だから君は泣いていた



まるで足が熔けたような感覚だった、熱さに声も出ずに息苦しさに過呼吸のようになって、鉄の匂いと混じった化学薬品のような匂い、見下ろす男の顔を見つめればいつも通りその垂れ下がった瞳は楽しそうにしていた

「成功みたい?よかったねぇ小エビちゃん」

突然モストロラウンジに来いと脅されるように言われ怯えつつやってきた途端目の前の男に謎の液体を大量に浴びせられた
足が溶けていき2つの足がまるで溶けて交わるように1つの魚のようになっていく
ボロボロに涙を流して彼の長い足に縋り付く、助けてくださいどうしてこんなことするんですか。沢山彼に聞きたかった気分屋な彼の事だからきっと何か気分でこんなことをしたのだろう

「小エビちゃんって小エビちゃんだけど、人魚のエビってぇあんまり可愛くないんだよね、それに繁殖も面倒臭いし、蛸はどうか?って出たけど結局俺達と一緒にしたんだよね」

爛々と楽しそうに話をする彼がしゃがみこんで髪の毛を撫でてくる、愛おしそうな瞳で掠れた声で助けてと必死に言ってもまるで彼は双子の兄弟の片割れのように優しく頭を撫でるだけだった、息が出来ずに苦しんでいる姿を見てようやく抱き上げてもらいいつも彼らが気分転換に閉店後泳いでいるラウンジ裏の水槽に投げ込まれる
もっと苦しい!っと焦ってみてみるも何も苦しくならずに水槽の外にいる彼が嬉しそうに微笑んだ

「俺達泡になって一緒に死ねるよ、ね…小エビちゃん」

ふと急に痛みの消えた足を見ればまるで海の世界で出会った彼等のような立派な下半身があった
そう言えば昨日人魚姫の話したんだっけ?なんて思い出した、水槽の外の先輩はいつもより少し悲しそうな笑顔をしていた、それならしなきゃよかったのに。

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