12貴方に届け■■


「名前ちゃん、こんな暗いんだから送るわよ」

空はいつの間にか真っ黒に染まってしまっていた。教室の机に座って夕焼けをぼんやりと眺めていたのは、今日の出来事だというのにそんな気が全くしない。あれから拉致されて、退学を覚悟して、正式に専属になって、色々ありすぎる1日だったせいだろうか。1日とは思えないほどに長くて濃くて、あっという間な1日だった。

「別にいいよ。流石に一日に2回も攫われるわけないし」
「そうとは限らないわよ?ほら遠慮しないで!行きましょう」
「遠慮?ははっまさか……っておい、聞け」

静まり返った夜の町がマンションや街灯の明かりでキラキラ光る。嵐ちゃんは私の話も聞かずに腕を引いて歩み進める。なんとなくこうなる気はしていたが、やはりここで大人しく帰る連中ではないか。それにしても5人でこうして歩くのは、思い返してみればこれが初めてな気がする。すぐ横の車道、そこで車が通り過ぎていく。

「忍くんから聞きましたよ、今日は家に姉弟2人きりだそうですね」
「俺、肉じゃが食べたいなぁ」
「名前ちゃんの家、楽しみだわぁ〜」
「君達もしかしなくても家にあがるつもりだよね」

どうなの。高校生がこんな時間にふらふらしていてもいいの?前方で悠々と街灯の照らす道を進んでいく彼ら。その軽い足取りの目指す先はきっと私の家なのだろう。こいつらは疲れを知らないのだろうか。ため息交じりに空を見上げれば、夜空には丸い月が私達を見守るように輝いていた。

「先輩方、恐らく仙石家には今忍くんと鉄虎くんがいます。そこでですが、今ここで予定していたsurpriseを致しませんか?」
「あら、夜空の下でサプライズ?なかなか司ちゃんもロマンチックじゃな〜い」
「サプライズ?なんかあったの?」

そう言えば、先ほどから気になっていた凛月が抱えている可愛くラッピングされた大きめの袋。見た感じプレゼント的な包装をされているが、あれとなにか関係があるのだろうか?それにしてもずっと持っているよな、朝からもう持っていた気がするんだけど。

「ここでやるとか馬鹿なの?俺もう疲れてるんだけど……」
「ふふ、セっちゃん今日1日中そわそわしてたもんねぇ?楽しみだったんでしょ〜」
「1日中それ持ち歩いているあんたに言われたくないんだけど!?」

暗い夜道に響く楽しそうな会話。ガードレールの向こう側を通る車数段々は少なくて、辺りには静寂が広がり、冷たい風の吹く音と彼らの声だけが響いていた。にぎやかに帰路をたどるのも案外悪くないかも知れない。次第と彼らといる時間が気に入りつつある自分がいることにようやく気が付く。

「お姉さま、どうしましたか」
「ふふっ、何でもないよ。それで何のサプライズ?瀬名先輩変態記念とか?」
「ちょっと名前こっちおいで」

なんだかたまらなく可笑しくて、笑いをこぼせば司くんが「お姉さま?」と不思議そうに見つめてくる。瀬名先輩の苛立った声を流しながら、隣に並んだ司くんのまつげの長さに注視していると、いつの間にか反対側に凛月がいて。だんだんとこちらに寄ってくる凛月にのせいで私は2人の間にサンドされる。

「ちょ、凛月近い近い」
「はい、じゃあまずは俺からね。はい名前、あげる」
「え?」

そう言って手渡されたのは、凛月がずっと抱きかかえていた可愛いラッピングをされたなにか。ピンクの可愛らしいリボンで口を閉じられているそれを渡されると、ふわっとした感触が袋越しに伝わる。

「俺からのプレゼントだよ〜。俺だと思って大事に扱ってね」
「う、え?ありがとう?」
「ふふ、俺が名前のために選んだんだからね、可愛がってよ」

なんの記念のプレゼントかいまいちわからないのだが、開けられることを待ち遠しそうにしている黒猫を無視できるわけもなく。「開けていい?」聞けばふんわり笑みを浮かべた凛月に、ピンクのリボンをするりと解いて、中のふわふわを丁重に取り出すと出てきたのは可愛いクマのぬいぐるみ。

「わぁ、可愛い……」
「でしょ、なんたって俺が珍しくちゃんと選んだものだからねぇ」

全体的に黒いカラーのもふもふの毛並に真っ赤なクリクリの瞳。カラーリングが凛月と全く一緒だから思わず笑ってしまう。言っちゃなんだが凛月に見えてきた。瀬名先輩が彼に付けたあだ名もくまくんだしな。自然と頬が緩む。

「ふふ、喜んでいるところ悪いけど遅くなるといけないからどんどんいくわよー。はい、じゃあ次は司ちゃんとアタシね」
「は?ねぇちょっと。なんで俺が最後なわけ!?」
「はい、かしこまりました。ではお姉さま、瞳を瞑って下さい」

無視とかあんたら何様なの!?と先輩の激怒する声が聞こえる中、渋々と瞳を閉じる。

「oh……このまま口づけても、いいですか」
「止めてね」
「お姉さまがそう言うのなら仕方ありませんね……では、失礼します」

「ひっ……」

首に当たる冷たい感覚に思わず肩が跳ねる。ごめんなさいと謝る司くんの声があまりにも近くから聞こえるので、反射的に眼を開けると、視界に映った司くんの首筋。

「何してんの!?」
「おわっ、お姉さま!!目は閉じていて下さいと言ったではありませんか!?……いや、でももう着け終わったので大丈夫です」

そう言って数歩下がっていく司くんの視線を追って、自分の胸元に視線を降ろすと、シルバーチェーンにハートの形をしたネックレスが首にかかっていた。銀色がクロスしてできたハートの中央に光る赤い色が、司くんらしい。

「綺麗、なんか司くんらしいね」
「ふふ、お姉さまに喜んで頂けたようで良かったです」
「アタシからはこれね!」

えっでもこれ高いのでは。ネックレスに触れた指先を密かに震わせていると、その手を引いた嵐ちゃんに手渡されたのは長方形の数枚の紙。カラフルな絵柄を見て思わず停止する。

「嵐ちゃん……これは?」
「ふふふ〜驚いたかしら?遊園地のチケットよ!近いうちに皆で行きましょう」
「5枚以上あるね」
「多い方が楽しいものよ」

少なくともこのメンツで行くのは、いささか恐ろしい末路が待っていそうで気が引けるのだが。おまけに5枚以上あるということは他にも犠牲者が……いけない、深く考えるのはやめておこう

「あ、でもアタシを誘ってくれないのはいやよ?!」
「もちろん誘うよ。ありがとう嵐ちゃん」
「どーいたしまして。ふふ、喜んでもらえてよかったわ」
「ところで……」

そもそもなんでみんなしてこんなプレゼントをくれるのだろうか。本当に今更なのだが、正直誕生日まだだし、これと言って記念日ではないし。重い口を、渋々開く。

「私……誕生日じゃないんだけど」