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「待って」

もう何年、何度同じセリフを吐いたのだろうと内心思いながらも耳もとで呼吸を荒くさせる男の赤いコートの裾を掴んだ

「もう待てねぇから」

そりゃあそうだ、高校生の頃からいつだって彼は律儀に待てをしてくれた、青い瞳が炎のように揺れて体をさらに密着させる

「なぁ、いいだろもう待てじゃ収まらねぇよ」

あの時の彼はいない、少しからかってその度に顔を赤くして待てと言われれば律儀に待つ彼はいない

「ロナルド本当にまっ…ン」

あぁどうやら犬に待てはあまり良くないとは本当のことらしい、目の前にいるオオカミに食われる覚悟も出来ぬまま赤いコートを強く掴んだ、待てという言葉と共に飲み込まれ消えていく。


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人は好きになるとタガが外れるなんていう、好きの限界も分からないほどで砂になってしまった目の前の吸血鬼にドキドキと胸が高鳴る

「ねぇドラルク」

声をかけてもなかなか戻ってこないあたりロナルドに相当やられたのかもしれない。なんて思いつつも胸の鼓動は静かになることは無い
指先に触れた灰のような砂は気持ちがいいほどサラサラでどうして彼が死ぬ際に砂になるのだろうか?など思えてしまう

「ねぇ起きないなら、一口だけ食べちゃダメ?」

あなたの味が知りたいの、普通の砂の味なのかまた違うのかドラルクの全てが知りたい、普通の人間である自分がこんなに歪んだ性癖を持っているなどとは思いもよらなかったが抑えきれないのだから仕方がない。
再度声をかけても返事はなく床に広がるその砂を手に取って唇が触れそうなその時にそれは形を変えていく

「…え、えらく情熱的なお誘いだねお嬢さん」

いつもあんなに青白い顔の吸血鬼がまるでトマトのように顔を真っ赤にして目の前にいる、自身の唇には彼の細い長い真っ白な手の甲が当たっていた

「そんなわけないでしょ!」

その言葉と同時に砂に帰った彼を見ても今は食べたいとは思わなかった、その日の夕飯は好物が並んでドラルクは目をしばらく合わせてくれなくなったのはまた別の話だ。

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