11味方はどこだ■■


「や、やめて下さいそんなこと……」
「ふははは、良いではないか良いではないか」
「ちょっと待ったー!!俺たちのプロデューサーを離せ!!」

……的なかっこいい展開が待っていると密かに期待していたのだが、現実はどうやらそううまくはいかないらしい。目の前をひゅんひゅんと現在進行形で飛んでいる黄色い球。

「痛い、痛い!!」

時折私の身体にぼこぼこと当たってくる黄色い球。それは手を後ろで拘束されしまっているために、自分で避けることができないせいである。

「お姉さまは私がお守りいたします!!」
「その手にあるものはなんだろう」
「木刀です、倉庫から拝借してきました」
「お待ちなさい」

物騒なものを構えてながら、私を庇うように立ってくれた司くん。ありがたいけどなんか違うよ。時代考慮だとかそれ以前に、下手したら事件になるからね。

「あんたたち、よくもアタシ達の可愛い名前ちゃんを攫ってくれたわね」
「そう!それです!!」
「攫うなら美しいお姉さま……そう!私を攫いなさい」
「おバカなのかな」

己の体型を考えてみなさい。運ぶとき傍から見たら、攫ったというよりも介護かなんかだよ。そもそも攫われるようなたまじゃないでしょうに。

まるで祭りごとのようにわあわあ言って騒いでいる騎士さまたち。なぜこんなことになっているのかと言うと、時は数分前にさかのぼる。

何者かに口を覆われて意識を飛ばした後、目を覚めたらそこは見慣れた形の教室。誘拐犯である人物は、わが校の普通科男子生徒三名だったらしく、彼らは目の前で椅子に座って話をしていた。

「knightsを解散させるための人質になってもらう」
「私ごときであの人たち動きませんよ」

絶対そうだ、間違いない。はっきりと断言してやると、あからさまに動揺する彼ら。「あれ?話と色々違くない?」なんて声がチラリと聞こえたのだが、この際無視しておこう。

「じゃ、じゃあ君がKnightsを辞めてもらう」
「構わないですよ」

寧ろ願ったり叶ったりだ。忘れてもらっては困る話、私は自ら望んで入ったのではなく“強制連行”の末なってしまったのだ。辞めたことで今までの気楽な生活が待っているならば大歓迎。今度こそ彼らは大きなとした声で「話と違う」と叫んだ。

その声は意外と大きかったようで、教室内に響く。すると廊下をバタバタと騒がしく響く足音。扉ががらりと乱雑に開けられて、廊下から入ってきたのは見覚えのありまくる4人衆。

「うちのクソガキ、返してくれるー?」

大きな袋を背負い妖しい笑顔で立っている瀬名先輩。その大きな袋から取り出したのは黄色いテニスボールで。そういやこの人、テニス部だったか、なんて悠長に考えていたのも束の間。物凄い速さで飛んできたそのボールは、男子生徒をすり抜けて私の顔すれすれにの壁にバチンと当たって転がり落ちる。

心臓がひゅっとなり顔を青くした私と犯人トリオ。こちらを見つめて愉快そうに口角を上げた瀬名先輩に、ヤツは本物の悪魔だと確信した。





そんなこんなで、現在に至るわけだが、目の前でテニスボールをバンバン投げては微笑む先輩と、必死な形相で逃げ惑う誘拐犯。どちらが悪者だと思うかと問われば、私は間違いなく前者を選ぶ。

「ねえ、凛月?」
「名前、無事で良かった」

両手に抱えるほどのサイズの可愛らしくラッピングされた袋を大事そうに抱えて、ゆっくりこちらに歩いて来る凛月。にこりと私に微笑みかけてくるものだから、ようやく私の手の縄を解いてくれる人物が現れたと期待したのだが、彼はなんと私の横に腰を下ろして瞬く間に寝息を立て始める。

「ちょっと待て。ちょっと、凛月」
「ん〜……、なにぃ?」
「よくこのわんちゃかした空間で寝ようと思ったよね。というか何しに来たの?」
「えー……?名前を助けに来たんだよ」

ツンツン肘でつつき起こすと、眠そうな目を擦ってそう答えた凛月。にわかには信じがたい。とてもじゃないが助けに来たとは思えない。

「ちょっと誘拐犯。この子の顔に傷でもついたらどうしてくれるつもり?」
「そっくりそのままお返しします」

登場早々、人の顔面すれすれに剛速球放ってくれたのお忘れですか?

