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それは、めっきり暑くなってきた日のことだった。
田舎に帰るという小さい野望を胸に秘めながらも女中の仕事と雑務をこなす日々にもすっかり慣れた橘香は、お上の緊急要請を受けた隊士達の慌ただしい様子を横目に何故かのんびり座っている近藤と会話しながら淡々と書類を仕分けていく。
「そういうことらしい。姫様が何処へ行かれるかなんて俺達にはさっぱりでなァ…。そこで!碓井さんも捜査に協力してもらえんだろうか?女の子同士なら姫様の行きそうな場所とか俺達よりは分かると思うし」
どうかな?という感じの期待に満ちた視線を向ける近藤を無視して橘香は「いや、自分江戸のことは詳しくないんで…」と断っていると、
「局長、1番小さいサイズありました!!」
「ヨシ!じゃあ、碓井さん。コレに着替えてくれ!!」
近藤の指示で山崎が差し出したのは平隊士の隊服と黒いキャスケット帽。
「…何コレ?」
「いいから、早く着替えて着替えて」
山崎に急かされながら別室へ押し込まれた橘香はアレ?断った筈だけど…と思いつつ、とりあえず隊服を着てみた。
流石に刀は渡されなかったのでいつものように短い木刀を腰に差した。
コスプレみたいで嫌だなと思いながら近藤達の元へ戻ると山崎によって橘香の髪は結い上げられ、帽子の中へすっぽりと隠された。
「これで今日一日、君は真選組の隊士だ!!よろしく頼むぞ。碓井くん」
グッと握った拳の親指を立てて笑う近藤にイラッとした橘香はその親指を逆に捻った。
痛みで悲鳴を上げている近藤とその横でワタワタしている山崎を置いて先導を切って歩き出す。
「ハァ、さっさと見つけて終わらせましょう。行きますよ、二人共」
土方さんに特別手当て出してもらえるように交渉してやる!
内心そんなことを考えながら橘香は江戸の町へと向かった。
「そういえば聞きそびれていたんですが、何ですかその格好?」
「これか?いやー、隊服は暑くてなァ。総悟が作ってくれた夏服だ!」
近藤は服装はいつもの着ているシャツやベストがなく、上半身裸で何故か肩口から破られたような袖のないジャケットを着ていた。
「最近、暑いですからねー。夏服出来てよかったですよ」
そう機嫌良さげにいう山崎の隊服の袖もやはり無い。
「あー、ある意味貴方達(バカ)にしか着こなせないですね。似合ってますよー。きっとロッカーになれます」
遠回しな嫌味は伝わらず、「そうか?」と嬉しそうな近藤達に呆れるが、その後に合流した他の隊士達の殆んどが同じ仕様の夏服だったので、この組織大丈夫なんだろうか?と橘香はもの凄く不安になった。
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