を使うその足は必然的に寒さに慣れるのだろうが智花が慣れることは無かった、ストッキングを脱がせれば手と同じネイビーカラーのペディキュアが見られた
「舐めていいよご褒美だ」
まるで智花を理解しているように彼女はそう言ったと同時に智花は爪先に口付けた
恍惚とした瞳で指先1本ずつキスをしてタトゥーをなぞる様に舐める犬のような彼に下腹部が疼く
この男はスティーブンの為ならなんだって出来る、彼が持つ部隊とはまた違うが、彼なりの正義を持ってしてやるのだ
怒り泣き喜ぶ犬がいとおしくて仕方がないだろう、足を舐め続ける彼の顔に手を這わせる
「これからも私の為に頑張ってくれるね」
「…えぇ」
そういって智花は赤いタトゥーと別である彼女の足首にある小さな十字架のタトゥーに口付けた、まるでそれは忠誠を誓う騎士のよう。
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