「ますます見れない顔になって困るんだよね」
「助けに来たのかdisりに来たのかどっちなの?」

仁王立ちしたまま昂然として立っている彼の足元には、無数のテニスボールが転がっている。すっかり怯えてしまった誘拐犯は、腰を抜かして教室の隅で固まってしまっていた。

「かわいそ……。もはやあっちの方が親近感あるよ」
「なにか言った?」
「イエナンモナイデス」

ようやく空中を飛び交うものがなくなったところで、嵐くんによって、両手が解放される。すっかり恐縮してしまった様子の誘拐犯三人組を見て、嵐くんがあららと同情の笑いを洩らした。司くんはまだ警戒しているのか、キッとした目で私をかばうように立ち、委縮した彼らをずっと睨みつけている。

「どうしますか、ここはやはり日本男児として然るべき征伐を……」
「なにする気?」
「それはもちろん、日本文化の誇るべき木刀でドカンと一発……」
「全ての意味で首飛んじゃうよ」

木刀を両手で構えたまま、怯えた彼らに近づこうとする司くんの襟を捕まえると、ぐっと苦しそうな嗚咽が漏れる。どうやら私の手を払ってまで向かうつもりはないらしく、複雑そうな顔をしておずおずと戻ってきた。

「助けてあげたんだから、お礼はしっかりもらうからね」
「顔面でボールキャッチしそうになった挙句、カツアゲされるなんて……」
「俺はお礼、名前でいいからね〜」
「是非ともお金でお返しさせて頂きます」

さっきまで生き生きとした表情で、ボールを投げていた瀬名先輩。テニス部なのにボールの扱い方間違っていいのかという疑問は置いておくとして、ちゃっかり見返りを要求するってどうなの。縛られていた所為でヒリヒリ痛む手首には赤く痛々しい跡が生々しく残っていた。窓から見える空はすでに真っ暗になってしまっている。そう言えばもうそろそろ門が閉まる時刻ではないだろうか。ならばそろそろ鍵当番が回ってくる……

「貴方達、こんな遅くまで何をしているのです。……この教室の有様はどういうことか説明してもらいましょうか」

そうですよねやっぱ来ますよね。最悪なことになってしまった。扉の前で眼鏡を光らせていた椚先生。なんと普通科まで巡回しているとはご苦労様です。彼の目の前に広がっていた光景は、一面テニスボールの海と化した教室に、木刀を構えた生徒、怯えて教室の角で震える3人の生徒。

完全に捕まる、こっちが捕まる。間違いなく加害者こっち。背筋が凍り付いていくのを感じていた。





予想以上に、ことは重大な事件として扱われ、私達は職員室に呼び出されている。

「窓の破壊、学校所有物の勝手な持ち出し及び乱用、他学科の生徒への暴行……。わかっていますね?」
「は?元はと言えばアイツらが名前を攫って……」
「発端がどうあれ、何をしたかわかっているのかと聞いているんです」

広い間取りにも拘らず、もう残る先生が誰もいないようで、誰も話そうとしない静寂の空間に重々しい張りつめた空気が漂う。口を開いて反論した凛月が、不服そうに視線を落とした。

「これだけ問題を起されて、ただで済ますわけにはいかない。悪いが君達には」
「先生」
「仙石さん、貴方の日々の取り組みに関しては高く評価しています。しかし、残念ですがここの秩序を守るためには……」
「すみません、私が今回の騒動の原因です」

椚先生の言葉を遮るように口を開く。皆の視線が、一斉にこちらを振り向くのが口に出したが最後、もう戻れないことはわかっていた。

「私が全ての責任を負うべきです。移籍でも退学でも好きなようにして下さい。なのでそれだけにしてください。お願いします……」

深々と頭を下げる。沈黙がこれほど心地の悪いものだとは思わなかった。カチカチと時計の音だけが空間に響く。これで良いのだ。そもそも専属になる気なんて元からなかったし、これでフリーになれば晴れて平和な日常が待っている。退学にはならないだろうけど、あるとしたら普通科に移動とか転校かな。それも一般女子高生としての生活に戻るだけだし、良いだろう。

