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 散らばる空のグラスや一升瓶。
 もうどれくらい飲んだのか橘香の記憶は曖昧だが頬は顔色は少しも変わっていなかった。
 そして、最初は意気揚々と飲んでいた銀時がどうなったかというと、赤いを通り越して青い顔でテーブルに突っ伏していた。

「オ、オイ…酒弱ェんじゃ……」

「苦手とは言ったけど弱いとは言ってない」

「味が苦手なんだよねー」と橘香が言ってグラスに残っていた酒を飲み干すと銀時はチーンという仏具の音と共に完全に撃沈した。

「いやー、いい飲みっぷりだったよ。オジさん感心しちゃった」

「人は見かけによらないモンだね。これだけ飲んでも顔色一つ変わらないじゃないかい」

「田舎で爺さんによく付き合わされてたんで」

 やんやと盛り上がる見物客の歓声に答えながら橘香は財布を取り出した。
 二人分のお金をカウンターに置くと、他の客達と飲み直すと言う長谷川に挨拶をして、銀時の腕を今度は自分から肩に回させて椅子から立ち上がらせた。
 身長差でズリズリと銀時を引き摺って歩く橘香を見かねたお登勢が、

「大丈夫かい?すぐ上に連れて行くってだけでも大の男だ。大変じゃないかい?」

「だーいじょうぶですよッ!!」

 ガシャーーン
 銀時を支え、両腕が塞がっていて店の引き戸を開けられなかった橘香は頭突きでぶち開けた。

「オイぃぃぃぃ!!全然大丈夫じゃねェじゃねーかァ!!」

「だーいじょうぶ!ちょっと間違っただーけ」

「あははー」と笑いながら橘香は「うっ、キボチワルイ゛」と言い出した銀時を路地に投げ捨て、銀時が吐いている間に外れた戸をバシィィンと勢いよく嵌め直した。
 因みに橘香はお酒は弱いとは言っていないが強いとも言っていない。
 あまり顔に出ないだけだったりする。

「お登勢さーん!また来ますね」

 ヒラヒラと手を振り、返事を聞く前に橘香はピシャッと戸を閉めた。
 そして、再び地べたに転がった銀時を抱えると二階の万事屋に続く階段をガン、ガン、銀時の足をぶつけながら登って行く。
 明日銀時の足は青アザだらけになることだろう。
 フラフラと万事屋の玄関前にたどり着けば勢い余って橘香はまた、ガシャーーンと頭突きで戸を開けてしまった。

「うーん、いったいナ二アルか?」

 大きな音で寝ていた神楽を起こしてしまったらしい。
 パジャマ姿で眠そうに目を擦っている神楽を見て、少しだけ酔いが醒めた橘香は悪いと思いながら聞いた。

「こんばんは、神楽ちゃん。銀時くん、お酒飲み過ぎて潰れちゃったんだけど、どこに運べばいいかな?」

「そんなんその辺に転がしとけばいいアル。いつものことネ」

「……いや、出来れば部屋まで運んであげたいんだけど。私が潰したようなモンだし」

「じゃあ、アッチに運べばいいアル。銀ちゃんに変なことすんなヨー、芋子いもこー」

「そんなことはしません。つーか、えっ?芋子って何!?」

「だって、お前の名前知らないアル」

 そういえば顔を合わせいても#name1
#は神楽とはちゃんとした会話はおろか、自己紹介すらしていないことに気付いた。
 橘香はその場に銀時を放り出し、ちょこんと正座するとペコリと頭を下げた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。碓井橘香と言います。銀時くんとは昔馴染みで短い期間ですが同じ寺子屋に通っていましたァ」

「神楽ネ。かぶき町の女王アル。こんな時間に私を起こしたお詫びに今度、酢昆布持ってくるヨロシ」

 歌舞伎町の女王……何処かで聞いたフレーズのような気がしたが橘香は思い出せなかった。




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