オレンジ頭注意報 「わかった!!お前この遊園地の守り神だな!?」 「何故そうなった」 「いいや、絶対そうだ!!」 だめだ、この人言葉が通じない。私が声をかけたその青年、振り向いたその顔は予想以上のイケメンで驚いた。これならアイドルになれるのではないだろうか。なんて思っていたのも束の間、急に輝いた瞳をしてインスピなんとかと言って騒ぎ出した。その人物、ようするに奇人だったわけだが。 「守り神って……いや、嫌な気はしませんけど」 「やっぱりそうだったか!顔がここのマスコットキャラにそっくりだ!!」 「前言撤回嬉しくない」 神々しいとかいった理由じゃないのか。手渡された遊園地のパンフレット。その端っこにいるキャラクターは、依然見た通り、国民的ヒーローのあんパンに毛の生えたような女の子のキャラクター。 「私、こんなに髪少ないです……?」 「ん?いやあると思うぞ」 「なら!!」 「頬っぺたあたりが似てるよな!!」 「ぶっ飛ばしますよ」 そんなぶくぶくしてないわ。初対面相手になんてことを……。ふとKnightsのメンバーを思い出す。考えてみればあの人たちも最初から変人丸出し、失礼極まりなかったよな……変人は誰相手だって変人だということだろうか。 「ところで、俺に何の用だ?」 「そう、案内板……」 「待って!!妄想するから!!」 「あぁあああ!!!」 ならば最初っから聞かないでほしい。これで何回目だと思っているんだ。インスピレーションが湧くとか溢れるとか先程からそればかり。いい加減耳にタコが出来そうである。 「そのインスピレーションとはなんです?」 「あぁ、邪魔するな!今大切なとこ!!」 最早入り込む余地はない。 「そうだ!!」 イケメンオレンジ頭が大きな声を、突然上げて肩が跳ねた。 「こんなことしている場合じゃなかった!!」 「え?」 「探し物してたんだ!!じゃあな!!」 「え、あ。ちょ……」 颯爽と駆けだした青年。呼び止めようとして中途半端に伸ばした手。しかし少し遅かったようだ。踵を返すや否や、あっという間に遠くなる姿。まるで台風のようだとその背中を唖然として見送る。良かったような困ったような……。とにかく骨折り損だったのは確かだ。 …ひとまず歩いてみようか。 そう思ってふと方向転換した瞬間、後ろからガシっと腕を掴まれる。即座に思い浮かんだのは嵐くんと真緒の顔。もしかしたら探しに来てくれたのかも、と淡い期待に振り返る。 「おい、お前迷子なんだろ?」 「あれ、さっきあっちに猛ダッシュしていったんじゃ……」 しかし、その思いは簡単に打ち砕かれた。意外なことに、それは先程人ごみに消えたと思っていたオレンジ髪の青年だった。ほら行くぞ、返答も待たずに腕を引っ張られる。 「ちょ、行くってどこに!?」 「わからない、っというか目的地が分からないから迷子なんだろ?」 「確かに……」 「探し物ついでに、お前の仲間も探せばいい」 ははは、と八重歯を見せて笑った彼。その笑顔が何故か頼もしいものに見えた。もしかしたら彼に話しかけて正解だったのかもしれない…… 「なんだ?その間抜けな顔は」 「元からです」 「そうか!良かった良かった」 「よくない」 少なくとも私にとっては。笑い事とは思えずムスッとした態度で未だ腕を引く彼を凝視する。「ん、もしかして俺と行くの嫌なのか」そうして首を傾かせた彼、意外と人を見ているようだ。 「なら迷子センター行くか」 「是非お供させてください」 「あのマスコットにされたら困るもんな」 「まだ言うか」 正解、だったのかわからない。 * 「それでこの前なんて、バイクで飛び出しそうな先輩を抑えつつ、同級生の寝惚けた方の首根っこ捕まえながら、後輩の高ぶる感情をなだめて、同級生の中性的な方の美容話に耳を傾けるという荒業を為す羽目に」 「お前の友達って変わってるな」 「そうですね」 豪快に笑う貴方も、きっと彼らに引けを取らないくらい変わり者だと思います。心の中でぽそっと言ってみる。そこでキョロキョロと頻りに下を見渡している彼に気が付く。そういえば何かをさがしているんだったっけ? 「えっと……貴方は何を探しているんですか」 「ん、ルカたんの髪留めを探してるんだ」 「るかたん……?」 るかたんとは。ルカちゃん担当の略だろうか。“るか”というアニメキャラかアイドルのファングッズ的な?訳分からず眉を寄せていると、彼が「因みにルカたんは俺の妹だ」と補足する。なるほどシスコンか。やはりキャラが濃かった。 「どんな形ですか?」 「んー……キラキラしてて花の形してて、とにかくキラキラしてるな!!」 スバルが飛びつきそうだな。というかそれならスバルに探させたら10秒もかからないのでは。そこでふと、真くんとホッケでいったお化け屋敷のことを思い出す。 (いきなり離れたから驚いただろう。ところで何か拾っているように見えたが、何かあったのか?) (あ、そうそう……。キラキラしててもしかしたら落とし物かと思って) 広げた手のひらにあったのは、可愛らしい髪留め。白いお花の形をした飾りの真ん中には、大きなラインストーンが太陽の光を浴びて輝いていた。あれどこにやったっけ? 確かポケットにしまっていたはず……。あ、あった。 「もしかして、これですか?」 「あぁあそれだ!なんでお前が持っているんだ!!」 「ちょ、声でか……。落ちてたんですよ」 手のひらに乗せて見せたものに、大きな叫び声を上げたイケメン。一斉に周りの他人がこちらを向いた。きらり、太陽光を反射させる綺麗な髪留め。きっとこの人の顔から想像するに妹さんも相当美人なのだろう。太陽のような明るい女の子に良く似合いそうだと思った。 「お化け屋敷の中です、覚えてますか?」 「あそこか、通りで外全部探してもないわけだ」 高らかに笑いだす彼。今さらっと大規模な捜索をしていたことをカミングアウトしたよな。「ありがとな」そう言って満足気な笑みを浮かべて、髪留めをスボンのポケットにしまう。 「じゃあこれで、お前の迷子解決に専念できるな!」 「言い方なんか嫌だな」 「迷子だろ?」 「そうです」 何故だろうか。なんとなくこの人には頭が上がらないような気がする。圧倒的ボケなんだけど、どこか威厳があるというか……。少しつりあがっている翡翠の透き通った瞳に、どこか矛盾した違和感を覚える。一瞬、王様。そんな言葉が脳裏を過ぎった。 「ところで、お前名前なんて言うんだ?」 「え」 その綺麗な瞳が不意に視線が交わる。さて、初対面で名前という大事な個人情報を教えるのは如何なものか。いやでも 「仙石です」 苗字なら問題ないか。 「そっか。名前は」 一瞬ドキリとする。恋愛的なものではなくて、不安というか恐怖というか、そういう部類のドキリで。 「……なんでそんなこと聞くんです?」 「ん〜、お前面白い奴だからな」 質問と答えが一致していないような気がしているのは私だけだろうか。 「また会いたいからな」 唐突な少女漫画に出てくるような台詞と輝かしい笑顔に言葉を失くす。八重歯を見せて綻んだ笑みが、なんとなく子供らしく見えた。もしかしたらそんなに年が離れていないんじゃないか、そう感じた丁度その時 「名前ちゃーん!!!?」 「名前ーどこにいるんだー」 「出ていらっしゃーい!!」 探す方法が典型的すぎやしないか。あいつら。 大声で叫ばれている私の名前に顔が青ざめる。個人情報ばらまかれている、これはヤバい。ここで、はい!と返事したって、この年で迷子になった馬鹿な名前ちゃんは私です。