「ちょっと名前」
「瀬名先輩すみません」

隣で信じられないと言うように目を丸くした瀬名先輩の、驚いたような顔の先輩と目が合う。なんだかんだこの人も今になっていたら私のこと気にかけてくれてたよな、なんて思えば自然に頬が緩む。そうしたら先輩は気に食わなさそうに顔をそらして、「そう」と一言だけつぶやいた。

「俺も脱退でも退学でも構いません。このユニットの現リーダーである以上、責任は俺が担います」
「ちょ、瀬名先ぱっ」
「うるさい黙って」

真っ直ぐと先生を見つめながら、堂々と言い放たれた言葉に今度は私が目を丸くした。正気化と疑いたくなったが、その瞳は真剣そのもので、思わず腕を掴むとあっさりと振りほどかれてしまった。

「責任を負うべきなのは仙石じゃなくて、俺です」
「それならアタシも止めなかったし責任があります」
「私が木刀を持ちだしました」
「俺も、寝てたし」

次々と口を開くメンバーたち。最後の凛月の言葉に関しては、ちょっと違う気がするのだが、取り敢えずこれはまずいのではないか。全員退学にでもなろうものなら本末転倒だ。冷や汗が流れる。隣の見上げた瀬名先輩が青筋を浮かべている。

「ちょっとお前ら……」

何が一番まずいって、ここでKnightsの誰かが処分にでもなってファンクラブなんかに今回の騒動がばれでもしてみろ。間違いなく私が終わる。ファンクラブに殺される。地味に息の長く人気なグループだ。そのファンたちの数といい熱量と言ったら馬鹿にならない。忍と離れるのは名残惜しいが、大人しく私が平和な生活に戻るのが一番いい。

「私が悪くって……!」
「もう、いいですよ」

がやがやと騒ぎ出す私達を、先生の穏やかな声が一喝する。

「貴方達が反省しているのは十分わかりました」
「そ、それって……」
「今回の件については不問にしましょう。そのかわり」

珍しく微笑んでいる先生が、少しの間を置く。思わず息を呑みこむと、想像以上に自分が緊張していたことに気が付いて、乾いた喉元がごくりと音を立てた。

「仙石さん」
「は、はい」
「これからは、“正式”なKnightsの専属プロデューサーとしてお願いしますよ」
「……は?」

椚先生の想定の範囲外な言葉に、思わず零れた間抜けな声。「あらやだ」「marvelous」とか先ほどとは打って変わった呑気な声が聞こえるが構ってる場合じゃない。正式にってなに?え?今までは正式じゃなかったの?

「正式って……」
「聞いていませんでしたか?」
「全く」
「今まではお試しにKnightsの専属として定期間いてもらう予定だったんですよ。様子を見て専属か、他の専属か、または限らず全体のプロデューサーとしてか。見てから決めるつもりでした。しかし、いまのを見る限りうまくやっているようですからね」

非常に嫌な予感がするのは、気のせいでしょうか?先程とは別の意味で背中に変な汗が流れている。誰だ、そんな重要なことを黙っていた奴。

「瀬名くん、彼女になにも言わなかったのですか?」
「言ったとばかり思っていました」

お前か犯人は。すみませんと言ってるわりに、あっけらかんとしているのを見る限り、この人絶対反省していない。わざとか?興味なかったのか?言うの面倒だったのか?どれだって最悪なことに変わりはない。この……

「馬鹿泉……ぐっ!!?」

ぽつりとばれない様に小声でつぶやいたというのに、鬼なだけにお耳の方も地獄耳なようで、信じられないくらい強い力で二の腕をつままれる。声にならない悲鳴を上げれば、そんなに嬉しいのか!良かった!と豪快に笑って見せる校長先生。言ってはいけないのだが、その輝く頭を割ってやりたい、心からそう思った。