■04■待ち伏せ失敗?■■ これぞ春だ。ポカポカとした暖かな気候の中、穏やかな風が頬を撫でて心地よい。おまけに早朝と言うこともあってか、私は異常なほどの眠けに襲われていた。くわっと大きな欠伸を隠さずにしたところ、横にいる人物から怪訝な目を向けられる。 「ちょっとー。うざいんだけどぉ?」 「欠伸だけでうざいとは。そんなんじゃ嫌われるおじいちゃんになりますよ」 「はぁ?意味わかんない。なんでここで老後の話になるわけ?」 異様な眠けのせいで開かない目。こくりと思わず船を漕げば、起きろと頭にチョップを頂く。 「いったぁあ!?」 こいつ、女子の頭殴りやがった。恨めしい視線を送るが、早々にそっぽを向いてしまった彼が此方を再び見る気配はない。じりじりと痛みだす頭部のおかげか目が覚めたようだ。 「はぁ〜い、おはよ。ちゃんと働いてよねぇー」 「何も叩かなくたって……」 「こうでもしないと、起きないでしょ」その言葉にぐうの字もでてこなかった。最近どうも睡魔に勝てないのは、いつも眠そうな凛月のそれが写ったせいか、それともただ単に疲れているからか。……いや絶対後者だな。 「わざわざ起こしてやったんだから感謝して」 「無茶苦茶や」 「なに、なんか文句ある」 「イエ、ナイデス」 そんな会話をしているうちに、校門からちらちらと人の姿があらわれ始める。流石、アイドル育成の学校と言うべきか、入ってくる人物たちの顔面偏差値は見事なものである。 「……ところで、今日はなんで私呼ばれたんですか?」 今日の私は、何年前ぶりであろう“目覚ましコール”というもので目を覚ました。その相手は、驚くことに瀬名先輩からのもので。件数およそ30件という莫大な回数をかけてまで、彼は私を起し、こうして早朝から連れてきたわけだが。 「……3時なんてほぼ真夜中に、目覚まし食らったからにはそれ相応のことじゃないと、私怒りますよ」 いかんせん、時間がひどかった。電話に出ながらも、寝不足のためかくらくらとする頭でカーテンを開けば、外は真っ暗で。朝の眩しい光がそこにあるとばかり思っていた私は、心霊現象かと思い心臓が止まりそうになった。どうりで起きないわけだ。だって完全なる夜中であるもの。 「はぁ?当たり前でしょ」 「そうですよね。良かっ……」 「じゃなきゃこんな早朝からあんたのブサイクな顔見ようと思うわけないじゃん」 「帰っていいですか?」 やれやれと首を左右に動かしながら、呆れた表情を浮かべる彼に叫んだところ、鬼のような形相で睨まれる。なんだかんだ言って一番怖いよこの人。 「は?何言ってるわけ?俺の努力を無駄にするつもり?」 「瀬名先輩が努力……したんですか?」 え、ヤダ嘘ありえない。 信じられない……そう口に出してしまえば、間違いなく私の首が色々な意味で飛んでしまうので、代わりに思いっきり驚いたような表情をして目の前の彼を見やる。 「そう、言っておくけど、俺一睡もしてないんだから」 「瀬名先輩……」 「だから…付き合ってくれるよねぇ?」 “俺の練習に” 恐らくそう言うことなのだろう。あぁ奇跡だ!!あんなに面倒だとか、無理とか言って練習にあまり参加してくれなかった先輩が、自ら私に練習をお願いしてくるなんて!! 「もちろん!!こうなれば、仙石名前。瀬名先輩のために全力で働きます!!」 * 甘かった。 「瀬名せんぱーい……」 「なに、うるっさいんだけど」 草むらに潜み、肩をくっつけるように登校している生徒たちを見守っている私達。片方は真っ白く大きな板。片方は高級そうなカメラ……恐らく一眼レフというやつを手にしている。 「これ…犯罪ですよね」 「何言ってんの?なわけないでしょ?」 ゆうくんが俺に撮られて喜ばないわけがない。そう言ってこちらに見向きもせず校門にカメラを向け続ける先輩。ああ、世の中の盗撮する人たちって、こんなこと思っているんだろうか。犯罪心理を一つ覚えた気がした。 手元の板を少し傾ければ、歩いている男子生徒の顔面が照らされる。