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橘香の携帯のディスプレイには土方と表示されている。
庶務になってからこうして呼び出されては書類の処理やお茶汲み、主に山崎がいない時にパシリのようなことをさせられていた。
しかし、今日は花見で土方は屯所にはいない。
無視してやろうかとも思ったが一向に鳴り止まない着信音に若干、恐怖を感じて橘香は電話に出た。
「あっ、出た。遅いですぜ、橘香さん。上司からの電話には3秒以内に出るもんでィ。団子買い忘れたんで買って来てくだせェ」
電話をかけてきたのは沖田で、橘香が返事をする前に用件だけ言うと電話は一方的に切られた。
花見に同行している隊士の誰かに頼めばいいのに何で屯所で仕事中の自分にわざわざ土方の携帯を使ってまで頼むのか分からず、橘香がイラッとしていると話を聞いていたのか他の女中達が「こっちはいいからお団子持って行ってあげて」とニコニコ言ってきた。
女中のおば様方はあの顔だけチワワ美少年の味方だ。
橘香がこの提案に逆らって得られるものは何もない。
「……分かりました。あとよろしくお願いします」
ため息を吐きたいのを堪えながら着ていた割烹着や三角巾を取って、橘香は愛車に乗って屯所を出た。
途中、しっかり団子屋に寄ると適当に詰めて貰った団子を持って真選組が花見をしているはずの公園へと向かった。
公園に近付くに連れて桃色の花びらがヒラヒラと視界を横切って行く。
「江戸の桜も綺麗なモンだね」
スクーターを駐輪場に停めて団子片手に公園に入る。
山崎から聞いていた場所の方へ歩いて行くと遠巻きにされている、見るからにガラの悪い集団を早々に見つけた。
しかし、その中で美しい桜並木と同じ桃色の着物を着た綺麗な女性がいるのが見えた。
和服美人とは彼女のような人のことをいうのだろう。
スッと伸ばされた背筋で凛と座した姿が絵になっている。
彼女を見ながら橘香は焦る。
まさか警察ともあろう者が一般市民に迷惑かけてるワケじゃないよね!?
真選組の不祥事にでもなれば橘香も職に溢れてしまいかねない。
急いで駆け寄ろうと踏み出した時、女性の様子が一変した。
何かを唱えながら片手で振り上げられたピコピコハンマーがヘルメットを被っていた近藤の頭へ恐ろしい威力で振り下ろされたのだった。
ドゴと鈍い音を立ててヘルメットは砕け、近藤は倒れて気を失った。
「局長ォォォォォォォ」
「てめェ、何しやがんだクソ女ァァ!!」
「あ゛〜〜〜〜、やんのかコラ」
「「「「「すんませんでした」」」」」
近藤を慕う隊士達が女性に食って掛かるがさっきとはまるで別人の彼女の一睨みでその場にいたほぼ全員が土下座した。
橘香は物凄く帰りたくなった。
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