「イッチ年生、イッチ年生はこっちだ!」
列車から降りると、生徒の群れから飛び出た巨体が目に入った。その男は大きな声で呼び掛けながらランプを左右に揺らし、プロキオンら新入生を集めていた。
「多分あれ、ハグリッドだ」
「『禁じられた森』の番人……つまり敵だ」
「デカいな……」
「ビルが言ってたんだけど、多分巨人の血が混じってるんじゃないかって」
ハグリッドに導かれるまま険しい小道を下ると、ホグワーツを背後に広がる湖に辿り着いた。荘厳な城から漏れる明かりがキラキラと輝き、闇に浮かび上がっている。美しい光景だった。
湖は四人乗りの舟に乗って渡り、ホグワーツへと辿り着くと、そこから引率は副校長であるマクゴナガル教授に引き継がれた。マクゴナガル教授はいかにも厳しそうな魔女だ。
新入生は小さな部屋で寮に関する簡単な説明をされると、その後は待機を命じられた。
壁の向こうから聞こえる上級生のざわめきをBGMに湧き出てくるゴーストを観察していると、不意に肩を叩かれた。
「プロキオン」
「セドリック!」
二人は笑顔で挨拶を交わした。
「久しぶりだな。列車でどうやって過ごしてたんだ? 俺らたまたま会って、三人で過ごしてたんだぜ……って、あれ、アイツらどこ行った?」
「近くにはいないみたいだけど……はぐれちゃったんじゃないかな? 入り口狭かったし。列車では先輩に声を掛けてもらって、いろいろ教えてもらってたんだ。フレッドとジョージのお兄さんに三人が一緒にいることは聞いてたんだけど……その、なかなか抜け出せなくて」
「何で?」
「えっと……もっと話そうって言ってもらえて……」
「ふーん」
セドリックが言いにくそうにしていたので、プロキオンもそれ以上は追求しなかった。
「会ったの、何番目の兄?」
「一番上のビルさん。先輩たちが呼んでたから間違いないと思うよ」
「気の利く人なんだな。俺もあの人のおかげで二人と合流できたんだ。ビルさん、監督生で首席らしいぜ」
「カッコいいなぁ」
「なあ、お前さ、監督生目指す気あるか? 二人は絶対なりたくないっていうんだ」
「え、何で? 僕は……なれるならなりたいと思うよ」
「だよなぁ!? 監督生になったら大っぴらにふざけられないから嫌なんだとさ。ま、セドリックならなれるんじゃねぇか? お前、優秀そうだし」
「どうしてそう思ったの?」
「何となく」
「何それ」
セドリックと声を潜めて笑いあってると、マクゴナガル教授が戻ってきた。
「さあ行きますよ」
あんま緊張とか感じないけど、組み分けってどうやるんだろうな。列に紛れ込みながらプロキオンは思った。そういやトロールがどうとかって……いやいやないない。
セドリックに話を振ってみようとすると、後ろから腕を強く掴まれる。何かさっきもこんなことが、と振り返ると、そこに居たのはまたしてもジェームズだった。
「ごめん」
「は、」
「ごめん。ごめんなさい、プロキオン」
「あ、ああ……」
「どうしても、確認しておきたくて」
まさかこんなに早く、しかもこのタイミングで謝ってくるなんて、とプロキオンは少し狼狽えた。「後にしてくれ」「今」プロキオンとその手を掴む見知らぬ生徒に気付いたのか、セドリックはこちらを伺っている。「じゃあ早く言え」列が今にも動き出しそうな気配だったので、プロキオンは焦燥感を感じながらジェームズを急かした。
「ねえ……もちろん、スリザリンに入るよね?」
「ちょっと、早く進んでよ」
ジェームズの言葉の意味がプロキオンには分からなかった。その意味を問い返す前に後ろの女生徒に咎められ、進まざるを得なくなる。セドリックに目で問い掛けるが、怪訝そうな目が返ってきた。セドリックにも分からないのだろうか?
