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 花見の日以降、タイミング悪く仕事を増やされたり、邪魔されたり、爆撃されたりと散々な目に遭ってやっともぎ取った休日。
 橘香は万事屋に来ていた。
 あんな形で再会することになってしまった銀時と話がしたかったからだ。

銀時くんあっちは覚えてないかもしれないけどね……」

『万事屋銀ちゃん』の看板を下から見上げながら橘香はポツリと呟いた。
 二十年も前の、しかも子供の頃のごくわずかな間のことを銀時が覚えている保証はない。
 それでも橘香は会いに来た。

 ピーンポーン

 緊張から少し強めに押してしまったインターホンが間延びした音を出したが、中から人が出てくる気配はない。
 二、三度繰り返してみるが同じく、しーんと静まり返っている。

「留守か……」

 手土産に買ったケーキが無駄になってしまうが、また日を改めようと橘香が帰ろうとした時、引き戸が開くガラガラという音がした。
 橘香がよかったとそちらを向くとそこには人ではなく、大きな大きな(大事ことなので二回言った)犬がいた。

「ワンッ!」

 犬は元気に一鳴きすると橘香に跳びかかった。
 恐らくじゃれついているのだろうが、とにかくデカイので傍目からは襲われているようにしか見えない。

「ギャアアアアア!!」

 橘香の口から女として残念な悲鳴が上がる。
 バクリと頭に噛み付こうとして来るのを狭い通路で必死に避けていたが、そのうち万事屋の戸を破って中に入ってしまった。

「ちょっ、ホント勘弁して!」

 ドタバタと土足で家の中を逃げ回っていたが遂に前足が肩に乗せられてしまう。
 犬の顎を上へと押し上げ、必死に抵抗していると、

「んだよ、うっせーな。つーか、なに人ん家で暴れてんの。不法侵入だよ、コレ。……ったく、ババアかと思って居留守使ったっつーのに。とんだ無駄骨じゃねーか」

 奥の部屋から出てきた家主である銀時は堂々と悪びれもせず、あっちこっちに捻じ曲がった天然パーマの頭を掻きながら、ぐだぐだと言った。
あまりの理不尽な言い種と扱いにイラッとした橘香は、

「ぎ〜んと〜きく〜ん、あっそびまショッ!!」

 橘香は素早く犬の腹の下へ潜り込むと、その勢いのまま犬を銀時へ放った。
 火事場の馬鹿力である。

「あ゛あ゛あ゛あ゛っ、定晴ゥゥゥ!?」

 ドシャと華麗に銀時の上に着地した犬は楽しそうに尻尾を振りながら、また「ワンッ」と鳴いた。
 意外と賢いみたいで橘香はホッと息をついた。




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