あ、ヤバいと思った時にはもう遅く、眩しっ、と叫び声が遠くに聞こえてゆっくりと茂みに隠れた。 「何やってんの?あんたバカ?」 「いやだって、手上げてるの辛いし……。おまけに眠いし」 いつか眠けが襲ってくることは覚悟できてはいたが、まさかこんなに早く来ようとは。先ほどの瀬名先輩が練習してくれると舞い上がったときの興奮が抜けた反動故だろうか。大体、なんでこの阿保のためにこんなバカでかい板を掲げてなければならないんだ。 「先輩、ところでこの板なんですか?」 「そんなことも知らないわけぇ?レフ板くらい覚えときなよ」 「わぁ、なんだかんだ言って教えてくれるんですね。優しくて感動しちゃうー」 手伝うと宣言してしまったからにはもうやるしかない。諦めたらそこで試合終了ですよ、なんて有名な先生が言っていたが、人生というもの何事にも諦めが肝心だ。草むらから飛び出ている、瀬名先輩が一睡もしないで借りてきた所謂(無駄な)努力の結晶、真っ白なレフ板。新緑の中に角ばった真っ白い無機質な物体。こんな異質なものがあればもう目立つに決まっているわけで。そこでふと遠くから歩いてくるオレンジ色の頭を発見する。 「あ……明星スバル」 「誰それ」 「ゆうくんと仲良しの同じユニットの友人の子ですよ」 「ちょっと懲らしめてくる」言うやいなや、バサッと草むらから生えるようにして立ち上がった先輩の足を慌てて止める。 「ちょ、嘘嘘!!ほら、同じユニットならゆう君来るかも!!取るチャンス!!」 「それを先に言ってよ、ほんっと紛らわしい」 なんだろう、すごく腹が立つ、そして恐ろしいほど疲れている。身体に重くのしかかる疲労感にぐったりとしながらも、また草むらの中でじっと校門を見つめる。疎かになっていた手元のレフ板が、かなりブレて光をまき散らしていたようで、校門付近の人間全員がこちらを見ていた。 「……鬱だ」 「近寄んないで、陰気が伝染る」 「伝染して差し上げます」 隣から離れようと、座った状態で足をもごもごと動かす先輩の腕をがっしりと掴む。振り払おうと手を乱舞させる彼に死ぬ気でしがみ付いていると、その姿は明らかに滑稽で。ざまあみろとほくそ笑みながら茂みの中で暴れるのを抑える視界の横で、私たちを見て一瞬眉をしかめるも、恐る恐ると近づいてくる人物に気が付いた。 「あれ転校生?何してんの?プロレスごっこ?」 「いや違う」 「ちょっと本気で信じらんない!!葉っぱすごいついたんだけど!?」 スバルの介入により一時休戦となる。お互い葉っぱまみれになりながら、瀬名先輩は自身に付いた葉っぱを不機嫌極まりない様子で取り払いはじめた。そんな姿に内心でざまあみろと言ってみる。もうヒロインの欠片もない気がするんだけど、まぁいいでしょう。 「へぇ〜流石転校生、もう既に先輩と仲良いんだね!!」 「そう見えたかな?それは良かった」 「良くないんだけど!!!誰がこんなクソガキ」 「そんな後輩を叩き起こしたの誰でしたっけ?!」 再度にらみ合いながら口論し始める私たちを、じーっと興味深そうに見つめていたスバル。突如ゲラゲラと笑い始める。さぞおかしそうに腹を抱えて笑う彼に呆気に取られて、口論していた口をポカンと停止させていると、そういえば彼が1人であることに気が付く。 「今日は、真くんいないの?」 「え、ウッキ〜??」 その次に飛び出してきたスバルの言葉に、私達は言葉を失うことになる。わなわなと震えだしている瀬名先輩の顔を、直視する勇気私になかった。 「ウッキ〜なら、今日は委員会の仕事で午後からくるよ」 「なんでも、アナウンスコンテストだって!!ウッキ〜はともかに〜ちゃんは心配だよねー…てあれ?どうしたの名前?顔真っ青」 この頃の私にはまだ、「ゆうくんのスケジュールぐらい抑えておけポンコツ」なんて煽る勇気はなかったんだと後の私は語ることになる。一方で「あの頃の俺はゆうくんへの愛が足りていなかった」と語る先輩がいることは秘密にしておく。 ■■さいととっぷ |