あの口ぶり、どういうことなんだ。まるで俺がスリザリンに入るのが当然のようじゃないか。なぜ? 父上がスリザリンだったとか? だとしたらどうして俺が知らないのに、ジェームズがそれを知ってるんだ? それに……スリザリンに入れ、と言ってるようにも聞こえた。俺と同じ寮にでも入りたいのか? いや、そんな感じじゃなかった……なぜ、ジェームズは「確認」したのだろうか。そうする必要があると思った原因は? ……あの、列車での出来事以外考えられない。ジェームズはウィーズリー家にグリフィンドール生が多いことを知っていて、二人が友達宣言した俺がグリフィンドールに入りたがると予想した……? くそ、その通りだよコノヤロウ。でも、それに何の問題があるんだ? お前はウィーズリー家のこと嫌ってんのかもしんないけど、俺には関係ないだろ。やっぱり、俺が二人と仲がいいのが不満で、これ以上仲良くなってほしくなかったとか? ……本当に、そんな理由だろうか?
マクゴナガルにより設置された椅子の上には、薄汚れた帽子が乗っている。すると突然、その帽子が歌い出した。驚きながらもプロキオンち歌を聞いていられる余裕はなく、今ならとジェームズを探して振り返ったが、ジェームズは内緒話をするには少し遠い距離にいた。そりゃ声を張れば届くだろうが、帽子の歌だけが響くこの状況でそんなことは出来ない。ジェームズも俺の返事を聞きたかったのかじっと見つめ返され、俺が首を振るなりしてイエスノーを示すことを待っているようだったが、俺は何もせずに前を向いた。だって、答えが分からない。
「アルファベット順で組み分けを行います。呼ばれたら前に出てきて下さい」
待て待て待て待て! ブラックのBなんてすぐじゃないか! 下手したら初っ端……
「ブラック・プロキオン!」
くそ! プロキオンは苦虫を噛み潰したよう顔で前に進みでる。頭がいっぱいなプロキオンは、セドリックの呆然とした顔にも気づかなかった。
密やかなざわめきの中、プロキオンは帽子の前に辿り着く。椅子に座ると、マクゴナガルにより帽子を被せられた。
『ふむ、ブラック家の子だね。ならばここで問題ない……』
『ま、待て! 落ち着け! 話し合おう!』
『ん? 迷いがあるのかね?』
頭の中に響くような声にやけくそで脳内会話を試みたが、本当に意思疎通に成功し安堵する。
『寮ってのは大事なんだぞ……正直、グリフィンドールに入りたかったんだが、問題が発生した……』
『君が心から望むのならば、グリフィンドールに入れてあげることもできよう』
『早まるなよ! 俺が納得するまで決定するな』
『後ろが詰まってるんだがね……』
これは絶好のチャンスだ。脳みそのある帽子なら、プロキオンの疑問に答えてくれるかもしれない!
『俺が止めなかったらどこに入れようとした?』
『無論、スリザリンよ』
『なぜだ?』
『何故も何も、ブラック家は代々スリザリンの家柄だろう』
プロキオンにとって、驚きの新事実だった。レギュラスだけではなく、「代々」と言われるほど歴史があるなんて。だからジェームズは「もちろんスリザリン」という言い方をしたんだ……フレッドとジョージの家族が全員グリフィンドールなように、組み分けってのは家系が関係してくるのか?
『……家系を抜きにして、俺はどこの寮が合ってると思う』
『ブラック家の組み分けに梃子摺るのなんて、スリザリンが嫌だと言った彼くらいかと思っておったが……君もまた、少々異質なようだ』
『今までのブラック家の組み分けを覚えておるのか?』
『それが私の務めだからね』
『父上……レギュラス・ブラックはどの寮だった? スリザリンか?』
『さよう。君の父上もスリザリンであった。君自身は……うーむ……スリザリン、レイブンクローと言ったところかな』
フレッドとジョージとグリフィンドールに入ったら、きっと面白い。そんな思いは確かにあった。だけど代々スリザリンという習わしを俺が壊してしまうのか? もしかして父上は、俺がスリザリンに相応しいかを試すために、このことを黙っていたんじゃないだろうか?
二人は俺にグリフィンドールの素質があると言ったが、帽子に挙げられた俺に合った寮の中にグリフィンドールの名前はない。
もう、ここしかないな。
『……決まりだ』
「よろしい……スリザリン!」
別に、約束したわけじゃない。俺がそうしたいって勝手に思ってただけで……だから、罪悪感なんて抱く必要ない。
そう言い聞かせながらも、プロキオンはフレッドたちの顔を見ることが出来なかった。
1−07/組み分け