って高らかに宣言してしまうようなもんじゃないか。これでは出るに出られない。 「そっか、お前名前って言うんだな」 「何故ばれた?」 「そんなわかりやすい反応久しぶりに見た。やっぱりお前は面白いな」 「微塵も嬉しくないんですが」 「それより、行かなくていいのか?あいつら気付かずどっか行っちゃうぞ?」 そして背中をぐいぐい押される。人でごった返した広場の中、迷いのない手に導かれ進めば、きょろきょろとしながら歩いている嵐ちゃんが人混みの合間から見えた。瞬間、背中にある手が不気味なほどタイミング良く離れていく。 「あ、名前ちゃん!!」 嵐ちゃんの声と同時だったか。 「またな、名前」 そんな優しい声が背後から聞こえたのは。 「心配したのよ〜。大丈夫?怪我はない?」 「子供じゃないんだから」 駆け寄って来て、さぞかし心配そうに眉を下げている嵐ちゃん。その声に気が付いたのか「いたか?!」と駆け足に真緒がやってくる。元々体力のある2人んなのに、双方少しだけ息が乱れていて、一生懸命に探してくれていたのだろうと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。 「さぁ、行きましょ?もう皆集合場所に戻っているわよ」 「瀬名先輩も?」 「あの後すぐ戻ってきたわ。見ちゃいけないもの見たって言ってね」 「見ちゃいけないもの……?」 お化けだろうか?こんな真昼間から?思わず眉を寄せる。そこでふと思い浮かんだのは先ほどの青年。ばっと振り返れば、そこには流れゆく人たちの姿があるものの、オレンジ色は見当たらない。そこで何やら胸騒ぎがして。 「あら、どうしたの?」 「嵐ちゃん、私さっきまで人といたんだ」 「やだ!誘拐!?」 「違う、と思う……」 多分。 「なんだかオレンジ頭で奇行が多い人。インスピレーションとか叫んじゃう馬鹿っぽい人で……嵐ちゃん?」 何故彼は目を見開いているのだろうか。え、いや。あれ? 「知ってるの?」 「泉ちゃん……。なるほどねぇ」 「なるほどじゃないよ。え、なにどういうこと?」 ここの隠しマスコットキャラクターとかじゃないよね?お化け屋敷から出てきたお化けとか?泉ちゃん?瀬名先輩が変装したとか……いや演技力。え、なんで嵐ちゃんはそんな納得したような面持ちなの?頭の中の情報が溢れて絡まってパンクしそうだ。 「さぁ、行きましょ!待たせたら怒られちゃう」 「待てや」 オレンジ頭恐怖症になるじゃねえか。何やら嬉しそうに私の手を握ったまま歩く嵐ちゃん。その背中を見ながら私はただ混乱するしかなかった。不意に頭を過ぎった声「またな」背中がゾクリとする。もしかしたら彼は……。 「この遊園地の守り神かもしれない」 「名前、そろそろこっちの世界に帰ってこい」 ハッとして隣を見ると、そこで真緒が呆れたように笑っていた。よくよく考えてみれば彼は優しかったし、触れた感覚も触れられた感覚もあった。最も、触れあった箇所は暖かかった。妹のルカたんもいることだし、きっと危ない人じゃないはず。そう信じよう、そうしよう。そういえば、本人の名前聞くの忘れたなあ。 また会ったらお礼を言わなければ そもそもまた会えるのか でも「またな」って言ってたし いや社交辞令ということも ……まぁなんでもいいか 考えるのが面倒だ。自問自答の末中途半端に投げだした。そう思う頃には皆の楽しそうな声が耳に届く距離まで戻ってきていた。集合場所には、見慣れた顔がずらりと並んでいてほっと安堵する。しかしながら、皆が笑っている中、微笑む瀬名先輩と怯える真くんだけが異質に見えた。 司くんたちが大量に抱えているのは恐らくチュロス。あぁ、嫌な予感がします。 |