負け犬の遠吠え>
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Hard to Get「聞いて。ジェームズがリリーをクリスマスのパーティに誘ったんだ。だけど断られちゃった。先にスネイプと約束をしたんだって。ジェームズ、物凄くがっかりしてるのが僕でも分かった。でもそうしたら、リリーが、聞いてもいない言い訳をたくさんし始めてね。あんな彼女は初めて見たよ。あれは、ジェームズも、まだ諦めなくていいんじゃないかな?」
「で、後から大変だったのは、ジェームズよりシリウスの方だった。スネイプのこと、恩知らずだのなんだの罵って、奪え、ってジェームズに本気で提案してた。彼いわく、今年のクリスマスはジェームズとリリーが一緒に過ごすのが正しいんだって」
「おかしいな、シリウスは、まるで未来を知ってるみたいな言い方をした。ジェームズとリリーが結婚して、男の子が生まれる、それが正しい道筋なんだって」
「…………あのね」
「あのね、彼はあの夜、そう、あの夜だよ。予知夢を見たんだろうって思ってる。僕だけじゃない。ジェームズもリーマスも、きっと僕なんかよりずっと早くにその答えに至っていたはずだ。だけど答え合わせをしようとはしなかった。もしそれが正しかったとして、それで、彼が急に僕を憎み始めた理由を知って、どうなるだろう?」
「シリウスは今でもたまに、僕を親の仇みたいな目で見るよ。だけどきっと仕方ない。いざって時僕は、シリウスやジェームズみたいに、自分の身の危険を顧みず動くことが、できなかった。グリフィンドール生らしくない。彼はこんな僕を知っていたんだろう」
「もしかすると他の人たちは、彼らの行動を蛮勇とも無謀とも言うんだろう。それでも、僕は羨ましかった。僕だって彼らを追って……ううん、彼らと共に、駆け出したかった。あの満月の日、僕は僕の勇気を証明する、一つの貴重な機会を逃したんだ」
「だけどまだ取り返しはつくよ、そうだろう? 僕らはまだ子供だもの。まだチャンスはある。やり直しのきかないことなんてこの世には、きっとない」
「変わりたい」
「言葉だけじゃ駄目なんだ。信頼は行動で得なきゃいけない」
「……聞いてくれてありがとう。だけどこれが最後さ。もう来ない。必要ないんだ。だって僕には友達がいる。大好きな友達が、三人もいるから。……だから、今まで、ありがとう」
獅子の石像が、その口から下級生の少年の声を再生する。繰り返された礼の言葉を最後に声は止まり、やがて獅子は、ぽろりと透明な丸い石を吐き落とした。
像の傍らに佇んでいた長身の人影が杖を一振りすれば、石はふわふわと宙に浮かんだ。彼は、片手に持っていた小さなガラス瓶の中にそれを収めて、夜闇の中、満足げに微笑んだ。
「それ何だ、マルシベール」
もう一人。スリザリン寮の最上級生である少年らだった。
「前に話したろう? 仕掛けをそろそろ回収しようと思ってね。教職員にも噂が広がりかけているみたいだから、潮時だろう」
「ああ。あの悪趣味な奴な? ほとんどがしょうもない恋愛相談だって言ってたじゃないか」
少年はガラス瓶をローブの中に隠し、友人と連れ立って歩き始めた。就寝時間も近く、人気はない。それでも念のため、彼はわずかに声を潜めた。
「エイブリー、死喰い人候補が何人も別件で逮捕されているのを知ってるか?」
「ああ?」
「捕まったか、もしくは警備が強まった。迷っていた者には適切な説得が始まった。闇祓いが警護についたり、聖マンゴに入れられたり、何にせよ接触が難しくなった。分かるか? 情報が洩れているんだ。闇の帝王の手の内を知る誰かがいるってことだ」
「はあ」
学生という身分に甘んじ、まるでピンと来ない様子の同輩に、少年は内心舌打ちをした。
「つまり、これからは情報戦の時代が来るってことだよ。これは一種のテストだ」
「……それっぽいこと言ってるけど、単に色恋沙汰のデバガメしたいだけじゃないのか?」
今度ははっきりと溜息をついた。スリザリン寮の入り口の前で合言葉を呟き、石壁の中へと潜り込む。
「まぁ、お陰様でいろいろ弱味を握れたから、それは成果かな。それから、少し気になるネタもあった」
「どんな?」
談話室へ入る。何人かの少年らが、丁度自室へと出て行くところだった。帰寮した上級生の姿を見つけ、軽く会釈する者もあった。
「ああ、ブラック。レギュラス・ブラック」
内一人を、呼び止めた。
「はい、何ですか?」
ぱたぱたと駆け寄ってくるレギュラスは、その片腕に、やけにファンシーな籐製の籠を下げていた。
「……それは何?」
「はあ。裁縫を少々」
素直に答えながらも、あなたには関係ないでしょう、と顔に書いてあった。好奇心から籠の中を覗く。ラベンダーの香りがした。意外と雑で下手くそな運針を意外に思ったが、どうやら、匂い袋を入れたピローのようだった。
「不眠症なのかい? 君が?」
「いいえ?」
レギュラスは肩を竦め、まるで用意していたかのように、すらすらと説明を加えた。「うちの学年で夢占いが流行っているので、見たい夢を見れるようにと。それより何か御用ですか?」
まだ子供っぽさの残る顔立ちに、上っ面だけの微笑を浮かべ、レギュラスは首を傾げた。
「ああそうだ。レギュラス・ブラック、君の血筋に予言者はいたかな?」
唐突な質問に、レギュラスは長い睫を忙しなく上下に動かした。
「僕の知る限りではいませんが、何か?」
「いや、雑談さ。これからは情報が大切になるって話をしていてね。未来を知っていればアドバンテージだなと」
不意を突かれた幼い表情はすぐに消え、まったく可愛げのないすました様子で、彼は付き合い程度の相槌を打つ。
「はあ。でも、知った未来を前提に皆が動くなら、その未来にはそもそも意味がないのでは? つまり分岐した平行世界になるだけで」
「ブラック、それは魔法省の神秘部が千年も前に議論しつくしたテーマだよ」
エイブリーはあまり分かっていない様子だったが、要は、上級生相手としてそぐわない態度を咎めたのだった。レギュラスはしゃあしゃあと謝罪した。
「それはすみません、勉強不足で」
この生意気な子供は、今度スリザリン・クィディッチ・チームのキャプテンに、泣く程しごかせようと決意した。
「まぁ、要は使い方次第だね。今君が言った通り、皆を動かせる。それはつまり、」
彼の兄によく似た、美しい形のグレイの両眼で、レギュラスはじっとマルシベールの言葉を待っていた。
「――――最強のカードを持っている、ということだ」
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