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「「ジャーンケーン、ポンッ」」

 力強く出された橘香の右手はグーで山崎はパーでした。

「よっしゃ!俺の勝ちだから今日はミントンだ」

 いそいそとラケットを用意する山崎。
 最近気付いたのだが山崎はジャンケンで橘香が何を出すかが分かるようで三回に二回はミントンになる。
 ちなみに山崎が勝てばミントン、橘香が勝てばチャンバラごっこをしている。
 今日みたいに風が無く、暖かな春の昼下がりはミントンがしやすい。

「あ〜あ、いいよなァ橘香ちゃんは。今度の花見、行かなくていいんでしょ?」

 「俺なんて場所取りだよ」とパシュッとシャトルを打ちながら山崎は器用に愚痴をこぼす。
 橘香は適当な相槌を入れながら打ち返してゆるいラリーを繰り返す。
 腐っても警察である彼らは花見をするといっても全員でする訳にはいかず、半分は屯所に残り仕事をする。
 そのため、女中もいつも通り仕事をしなければならないので花見には参加しない。
 むしろ男だらけのむさ苦しい花見に参加したいとは誰も思っていないのだった。

「花見、いいじゃないですか。毎年恒例なんでしょう?そういうの大事ですよ」

 命がけの仕事をしている彼等が、来年もまた揃って花見を出来るとは限らない。
 ならばそういうの時間を大切にしておくべきではないかと橘香は思った。

「いーや、アイツらはただ飲みたいだけ」

 すっかり気持ちが荒れて不貞腐れてしまっている山崎。
 いい人なんだけどこういう所が面倒臭い。

「山崎さん、こういう雑用を進んで引き受けることで器のデカさをアピールし、のちの下剋上への人望のいしずえとするんです」

「何で下剋上ォォ!??そんなん起こさないから!!」

「男なら夢はデッカく征夷大将軍!」

「無理ィィィ!!つーかそれ、もはや攘夷浪士!!」

 つい、悪ノリして橘香が山崎をイジっていると遠くから「山崎ィィィ!!」と土方の怒号が迫ってきた。
 「いや、俺…今休憩中で……」と言いつつも山崎は反射的に逃げ出して、すぐ追い付かれ、土方に蛸殴たこなぐりにされた。

「何で仕事中にミントンしてんだ!さっさと見回り行けっ!!」

 ガスッと最後に一蹴り入れると土方は、しれっと片付けをしていた橘香へと紙を突き出した。
 「読め」と言われたので橘香はとりあえず受け取って書かれている文章を読んでいると山崎も気になったのか横から覗き込んできた。  

 『      辞令
   真選組女中 碓井橘香殿
    本日より庶務の兼任を命ずる。
        真選組局長 近藤勲  』

「副長、庶務って所謂いわゆる雑務係ってことですか?」

「ああ、近藤さんに許可貰った正式な辞令だ。しっかりやれよ、碓井」

 山崎と土方の会話を聞きながらどうしてこうなったと橘香は頭を抱えたくなった。
 楽して稼ぎたいのに仕事が増えるなんて冗談じゃない。
 抗議しようと橘香が口を開く前に土方が言った。

「瞳孔開きすぎた気持ち悪ィニコチンマヨラー野郎だったか?総悟のフリすんならもうちょっとマシな書類もんにしろ。あと、マヨをバカにすんな。切腹させんぞ」

 そう言い捨てて、土方は屯所内へ戻って行った。
 悪口の始末書はどうやら橘香の仕業だとバレてしまっているようだし、辞令はそれの報復でもあるということがニヤッとわらった土方の表情から見て取れた。
 自分では結構いい出来だと思っていただけに橘香が余計、苦々しく思っていると山崎が教えてくれた。

「あの始末書はね、綺麗過ぎなんだ。沖田隊長が副長の悪口をあんなに風に書くワケないからね」

 …さすが監察。でも、気付いてたなら提出する前に教えてくれてもいいんじゃない!?



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