負け犬の遠吠え小説一覧Hard to Get

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「今更だけど、兄弟で一緒じゃなくてよかったのか? あと三人ならちょうど入れそうだけど」
「あーいいいい。ビルもチャーリーも、監督生だから専用のコンパートメントに居なきゃいけないんだ。パーシーは来る前にちょっと怒らせちまったし」
「……チャーリーさんはクィディッチのキャプテンもやってんだよな?」
「そ。そんで、ビルは首席と兼任。パーシーもテストで一番」
「は*。優秀なんだな、お前んとこ」

 確かに優秀そうな人ではあったな、とプロキオンは思った。フレッドとジョージも、頭悪そうに見せかけて実は才能あります、というパターンな気ががする。
 もしかしてこいつら、結構いいとこの出? とプロキオンは二人をジト目で見る。にしちゃあこいつらのローブ、どう見てもお下がりか古着なんだけど……ま、優秀さと裕福さは比例しないか。

「俺たちは絶対ならねぇって決めてるんだ」
「『なれない』の間違いじゃねえのか?」

 双子の片方がふんと鼻をならしたので、プロキオンは茶化すように言葉を返した。もう片方の双子が「まー間違っちゃいねぇけど」と笑う。

「でも、監督生なんてなるもんじゃねぇよ。監督生になりたいってことはさ、真面目で正しい学校生活を送りますってことだろ? 俺たちはそんなのごめんだね!」
「半分同意半分反対。俺は監督生目指すぜ。お前ら大っぴらに『悪いこと』するつもりなのか? 俺はバレないよう最新の注意を払う」
「まじかよ! 監督生なんて見返りのない仕事押し付けられるだけだぜ?」
「見返りなら充分あるだろ。監督生ってだけで発言力や信頼が得られるし、監督生にしかやれないこと、入れない場所だってあると思うぜ」
「あーまあそれはあるかもな……じゃあ、そういうのはお前に任せる! それで俺たちにもちょいとその恩恵を分けてくれよ」
「しょーがねぇな……って俺もなるって決まったわけじゃねぇぞ。目指せるなら目指したいってだけだし、期待はすんなよ」
「分かってるよ。正直、プロキオンが監督生になれるとは思えねぇし」
「はあ? どういう意味だよ、それ」

 プロキオンはムッとして言った。期待すんなよなんて言いつつも、プロキオンは本気で監督生を狙うつもりだった。プロキオンは自分なら出来るという根拠の無い自信を持っていた。

「だってお前からは監督生になれそうな真面目な雰囲気が感じられねぇし」
「どこがだよ?」
「そういうとこだよ。監督生になるような面倒見の良さそうな奴だったら、こんなことで人を睨んだりしないね」
「……今のはお前らだからやったのであって、他の人の前ではもっと上手くやる」
「ひっでー! 俺らまだ会って二回目なのに!」
「ま、正直俺らも監督生のこと分かってねぇけどな。ビルとチャーリーが監督生に選ばれたんだから人柄が重視されんのかなって思ったけど、パーシーが監督生になれるんなら成績さえ良けりゃ割と行けんのかも。パーシーの奴、一部に煙たがられそうだし、人望って面じゃ十分じゃないぜ」
「チャーリーの学年で一番優秀な子は監督生に選ばれなかったって。かなりのドジっ子らしい」
「じゃあやっぱ成績だけじゃねーんだな。まー四年後の話だし、これ以上深く考えるのはやめようぜ」

