ネクタイ




年下をいじめるのはいいものでは無いが、好きな相手が困るさまを見る事に対しては男子はいつだって子供のように楽しむものだ。
胸元でウンウン唸る少女の抜けきらない顔立ちのレディに頬が緩まって仕方がない

「すみませんスターフェイズさんこんなことも出来ず」

黄色のネクタイを片手に右往左往してはヒントもなしに必死にあっちへそっちへ動かす彼女の目線はそこに集中している
疲れながら出勤してきた自身のネクタイが乱れていたことを注意してくれた彼女に直して欲しいと甘えてみたのが始まりで2人だけの事務所の中で5分ほど彼女は眉間に皺を寄せたり、唸ったり忙しそうだ

「こ、こんな感じですかね」

そういって手を離した彼女はまるで血界の眷属と戦った後のような満足のある顔だった

「ありがとう」

「あ、後でちゃんと直してくださいよ」

「気が向いたらね、なんせ君がしてくれたから外すのが勿体ないよ」

鏡を見ずともクシャクシャのネクタイがあるのがわかる、けれどそれは彼女の努力の結晶でありまた1つの愛のカタチなのである
スティーブンは満足そうにそのネクタイを見つめたあと自身のデスクについた、ソファの方で必死にスマホ片手に何かを検索する彼女の顔は面白おかしい、あと1時間後にはやり直しを求めに声をかけてくるだろう。なんて想像をしながら今日も減らない書類に目を通し始める。

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