みだれ髪
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「ナマエちゃんおいで」
優しくそう言ってくれる貘の声につられて今日もまた濡れた髪のままソファーに近づけば嬉しそうな顔で彼はテーブルに道具を並べる
「私一人でも髪の毛できるよ?」
「いーのいーの、俺がしたいんだから…それにしても風呂に入れられたポメラニアンみたいだね」
ふわふわのこの間見たテレビの犬の事かな。と思いながら手を引かれて座る
貘に拾われたのは数年前の賭けの対象にされた時だった、娘を売っても足りなかった取立ては親の命で足りたらしく要らなくなったナマエはそのまま一人で生きていくか、着いてくるかの選択を受けた10代そこいらの娘じゃ生きていく知恵などついている訳もなく彼の背中を追いかけた
「今日から新しい奴してみたけど匂いどう?」
「お菓子みたいだね、貘くんは好きな匂い?」
「うん、女の子って感じで好きだよ」
「ならよかった」
小さなカプセル型のトリートメントを長くて癖のある髪の毛に満遍なくもみこまれ2.3分は寝かされるその間にお話をしつつ、席を立った貘が奥から大好きな蜂蜜紅茶を入れてきた
まるでお母さんの手料理なんかよりも飲んでいるのではないかと感じるほど毎日それを飲んでまた彼の手が伸びて髪の毛を優しくブラシで梳かしていく、ほんのり香る彼の香りは同じシャンプーを使っているはずなのに何故か少し違うもう少し大人な匂いだと子供みたいな感想を感じる
「熱くない?」
「うん平気だけど、寝ちゃいそう」
「んー、まだダメだけどきついならこっち向いて抱きしめて」
前髪はOKと言われ腕を広げた貘に甘えるように抱きつけば鼻に広がる彼の匂いがさらに眠気を誘う、今日も朝からギャンブル漬けだったから仕方ない彼は楽しく遊んでいても付き人の自分にはゲームなんて分からないから退屈だ、おまけにカジノは男が多く若い娘と見れば声をかけてこられてばかりで嫌にもなっていた
それなりの金額を集め終わった貘が気付いた時にはナマエは大層拗ねた顔をしていたのは数時間前の出来事であった
日頃付き人として頑張るナマエを甘やかすのはその為でもあるのだろう、結局今日も帰り際大勝した貘を襲おうとしてきた男共を懲らしめたのはナマエだったから。
「ナマエ乾いたからそろそろ起きて」
「ふぁっい」
長い癖のある髪の毛がようやく乾き終わって最後にオイルをつけている途中なのだろう、柔らかいシャンプーの香りが部屋に広がっていた
抱きついていた腕を離そうとするもドライヤーをテーブルに置いた貘に肩を軽く押されて押し倒される
「…今日しない」
「ちょっとだけ」
「貘くん執拗いもん」
「体力ないから大丈夫でしょ」
そういうから毎度自分を上に乗せてくる癖にと思い睨んでも所詮ポメラニアンに睨まれるような感覚なのだろう、気にした様子なく唇を重ねられ形をなぞる様に唇を舐められる
ぼうっとした心地になるのは全て彼に教えられた身体のせいだろう
「眠たいから寝ちゃう」
「本当に?」
自分のズルい部分を知ってるからできる顔だろう、ナマエを上目遣いで見て手はパジャマの中に入る、またシャワーを浴びる手間やら疲労感やらで互いにため息を零す未来は既に見えているものの
主人の頼みを断ることもこれ以上出来ずにナマエはこういうしか無かった
「ちょっとだけ」
「うん、ちょーっとだけねありがとナマエ」
そういった彼は自分で綺麗にしたはずの少女の髪の毛を乱した。
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