1−06/ホグワーツ特急



 話が一区切りつき、プロキオンがふと廊下を見ると、丁度人影が過ぎったところだった。プロキオンは暫し迷った後、よしと腰を上げた。

「どうしたプロキオン」
「知り合いがいた。ちょっと話してくる」
「セドリックか?」
「ちげーよ」

 そういやあいつどこいんだろうな、と思いながらプロキオンはコンパートメントを後にした。廊下に居たのはプロキオンを除いて先ほどの人物だけだ。

「ジェームズ」

 少し歩いて呼び掛けると、その人物はゆっくりと振り返る。柔らかな金髪に無機質な青い瞳は、美しい顔立ちと相まりまるで人形のようだ。
 プロキオンは何を考えているのか分からいこの少年のことが少し……いや、かなり苦手だった。にもかかわらずこうして声をかけたのは、彼がプロキオンにとって唯一友達と言える存在だったからだ。今でこそ会って二度目のフレッドたちとの方が親しくなっているが、ジェームズとは三年以上の付き合いがある。と言っても年に二、三度しか行かないパーティーで会うだけの関係だが。
 初めて会ったときは、ぼっちのプロキオンが逃げた壁際にジェームズが一人佇んでおり、そのままなんの会話もなく二人並んで過ごした。次にプロキオンがパーティーに行ったときも、たまたまプロキオンの逃げた壁際にジェームズが居た。ややテンションの上がったプロキオンはジェームズと自己紹介をしたが、ジェームズから返ってくるのは薄い反応ばかり。そんな彼との会話は決して楽しいものではなかったが、その次もさらにその次のパーティーでも二人は同じ壁際に辿り着くものだから、もうこいつでいいやという思いに至っり、プロキオンは彼に話し掛け続けた。
 出来るだけ目立たないような、それでいて居心地の悪くない場所を毎回プロキオンは選んでいたが、ジェームズも同じことを考えていたようだ。ほとんど壁に話しているのと変わらないほど二人の会話はプロキオンの一方的なものだったが、壁とは違って薄くとも返事が返ってくる。
 ただの暇つぶし、仕方なく。そんな感情で付き合ってはいたが、フレッドたちと会うまで友達と呼べる人がいなかったプロキオンにとっては、一番友人に近い存在だったのだ。せめて挨拶くらいはしておいてやるかと、プロキオンなりに義理を通したつもりだった。

 ジェームズは返事もせずに黙ったまま、プロキオンの言葉の続きを待っている。せっかく挨拶してやってんのに、「久しぶり」も言えねぇのかコノヤロウ。プロキオンは早くも声を掛けたことを後悔した。
 フレッドたちと出会って、改めてプロキオンは思う。やっぱこいつ苦手だ!

「久しぶりだな、元気だったか?」
「……まあ」
「こんなとこで何してるんだ?」
「ジェマと居たんだけど……ジェマは人気者だから」
「ああ……」

 ジェマとは、二つ上のジェームズの姉だ。美形だが愛想の悪いジェームズと違い、ジェマは美人の上に愛想が良く、パーティーではいつも人に囲まれていた。一度しか話したことはないが、確かに悪い感情は抱かなかった。ジェームズの姉なのだから同じくらい鉄仮面か、逆にしっかりした女性だと予想していたのだが、実際はよく笑う、可愛らしい性格の人だった。
 ホグワーツでも人気者な彼女の友人がコンパートメントに押しかけ、同室していたジェームズは居たたまれず逃げ出してきたのだろう。

「でも、よく出て来れたな。彼女が君より友人を優先するとは思えないけど」
「慣れてるから」

 プロキオンの知る彼女の欠点といえば、かなりのブラコンということだろう。家族を大事にすると言い換えれば、美点とも言えるかもしれないが。

「空いてるコンパートメントなんてないと思うけど、行く宛はあるのか?」
「…………」
「……ないんだな。じゃあ、俺んとこくるか?」
「いいの?」

 プロキオンは一つ頷くとコンパートメントに戻るため歩き出した。本当はフレッドたちとジェームズの相性を考えれば互いにとってよくない選択肢に思えていたが、かと言って廊下に放置も出来なかった。ホグワーツに着くのは夕食時だと聞く。道のりはまだまだ長い。

「ちょっとうるさい奴らだから、相手したくなかったら寝た振りでもしとけ」

 そう言ってプロキオンがコンパートメントの扉を開けようとすると、ジェームズにその手を強く掴まれた。

「な……なんだよ」

 プロキオンが驚きで心臓を跳ねさせながら振り返ると、ジェームズのいつもより鋭い……気がする、目が見えた。「気がする」程度の変化すら今までのジェームズからは感じ取れなかったのだから、プロキオンはかなり驚いた。
 しかしそんなジェームズが見てるのは自分じゃないことに気付き、プロキオンはその視線を追う。コンパートメントの中、不思議そうな顔をしたフレッドとジョージと目が会った。
 プロキオンはジェスチャーで待ての合図をすると少しだけコンパートメントの前からずれ、再度ジェームズに尋ねた。

「おい、どうしたんだって。双子が珍しいのか?」
「……プロキオン、どうして彼等と一緒に?」
「この前ダイアゴン横丁で会って、親しくなったんだよ」
「彼等が誰か知ってるの?」
「フレッドとジョージ。ちなみにあとセドリックって奴とも会った」
「ウィーズリー家の人だよ」
「お前も知り合いなのか?」

 ジェームズは声色さえも無機質で、一定だ。純粋に疑問なのか、責めているのか、喜んでいるのかも分からない。意味の分からない会話にプロキオンは少しずつ苛立ちを募らせていた。

「初対面だよ。彼等はプロキオンの友人?」
「おい、あのコンパートメントが嫌なのか? だったら何でだ? はっきり言ってくれ」
「嫌だよ。だって彼等、ウィーズリー家だ」

