拾.近侍の災難

「にしても、こんな早く再会できるとは思わなかったよ」
「前の本丸ぶりだから2日ぶりか」
「そうだね」

2日、という短さが面白かったのか、思わずくすりと笑う隣人につられて頬が緩む。縁側で2人、仲良く肩を並べながら会話していた。前こそはよくあったことだったが、本丸が別々となれば早々機会はないだろう、そう思っていたこの光景。そのため、経緯はどうであれ、またこうして笑いあえたのが嬉しかった。横から聞こえる男子にしては高めの落ち着いた声に、時折懐かしさを覚えながら、庭園の橋の上を歩いていく鯰尾と鶴丸の背中を見つめる。彼らもまた、思い出話に花を咲かせているのだろうか。

「それにしても驚いたよ。空ちゃんが倒れたなんて聞いたときは」
「ほんと、私も吃驚したもん」
「大事がなくて良かった。心配したんだからね」
「ありがとう」

気恥ずかしさ故に頬を掻く。翌々考えたら、その緊急入電が陸に行った届いたということは、他の本丸にも入電が入ってしまった、ということだろうか。そう考えると身体から体温が消えていく。

「その入電、まさか審神者全員にいったとか……」
「あぁ、それは大丈夫。今回のは俺とおじさんと海にしか届いてないよ」
「そこ2人かあ」

よりによって、一番知られたくないところに伝達されてしまっている。陸同様、親密な間柄にある2人には入電が届いてしまうだろうな、となんとなく察っしてはいたが。今頃2名とも頭を抱えているんだろうな。海はともかく、おっさんについては後で何か言ってきそうである、と思うとため息が出てしまいそうである。しかし、今は審神者全員に放送されて醜態を晒すようなことになっていないだけ、喜んでおこう。

「本当はね。俺達3人の本丸だけは、特別に力が共有できるようになるらしいんだけど」
「それって陸の霊力がここの本丸でも使えるようにってこと?」
「そうそう。逆もしかりで空ちゃんの神力もらったりね。できるようにおじさん頑張ってくれてるんだって」
「なるほど」

流石おっさん。常時だらけているようでやるときはやる男である。視界の中、鶴丸が何かしでかしたのか、鯰尾が鶴丸を追いかけ始めた。その鯰尾の頬は若干赤いように見える。畑の内番中だった乱ちゃんとまんばが、その様子をぎょっとした顔で見ている。

「でも今までに事例がない案件だからか、その方法見つけるのにも許可取るのにも時間がかかりそうなんだってさ」
「そっかぁ。まぁそうだよねえ……」

視線を足元に落とした。サンダルを脱ぎ捨て裸となった足を、ぶらぶらとふらつかせる。だから昨日、おっさんに連絡した時“もう少し待って”と言ってたのか。きっと霊力が共有できるようになってから、鍛刀させるつもりだったのだろう。本来であれば、3つの本丸に霊力を使おうものなら、それこそぶっ倒れてしまう。しかし、この子は違う。陸の秘めている霊力は本当に底知れないのだ。この子であれば小さな本丸の3つや4つ、軽々と背負えてしまうだろう。

「だから、もう暫くはこうして行ったり来たりが続くのかな」
「そうかぁ。申し訳ない……」
「ううん、いいよ。俺も2人と会えるの嬉しいからね」

顕現したばかりの長谷部と鶴丸を案内していた獅子王が、まだ馬のいない馬小屋から2人を連れて出てきた。そこで鬼ごっこしている鯰尾達が、3人の目の前を勢いよく駆け抜ける。何事かと目を見開く3人。流石、戦場を何度も経験している者同士の鬼ごっこ。その殺気といい速さといい、ただごとには到底見えない。

「それに、ほんとは少しだけ安心してるんだ」

少しトーンの落ちた陸の言葉に、ふと目を向けた。そうすれば、そこには目を伏せて微笑む横顔があった。長いまつ毛が瞳に影を落とした綺麗な横顔は、いつもに増してとても儚気に見えた。

「気が弱い俺は、2人にいつも頼りっぱなしで。1人で審神者なんて、本当に出来るのかなって」
「……陸」
「おじさんとか皆は普通にしてることなんだけど、俺にとっては2人が隣にいることが当たり前だったから。そんな2人が遠くへ行っちゃったような気がしてて、不安で……ってごめん」
「私も、同じ」

そう言って笑いかければ陸はゆっくりとこちらを振り向く。私たちのしんみりとした空気にそぐわない鶴丸の断末魔が背後から聞こえた気がしたが、鬼ごっこが開始された時から目に見えていたことなので気にしない。太刀の機動で脇差しから逃げられるわけなかったのだ。

「ここにきて、本丸が広く思えてしょうがなくって、どうしようもなく寂しくってさ。前は2人がいたのに、今は1人だって……」

そんなこと言っちゃったから鯰尾に怒られたんだけどね。そう言っておどけてみせれば、陸も眉を下げたままふっと笑う。

「それに、場所は違えど、頑張ってることはみんな一緒で、あの時と変わらないから……」
「そっか。確かにそうだね」
「でしょでしょ」
「やっぱり空ちゃんは相変わらず逞しいや」

そうして笑う陸の顔は、いつもの優し気な笑顔に戻っていた。

「よし、そろそろ帰ろうかな。このままじゃ鶴が破壊しちゃいそうだしね」
「いっそ、そうした方が楽なんじゃないの。馬鹿は死ななきゃなんちゃらっていうし」
「そうしたいのはやまやまだけど、生憎、大事な近侍なものでね」
「相変わらず仲がよろしいようで」
「空ちゃんたちに言われたくないな」

ははは、と珍しく声を出して笑う陸。なんだか鶴丸に似てきてしまっているような気がする。そうして陸がツンツンと指差しで示すのは、鶴丸に馬乗りになっている我が近侍鯰尾の姿。それを必死になって獅子王、山姥切が止めに入っている。興味深そうに見つめる乱に、他人事とは思えないのか顔を引きつかせている鶴丸に、白い眼でそれをみつめる長谷部。目を離した隙に偉い絵面が完成していて密かに驚いた。

「鯰尾君、腕に怪我してるでしょ。迎えに行ったとき、先に直してあげるって言ったんだけどね。頑なに断られたんだ。それより空はどこですか!無事ですか!ってさ。よほど心配だったんだろうね、誰かさんのこと」

後で手当てしてあげてね。穏やかに口元で弧を描きながら、視線を鯰尾に送っている陸に、静かにこくりと頷いた。鶴丸に真っ黒い笑顔を浮かべ、掴みかかっている鯰尾の腕には、不器用に包帯が何層も巻き付けられていた。
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