キャンバス



「そう、左馬刻も一人前の男になるんだね」

何度も世話になった女に背中を向ければそう言われる、暗い部屋の中で数えきれない写真や絵が貼られていた、そろそろ絵を彫りたいと思いつつも決まらずに結局この女の下にやってきた
刺青を入れれば等々その世界の奥まで入っていくような気がした、オヤジは自分を良くしてくれた兄貴分も同様に皆昔から自分を可愛がってくれた、そして組のものは全員この彫り師が手掛けてくれる

「この中から好きなの選び、オリジナルがいいなら少し値段変わるけど大体の要望言ってくれたらデザイン考えてあげる」

「おー、オヤジはどんなの入れてんだ」

「頭は私の爺様が彫ったから分からないけど昔の人は虎やら龍やら麒麟が多いかもね、みんな神性の高い生き物を入れるかも」

「そうかお前はどんなの入れてんだよ」

「見てわかるでしょ」

「態々見れる場所を俺様が聞くと思うか?」

「左馬刻の背中に彫ってから気が向いたら見せてあげる」

そういって彼女は笑う、8つ年上の彼女は大人に見えすぎていた
目の前で広げられたデザイン表を見てもあまりにも好みには合わずにその日は話し合いだけになってしまい終わった



「俺様のと一緒じゃねぇか」

黒で統一された部屋の中で左馬刻は声を出した、寝ぼけ眼のナマエが彼の言葉に対して意味も分からずに背中を向けて寝ていたのを向き合うように移動させる

「何が」

「刺青だよ」

「あー、確かに」

大きな骸骨に白い蛇が絡まりその骸骨と白い蛇は2つの日本刀に貫かれている刺青だった周りには孔雀や雉に小さな鯉等様々なものがいるが確かに左馬刻のものと同じものが複数描かれている

「ね、どうしてか分かる?」

「さぁな」

「出会った頃から左馬刻の物になって見せるって決めてるから、貴方を思って作ったデザインだから」

だから同じものを背に彫ってくれて良かったと小さく笑えば左馬刻が手を取ってナマエの目を見た

「それなら次はここに彫るか?」

そう言って彼の手がナマエのへその下あたりを撫でた、その瞳があまりにも熱く思わず焼けそうだと思いながら嬉しそうに目を細める

「望むなら幾らでも」

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