 それ答えになってねぇだろ! 怒鳴りたい気持ちではあったが、ジェームズに言葉が足りないのはいつもの事なのでプロキオンなりに冷静に考えて見る。
 「ウィーズリー」ではなく「ウィーズリー家」という言い方をしたのは、言葉通り家系単位で二つの家は敵対関係にあるという意味なのだろうか? 先祖代々の因縁……というやつか? そんな大袈裟な。それとも、単にジェームズの親とフレッドたちの親の仲が悪くて、だから子供のジェームズもフレッドたちを目の敵にしてる……ということだろうか?
 もういい、スルーだ。とにかくこいつはフレッドたちの居るコンパートメントには来ないんだろ。どんな因縁があるのか知らんが、初対面の癖に感じの悪い奴。

「じゃあ悪いけど早いもん勝ちってことで、他を当たってくれ」
「待って。僕の質問にも答えて。彼等はプロキオンの友人?」
「だったら何だよ」
「……ダメだよ」
「は?」

 ジェームズの表情は、変わらないままだ。しかしプロキオンの目を見て逸らさないので、真剣なのだろう。

「彼等はプロキオン・ブラックの友人に相応しくない」
「…………は?」

 プロキオンの声がワントーン低くなった。ここでやっと、プロキオンは一つの考えに思い至る。
 フレッドとジョージの古びたローブ、たくさんの兄弟、狭いという家。双子の家が裕福でないことは会った瞬間に悟っていたじゃないか。そしてプロキオンは欲しいものを我慢したことがないくらいには裕福な家庭だ。パーティーなんかに出席しているのもその証拠だろう。つまり、ジェームズが言ってるのはそういうことではないだろうか? 貧しい双子と豊かなプロキオン。釣り合いがとれない、だから相応しくない、と。
 気に食わない、とプロキオンは思った。
 プロキオンは元々そういう考えを理解することが出来る人間だ。プロキオンもこれが他人事だったら、「釣り合ってない友情は破綻しやすい」なんて知った口を聞いていただろう。双子に会った時だって、第一印象は「貧乏くさくて、面倒くさそう」だ。
 だけど、いざ話せばそんなマイナスのイメージはいつの間にか消えていた。こういう友達が欲しかったと思えるほどの波長の良さを感じている。今までプロキオンがしてきた同世代との会話は気を使わなければならなかったり、誰かを馬鹿にするような不快なものだったり、途切れがちだったり、そんなのばかりだった。だけどフレッドたちとする会話は、全く苦に感じない。それどころかワクワクするばかりだった。

「お前が何を持って『相応しい』だの『相応しくない』だの下らないいちゃもんつけてんのかは知んねぇけど」

 プロキオンはジェームズを真っ直ぐ見つめた。ムカつくのに、声から怒気は無くなっている。

「フレッドとジョージは面白い奴らだ。それだけで、友達になるには十分だよ」

 都合のいい話だ。本来はそんな正しい人間じゃないくせに、自分が当事者になったときだけ正義面する。だけど、当然だろ。
 プロキオンは開き直った。
 俺は二人が好きだ。贔屓するに決まってる。

「分かったらあっち行け! 反省するまで、お前とは口聞いてやんねー」

 これはプロキオンがレギュラスにやられて最も効果のある罰だったが、プロキオンから話し掛けなければ口を開かないだろうジェームズへの効果は限りなくゼロに近い気がする。
 それでもこうして軽口を叩くような言葉を吐いたのは、ジェームズの気持ちも理解できたからだ。相応しい云々もそうだが、逆の立場になったとき、何となく親しみを覚えていた相手がいつの間にやら見知らぬ誰かと仲良くなっていたら……いくら相手がジェームズでも、ちょっと寂しいかもしれない。いや、俺が三年かけても攻略できてない無口で無愛想なジェームズが誰かに笑いかけてるのを見た日なんか絶対落ち込む自信がある……。
 あいつもちょっと拗ねてたのかもな。そんな考えがプロキオンを優しくしていた。

 ジェームズはその場を動かなかったが、プロキオンは一人コンパートメントへと向かった。あいつ大丈夫かなという心配もあったが、最悪ジェマのところに行けるだろう。

「何だったんだ?」
「誰か居たよな。さっき言ってた知り合いか?」
「そうだけど。まー気にすんな」

 そこからは何の問題もなくプロキオンはホグワーツへの道中を楽しんだ。二人のサンドイッチを食べさせてもらったり、お返しに車内販売をご馳走したり、夏休みに試した魔法の話で盛り上がった。


 ……補足しておくが、セドリックを忘れていたわけではない。セドリックが良い奴なのは分かってる。だけど、どっちが俺の良き親友となれるかって考えたら、やっぱりフレッドとジョージだって思うだろ?

 このときのプロキオンは今までの人付き合いの浅さ故思いもしていなかったのだが、彼と最も良き友人になるためには、気が合うだけではいけない。見栄っ張りな彼には、全てを受け入れてくれる友こそが必要だったのだ。

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