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 三人揃った万事屋はあっという間に騒がしくなった。

「あー!!銀ちゃん、何食べてるアルか!寄越せヨ!残りは全部私のモノネ!!」

「ふざけんな!!甘味は全部俺のモンだァァァ!!」

「ちょっとォ!!僕の分は!?」

「うっさいネ、駄メガネ!!お前の分なんてあるワケないアル」

「食卓は戦場だ!!強者だけが生き残れんだよ!!」

「食い意地張るのもいい加減にしろォォォ!!」

 ケーキを巡っていい歳した大人が子供達と取っ組み合いの喧嘩をしている光景は何とも言い難いが、とりあえず面白いので橘香は携帯でカシャッと写真を撮っておいた。
 争う三人の下には神楽がケーキに突進した時にソファーから突き落とされていた桂が踏み潰されている。

「いだだだだだ!!ちょっ、踏んでる!!踏んでるからァァ!!!」

 これではもう話しは出来そうにない。
 騒ぎの中、橘香はそっと立ち上がり帰ることにした。
 そのまま玄関へ出るとのっそりと立ち上がった定春が後をついてきて尻尾を振って橘香を見送ってくれた。


「ホント賢いな。今度の手土産はドッグフードかな」

「何!?橘香、お前もあの魅惑の肉球を狙っているというのか!!餌付けとは卑怯な…負けんぞ!定春くんをモフモフするのはこの俺だァァァ!!」

「黙って、ヅラちゃん。恥ずかしいから。知り合いとか思われたくないから」

「ヅラちゃんじゃない、桂だ」

 家路を行く橘香の横を人目を避ける為なのか、編み笠を被った桂が並んで歩いていた。

「わざわざ追いかけて来て、何か話でもあるの?」

「…確かめたいことがあってな」

 そう、桂は言うと少し黙ってからおもむろに口を開いた。

「攘夷戦争時代、こんな噂を耳にした。ある村が戦火で壊滅したと。昔住んでいた町の近くということもあったから詳しく聞いた。村は焼かれ、生き残ったのはほんの一握りだけだったらしい」

「…あの頃にはよくあった話だね」

「ああ。だが、この話が可笑しいのはここからだ。助かった者達が皆、口を揃えてこう言ったらしい。『黄昏時たそがれどきに鬼が出た』と」

 桂は一旦、口を閉じると橘香を真っ直ぐに見て言った。

「黄昏の鬼はお前じゃないのか?橘香」

 どうして桂がそう思ったのか橘香には分からなかったが、今更そんな昔の話を持ち出されたくもなかった。
 広がる炎と夕陽と血。混ざり合う赤い世界に取り残された惨めな子供を思い出したくはなかった。

「さぁ?そんな大層な名前で呼ばれた覚えはないよ」

「…そうか」

 桂はそれ以上聞いて来ようとはしなかった。



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