
「おい、身長何センチだった!?」
「んー?132!!」
「まじかよ!!俺より3センチ高い!?」
ふふ、また私の勝ちだね。そう言って笑ったあどけない少女の顔が、また、遠く感じた。手を伸ばせば届く距離にいるのに、遠く離れて行ってしまうような不安が再び胸を絞めつける。見慣れない自身の小さな手が視界に入って、思わず服の裾をギュッと握った。
*
「身長、何センチだった!?」
「……言いたくない」
「え、なんでだよ!!」
「だって……全然伸びてないんだもん」
帰り道、既に日は落ち始めていて、オレンジ色の空が徐々に黒く染まりつつあった。
「ま、まじで!?ってことは……ちょっとストップ!!」
落ち込む私とは対照的に、なぜか彼は目をキラキラとさせて、私の正面に立ちはだかり、自らの頭の上に手をかざした。彼がどこを見ているか見ようとすると、僅かに顔は上を向く。その事実になぜかドクンと心臓が嫌に跳ねた。彼の顔が私の視線より少し上にあるのだ。
「お!!ついに勝った!?俺勝ったーー!!!」
私の上に移動した彼の掌は、私の頭より上にあった。その瞬間びょんっと大きく飛び上がった彼はよっしゃーと雄叫びにも似た歓声を上げはしゃぎだす。
「なあ!!なあ!!俺お前より高くなったぞ!」
「そう、おめでとう」
ついに越されてしまった悔しさ半分、もう背比べを行うことはないんだろうな、もう差が生まれるだけなんだろうなと気が付いてしまっている悲しさ半分。そんな私の気持ちなど置き去りに喜ぶ彼に何故かうまく笑うことができなくてその横を通り過ぎた時。
「これで、またお前を守れるな」
「……え?」
「前は、最初っからでかかったから、それでも、お前は遠い存在だったから」
その意味が私にはわからず、どこか遠い目をした彼の金色の瞳を見つめるばかり。
「でもこれで、ようやくお前に追いついたぞ!!」
「……追いついたって言うか、もう越してるじゃん」
まだ僅かに空に残ったオレンジ色の眩しい光が、彼の明るい金髪を照らす。満足そうに八重歯を出して笑う彼にどう反応していいかわからず目を反らした直後。
「置いてかねえよ」
いつもより低い声が鼓膜を揺らした。
「なあ……」
砂利を踏みしめる足音が、ゆっくりと近づいてくる。伏せた視界に汚れたスニーカーが映る。
「俺、ようやく、ここまできたよ」
少し悲しげな声色に、恐る恐る顔を上げると、今まで見たこともないような彼の泣きそうな顔があった。それがとても大人びていて、思わず見惚れてしまいそうで、息を呑む。
「もう、置いてなんか行かせねぇからな」
強い力で引き寄せられて、彼の胸の中にすっぽりとはまる。すがりつくような抱擁に、彼の背中をポンポンと2度叩くと、彼はありがとうと、小さく呟いた。
