クラウスと吸血鬼




レオナルド・ウォッチは目を疑った、それなりにこの街に慣れてそれなりにここライブラに慣れた今ブラッドブリードという吸血鬼の存在を知った今驚いた
事務所に見える大きすぎる赤い羽根に
その赤い羽根の正体は我がライブラの主、クラウス・V・ラインヘルツの膝に横向きに座って足を椅子から放り出していた

「おはようレオナルド君」

そう響いた低い声に朝の返事を返すことも出来ず目を疑った、美しい程の綺麗な長い黒髪に深すぎる紅い瞳細い指先でゲーム機を弄っていたが顔をそっとあげた

「やぁやぁ君が新人である神々の義眼持ちの少年、レオナルド」

さぞ楽しそうに少女はクラウスの膝から飛び降りて近づいてきた、素足の彼女の足音がペタペタと音を立てる

「私はシャーリィ、真名は見たらわかるだろうから敢えて言わないそしてその目に映るとおり私は血界の眷属だ、よろしく」

淡々とそう語り部のように話した彼女に声も出ずにレオナルドは混乱しそうだった、目に映る義眼の映像がまるで脳みその中まで支配するように脳は混乱した。


「すまない、説明をしようにも彼女が永らく不在で」

「いえ、いいんです僕も驚きすぎましたすみません」

「いやいやいいよ、ごめんよ眼が良すぎる故の驚きだろうからね新鮮で楽しかった」

クスクス笑うその子は彼の目からみてもまだ14.5歳くらいに見えるもので長い髪は床につかないように一纏めに軽く結われた
シャーリィと自己紹介をした彼女は正真正銘の血界の眷属だった、とはいえ彼女は人間性の強いものが好みだった、ゲーム機にお菓子に寝る事に次いでに同胞狩り、なぜ同胞狩りをするのかも説明してくれた
彼女は好きで血界の眷属になった訳では無い、普通の人間であった彼女の両親は力のある術者であったがある日長老級の血界の眷属を封印の際にミスを犯した、両親は死に絶えシャーリィは呪いのように血界の眷属として書き換えられた人でありながら人では無いもの、何者にもなれない少女の時間は止まってしまった、老いることも死ぬことも出来ず人間にはなれず化け物のように扱われゴミ捨て場の奥深くで静かに眠るばかりだった

「けれど彼は私を拾ってくれたのさ、憎い血界の眷属でありながら私はここに居るココで私をあんなことにしたヤツらを私が食べるのさ」

そういって口角をにっこりと上げた少女の顔はまるで人形のように美しかった
血界の眷属と呼ぶにしては欠陥が多い、伝承に沿ったような吸血鬼のような彼女には赤い液体が必要だ人々を襲うことは出来ない、それをすれば戻れないことくらい理解していた
広いベッドの中で眠る時、臭く汚いけれど広いゴミ捨て場を思い出す
あの日差し出された男の腕に噛み付こうとした自分に彼は慈悲深き瞳で見つめた後に抱きしめた

「君は望んでいないのだろう」

苦しかっただろう
悲しかっただろう
辛かっただろう
叫びたかっただろう
泣き続けたかっただろう
彼はそういい太いその腕で抱き締めた、猫のように暴れ抵抗して彼を引っ掻いて噛みつきそうになってやめた、鋭いその牙が彼を貫けばどうなるか本能で理解していたから

「私はクラウス・V・ラインヘルツだ、君の名は」

「…シャーリィ」



ボソリと呟いた声
ハッと目を覚まして見えた広い天井、またあの日を夢に見ていたのだと思い横を見れば規則正しく眠る男
大きなその体の上に乗って胸に顔を寄せる、とくりとくりと音を立てる小さな心臓の音、今日も生きているのだと温もりを感じる

「まだ少し早いだろう」

「そうだね」

窓の奥の空はまだ暗いままだ、頭を撫でるクラウスに心地よくてそっと目を瞑る
明日も今日もこの男のために生きていくために


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