二度あることは三度ある

大体こうなるような気はしていた。クラス替え、席替え。2回続いたその不運がもう一度起ってしまうような嫌な予感。二度あることは三度ある、つまりはそういうことだ。

「ちょっとなんであんたがいるのさ」
「こっちが聞きたいわ」

いつの日かみたいに、“A”と書かれたくじを睨み付けてみる。だがやはりだからといって何かが変わることはない。当然だ、ただの紙なのだから。グループごとに分けられた机、同じくAの紙切れを持つ目前の性悪男の隣に腰かける。もちろん不本意だが。

「いっそ瀬名も紙で出来てたら」
「なに、しゃべらないから良いとか言うんじゃないでしょうね」
「ペラッペラで速攻破ってやったのに」
「泣かすよまじで」

常時隣だというのに、なんでこんな時まで隣にならなくてはいけないのか。傍からため息が聞こえた、恐らくはすみんのものだろう。横から高らかに笑う声が聞こえる、言わずもがなこれは千秋のものだ。

「ははは、歌羽がいてくれるのは心強いな」

もうじき夏の大型ライブが始まる。学期末テストと同じようなもので、クラス内に2〜3人のチームで出し物を披露する。歌だったりダンスだったり取りあえずアイドルに関することなら何でもokだ。稀に劇や漫才なんかをする人もいる。

「本当信じらんない、なんでこんなバカコンビと一緒なわけ!?」
「は?それはこっちの台詞なんだけど?!」
「俺はあんたと違って馬鹿じゃないから」
「まぁ瀬名、凄腕のプロデューサーが仲間なんだ。これは喜ばしいことだろう?」
「別にいらないんだけどこんなポンコツ」
「誰がポンコツだって?」

同チームの仲間を探すとき、まず大声で「Aのやつはいないか」と叫んでいる千秋を見つけて安堵した。それに頭を抱えながら近づいていく銀髪を見つけた私の落胆ぶりといったらすごかったのだろう。傍にいた羽風が「大丈夫?」と声をかけるほどに。

「このメンバーでとか最悪」
「別のところに行きたい、いっそサボりたい」
「な、歌羽!!それは困るぞ!!」

3つの机を三角形に合わせて座っている私たち。頬杖をついて口を尖らせてそっぽを向いている猫毛にとても腹が立つ。その可愛げのない態度、何時になったら治るのか。

「はーい、じゃあ今から何するか相談だ」

先生の大きな声が教室に響く。クラスはもうお祭り騒ぎで、そんな先生の発言におぉー!と雄たけびがあがった。反響する楽しそうな笑う声、やけに遠く感じるのは気のせいではないはず。

「はぁ…やる気出ないんだけど…」
「……はぁ」
「瀬名も歌羽も目が虚ろだぞ大丈夫か?」
「大丈夫でしょ、この前だって熱っぽいとか言っときながら健康体そのものだったし」
「あれはなずなが勝手に言ったんでしょ」

ジャージに着替えてカーテンを開いたときは、本当に驚いた。部屋から出ていったとばかり思っていた瀬名が、「はいこれ」と言って体温計を渡してきたのだ。居ることだけで驚きなのに、体温計…体温計まで渡してきたのだ。

「絶対今日は空から槍が降ってくると思ってたのに」
「はい、泣かすわ決定」
「瀬名ごときが相手で泣かないし」
「本当に心配して損したんだけど」
「心配してたの?」

ガヤガヤと混沌している教室では、最早大声で話す先生すら何を言っているのか聞き取れない。なのにグチグチと話すコイツの声は鮮明に聞き取れてしまう、不思議だ。

「授業中こっち側に倒れてこられても困るからねぇ」
「なるほど」
「こんな石頭落ちて来たら、俺の腕が折れる」
「随分と軟弱な腕ですこと」

どうせそんな理由だと思っていたけど。コイツが人の心配をするなんて考えられない。ましてや私の心配なんて余計にするはずがない。

「ははは、そうなのか瀬名?」

そう言って瀬名に笑いかける千秋、意味ありげな言葉にふと首を傾げる。つんとそっぽを向く瀬名に詰め寄る千秋の笑みは少しいたずらっ子のようで。

「なにが」
「昼休みあんなに必死になってさが…」
「あぁああ?なんのこと、俺は散歩していただけなんだけど?」

こそこそと話を始めた彼らに私は首を傾ける。はて。この2人、こんなに仲が良かっただろうか?

「そうか?散歩で忙しかったんだな!」
「そういうこと…。あぁ、もういいでしょ」

「お前も中々可愛いな」そういって瀬名の背中をバシバシ音を立てて叩く千秋に対し、叩かれている瀬名は心底不機嫌そうに顔をゆがめている。後者は「ちょっと痛いんだけど」と言ってみたり腕で押し返すなど控え目な抵抗をするが、まるで千秋は聞いちゃいない。なんだこいつら、コントでもする気なのか。それはそれで私の仕事が減っていいのだが。そんな真正面でじゃれ合う2人を見ていると、突然「あぁ!!」と先生の声が耳に飛び込んできた。

「言い忘れていたが勝ったチームには豪華景品があるそうだ」

その言葉に空気がガラリと変わる。同時に瀬名の目がギラリと輝いて、それと視線が重なった。恐らく私の目も同じように燃えていると思う。

「瀬名、今の聞いた?」
「聞いた」
「豪華景品だって」

空色の綺麗な瞳が真っ直ぐと私を捉えている。豪華賞品、その言葉にクラスもざわつき始めた。

「ゆうくんのCDとか」
「それはないわ」
「まだわかんないでしょ」
「ハワイ旅行かもしれないよ」
「それこそないわ」

視界の端で、態度を一転させた私たちを見て目を丸くしている千秋。この際、説明は不要だ。これはもう…

「優勝するしかない」
「言われなくても」

豪華商品だ。アイドル科や様々な科を持つ、恐らくがっぽり儲かっているであろう、私立夢ノ咲学院が出す豪華景品だ。それはもう狙うしかない。

「どうする、どう攻める?」
「優勝狙うからには歌とダンスだけじゃ足りないよねぇ」
「差が欲しいよねえ」
「そう」

机からメモを取り出して書き出していく。端で千秋が「お?」とか「おぉ!!」とか言っているが最早気にならない。こちらは本気なのだ。幸い個々の戦力的には瀬名も千秋も上位である。これは狙える、行ける。内側にメラメラと闘心が沸き上がってくるのを自分でも感じていた。それは瀬名も同じようで。

「ユニット的に言えば戦隊と騎士……どっちもヒーロー寄りだよね」
「系統が近いから統一感でなんとかするか」
「片方があえてダークヒーローっぽくしてみるのもありかも」

頭の中で代表的な悪役を思い浮かべていき、ハッとしてメモから顔を上げる。机に肘をついて腕を組んでいた瀬名を凝視してやっぱりと思ったのだ。

「瀬名って性格で言うなら悪役一択だよね」
「まじであんた嫌い」
「2人はやっぱり仲が良いな!!」

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