負け犬の遠吠え小説一覧Hard to Get

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 九月一日が来るのはあっという間にやってきた。ホグワーツの教科書や魔法の杖はプロキオンにとって最高の暇つぶしになったからだ。
 出来るようになった魔法を使ってみたい。そんな思いで敢えて電気を付けず、「ルーモス」を乱用していたプロキオンに、レギュラスは入学祝いとして時計を与えた。なんとこの時計、光るのだ。実物を見たことがあるわけではなかったが、これって多分、マグルの懐中電灯ってやつだ! とプロキオンは直感した。おかげで「ルーモス」を使う機会は減ったが、これもなかなかプロキオンを楽しませた。暗がりのなかの冒険って、それだけでワクワクする。

1−05/九と四分の三番線



 早めに来たおかげか、九と四分の三番線にはまばらにしか人がいなかった。プロキオンは適当なコンパートメントを手早く取り、ホームで待つレギュラスの元に駆け戻った。仕事に行かなければならないレギュラスのため、発車前には別れを済ませなければならなかった。

「手紙書きますね」
「はい」
「返事くれますか?」
「ええ」
「お身体には気をつけて下さいね」
「貴方こそ」
「三ヶ月も父上と会えないなんて、すごく寂しいです」
「クリスマス休暇が終わったら半年は会えませんよ」
「…………父上も寂しいですか?」
「もちろんです」

 本当かよ! プロキオンは心の中で突っ込んだ。父上のクール(というかドライ)な対応には慣れているけど、こんなときくらいは分かりやすく寂しがってほしい。ホグワーツに行く前にこの寂寥感を少しでも減らしておきたいのに!
 不満顔を隠しもしなかったプロキオンに、レギュラスは溜め息を零した。呆れたようなものではなく、仕方ないなぁと、慈愛に満ちたものだ。

「プロキオン」

 父上の心地良い香りがする、と思うと同時に、プロキオンは生温い体温に包まれた。
 父上に抱きしめられている! プロキオンの脳内は歓喜で埋めつくされ何も考えられないほどではあったが、気が付くと衝動のままレギュラスを強く抱きしめ返していた。レギュラスに抱きしめられるなんて、物心ついて以来初めての経験だった。
 思った以上にプロキオンのご機嫌取りに成功したことが分かったのか、レギュラスが頭上でクスりと笑っている。ああ、なんて幸せんだ。

 レギュラスがプロキオンと身体を離そうとしても、プロキオンは両手に込めた力を緩めなかった。しかし今度こそ呆れた様子で「人前ですよ」と窘められたので、しぶしぶ両手の力を緩める。自分からやってきたくせに、と内心呟きながら。
 しかし身体を離そうとすると、今度は頭を押さえつけられた。抱き合ってこそいないものの触れ合っているような距離感のまま、レギュラスは口を開く。プロキオンの視界にはレギュラスの羽織るローブだけが映っていた。

「いいですか、プロキオン。信じるものを間違えて、周りに惑わされてはいけませんよ」
「…………?」
「自分のやりたいこと、信じたいものを見失わないで下さい」
「僕は父上のこと、信じています」

 何だかよく分からないけど、ちょっと重い話だな。プロキオンはそう思いながらもその言葉の意味を考えてみる。やりたいことはたくさんありすぎて選べないが、誰よりも信じたいのも、信じられるのもレギュラスだけだと断言できる。
 レギュラスはそれには何も返さず、ポンポンとプロキオンの頭を撫でた。

「では、次の休暇に」

 レギュラスはそう残すと、背中を向けたままホームから消えてしまった。
 最後に顔、見たかったな。プロキオンは数秒ほどぽつんと一人佇んでいたが、間もなく自分のコンパートメントへと戻った。楽しそうに家族と話してるのを見るのが居たたまれなくなったのだ。

 プロキオンは何だか微妙な気持ちであったが、レギュラスと交わした抱擁を思い出すとそんな気持ちも霧散していた。抑えられない笑みを掌を口に押し当てることで隠しつつ窓の外を見ていると、見覚えのある赤毛が目に入る。ダイアゴン横丁で出会ったフレッドとジョージ、そしてその家族だった。
 プロキオンは声をかけるか迷った。それなりに親しくなれたつもりではあったが、ここでわざわざ声をかけるほどでもない気がしたし、少し遠い距離も気になった。そんなとき、プロキオンの視線に気付いたようにふと彼らの兄の一人(多分、一番年長のビルだ)と目が合った。ビル(多分)はフレッドとジョージに声をかけるとプロキオンの方を指差し、今度は振り返ったフレッドたちと目が合う。彼らが此方に駆け寄ってきたので、プロキオンも窓を開けて待った。

「プロキオン、久しぶり!」
「よお、フレッド、ジョージ」
「一人か? 俺たちも一緒に座っていいか?」
「いいぜ」

 プロキオンはフレッドたちが手に持ってた小さな荷物を窓越しに受け取り、向かいの席に置いた。もう出発の時間も近かったのですぐそっちに行くよと双子は言っていたが、二人は母親に捕まり、出発直前まで何やら強く言いつけられていたようだった。

「『いいですか、お家でやってるようなことをホグワーツでするんじゃありませんよ。ビルにしっかり見張っておいてもらいますからね』だってさ。俺たちまだ・・なーんもしてないのに」
「ビルに頼むなんて、お袋は分かってねぇよな。ビルはお袋の前じゃ大人しいけど、むしろ俺たちの味方なんだ」
「『お家でやってるようなこと』って?」
「ま、いろいろさ」

 そのとき、大きな汽笛が辺りに鳴り響き、発車の合図を伝えた。双子の妹のジニーと弟のロンが二人して泣いているのが見える。母親が二人の泣く子供を連れながらどの兄の元へ行こうかと迷っていたが、どうやら最後の別れは新入生の双子とすることにしたようだ。

「お前んとこの親は?」

 此方に向かってくる母親を見て、汽笛とそこら中で上がる声に負けないよう、双子の一人が声を張り上げる。

「もう行った!」

 プロキオンもそれに負けないよう応えると、双子が一斉に窓に飛びかかった。プロキオンは窓を塞がれ、外が全く見えなくなった。

「ロン! ジニーのことちゃんと見とけよ!」
「泣くなよジニー、すぐ帰ってくるさ!」

 そして列車は走り出す。

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