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パシンッと乾いた音がした、目の前の男は柔らかく微笑んでいる訳もわからずに頬にやってきた熱と痛みに視界が滲みそうになった

「泣かないでくれ、まるで俺が悪いみたいだろ?」

その言葉にぎゅっと拳を握って頷けば彼は優しく頭を撫でてくれる、その行為が魔法のように痛みをなくしていく事も当然のようにあった

「私トレイくんのこと怒らせた?」

「怒ってないさ」

「叩いたでしょ?どうして…痛いよ」

「うーん、叩いたと言えばそうかもしれないな、でも痛いわけないだろう?」

この人は悪意のない悪を時たまぶつけてくる、それがさも当然と言うように手を挙げて魔法をかける、出会った頃は普通で優しい人であり今も優しさは変わらない
彼の性格なのか時おり何故か頬を打つようになってしまった、跡が残らないように痛みもすぐに魔法で消してくれるような優しさで隠した暴力を振るう

「痛かったよ?」

「そんなはずない、そうだろ?」

胸元に顔を埋めさせられ優しく頭を撫でた彼の声はいつからか優しくも聞こえなくなった、彼の魔法の便利さはこの上ないのだから仕方ない

「それに俺ばかりを責めるなんて酷いな、ナマエだって酷いことをしただろ?」

「どんなこと」

「俺の事を忘れた」

「忘れてないよ、少し連絡が遅れただけ」

あ、この返事ミスしたと思った時には反対の頬が熱を持った
トレイと交際を初めてから彼が独占欲が強く束縛が激しいと知ったのは数ヶ月前だった、連絡を暇さえあれば取り合うのはカップルだからよくある事だと思っていたが知らぬ間にGPSアプリが入り、どんなシステムなのかスマホのロック解除をして見てきたり、常々異常だと思い友達に相談してもみんな柔らかく笑って困ったねー。なんて他人事だった
他校で共学だから心配なんだ。と語られてもそれを受け入れ難く別れるべきかと考えていたがそれ以外は普段通りのトレイに何も言えずに付き合っている結果がこれだった

「そんな言葉聞きたくなかったな、ナマエは俺のことを好きじゃなくなったのか?」

「大好きだよ」

選択肢を誤るな、そうすれば彼はいつも通りになる、優しく笑っていつも通りお菓子を食べて普段通りの話をする素敵な彼氏に戻るのだ、返事は即答機嫌のいい返事をするだけ
いつからか恋心は恐怖心に支配されている気がした、そんなことは無いのだろう

「そうか、俺も大好きだよ」

「うん、だからあんまり打たないでね」

「当たり前だろ?ナマエに酷いことしたいわけじゃないからな」

髪の毛を撫でられて機嫌良く彼は抱き締め続ける、好きになった理由はなんだったか、どうして付き合ってるのか、あまり思い出せない
ただ好きという気持ちだけは嘘偽りなく心に貼り付けられたようで彼に与えてしまう、臨まれた言葉も行動も

「魔法が解けないようにしなきゃな、俺達のためにずっと…ずぅっと」

「…うん、大好きだよトレイくん」

時折彼は不思議な言葉を吐き出す、意味も分からずに返事のようにいえば彼はまた機嫌良さそうに抱きしめて小さく横に赤子をあやす様に揺れる
そう言えば彼のユニーク魔法ってなんだろう、今度聞いてみよう

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