どうしようもねぇな


人生の中で男に言われることはいつもおなじ

「お前って俺が居なくても平気だろ、あの子は俺じゃなきゃダメだから」

いつもそう言い訳をする男たちに、あっそう、と答えるがその答えでさえも間違いなのかなんとも言えぬ顔で背中を見せるその姿に追いかけたいとも思わない
男はいつだって欲しがるだけで与えようとはしない
目の前で情けない程に床に平伏して泣きじゃくる赤錆色の髪色の男は人生で初めて見るほどに無様な男だ

「おれちゃんとするからごめんなさい捨てないでください俺貴方じゃないと無理ですダメなこと全部治しますしなんなら俺今すぐ死ぬから」

「いや死ななくていいし、つか邪魔なんだけど」

観音坂は弊社の取引でやってきた営業だった、目の下に深い隈を作って彼は我社の裏で電話を終えた後にブチ切れてゴミ箱を蹴り飛ばしていた
相当ヤバいやつだと思わない訳もなく、タバコを吸いながら見つめていればじとりとした不気味な瞳が見つめてきたのは鮮明に覚えている
それから何がどうあれ付き合うようになった、観音坂は言いたくないが時折ネジが外れる、なので今も家に帰ってきてたまたま泊まりに来ていた彼が私のお気に入りの皿を割った事に土下座をしている
土下座だけでもはた迷惑だが、涙で床を汚して皿の片付けは一向にされる気配もない
玄関で土下座する観音坂を跨いでキッチンに行けば確かに自分のお気に入りだったお皿は粉々になっていた

「観音坂泣く前に片付けてくれない?後お腹すいたしご飯早くして」

「うぅ、はい」

風呂の用意してるよ、なんて気の利く言葉を出した観音坂の頭を撫でれば甘えてくる
この男は私がいなければどうしようもない気がした観音坂はそれでも今日も仕事に行って文句を言われて帰ってきては私に足蹴にされる、どうしようもない男なのだろう。


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