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その名に相応しい形相で抜き身の刀を持ち、煙草をふかしている。
あの後、逃げ遅れた橘香は倒れていた沖田共々、土方に殴られ、頭にたんこぶを作りながら正座していた。
「どういうつもりだ。総悟」
「何でィ、土方さん。ちょっとした冗談でさァ」
「洒落になってねーから!!死にかけたんだけどォォォ!!」
苛立つ土方は沖田に数回、斬りかかるが綺麗に躱される。
ひとしきり刀を振り回した後、土方は不満気にため息きを吐き出して何かを取り出した。
ドサッ
「潜伏中の攘夷浪士の資料が燃えた。山崎のどーでもいい作文みてーな報告書を読んで纏めろ。ついでに始末書も書いとけよ」
置いた紙の山を指差しながらそれだけ言うと土方は部屋を出ていった。
あまりの量に橘香が呆然としていると何故かその横に二倍程の別の紙の山が追加された。
ドササッ
「俺のバズーカに触りたいって言ったのは橘香さんでさァ。…つーことで、コイツもよろしくな」
沖田も紙の山を指差しながら言うと変なアイマスク片手に「じゃ、俺は見回り行くんで」と部屋から出ていった。
「サボるでしょ!絶対サボる気ですよね!!なにどさくさに紛れて仕事増やしてんですかァ!!あと、俺のバズーカって止めてくれません!?別の意味にも聞こえるから!!」
どんなに橘香が訴えても沖田は我関せずといった感じで戻ってくることはなかった。
仕方なく存在を主張する紙の山に手を伸ばし、橘香は読み始めた。
本当に小学生の作文ような山崎の報告書にお前の感想はいらねーんだよとイライラしつつ、要点を書き出してひたすら纏めていく。
そうして集中していたせいか、いつの間にか昼食を食べそびれていたことに橘香は山崎が声をかけるまで気付かなかった。
「橘香ちゃん、もう三時なんだけど大丈夫?」
「えっ!?」
早番女中は三時までだ。
人手は足りているから橘香が抜けたぐらいでは問題はなかったのだろうが申し訳ない。
時間を認識すると橘香の腹はぐぅと空腹を訴えてくる。
それを聞いた山崎がクスッと笑わった。
誰のせいだと思ってんだ!半分は確実に沖田さんのせいだけどもう半分はアンタの報告書のせいなんですけどォ!!
心の中で不満をぶちまけているとおにぎりが二つ並んだ皿がスッと差し出された。
「女中のおばちゃん達からの差し入れだって。」
「ありがとう、ジミー!!」
「ジミーって、せっかく持ってきたのに、何この扱い……」
ブツブツ不満を訴える山崎を放って、おにぎりを頬張りながら残っていた最後の一行を書き切った。
「モグモグ、終わった。モグモグ」
「えっ!?この量を終わらせたの?」
橘香はお座なりに頷いて二個目のおにぎりを頬張るのに夢中だ。
十数件の攘夷浪士の報告書を二時間程で纏めた上に沖田の持ってきた一番隊の書類もついでに終わらせた。
混じっていた沖田自身の始末書は沖田の字を真似て土方への悪口を書くという手の込んだ嫌がらせまでしている。
驚きながら書類を確認する山崎を余所に温かいお茶を飲んで橘香は、やっと一息ついた。
「ホントに終わってる……」
「じゃ、女中さん方に挨拶して帰るんで。それ土方さんに提出してもらっていいですか?」
「うん、分かった。 それより、時間があるならいつものしない?」
期待に満ちた目を向けてくる山崎に本題はこっちだったんだろうなと橘香は思いながら了承した。
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