「兼さんが!!兼さんがついにくる!!やったああ!!」
「なんで教えてくれなかったのぉ………」
可愛らしい顔立ちで黄色い声を発しながら騒ぐ堀川は、最早女子にしか見えなかった。頬に手なんか当てちゃって、火照った頬の熱を逃がさまいとしているように騒ぐ姿の女子力よ。そんな彼とは対照的に、机に伏せてぶつぶつ文句を言う私。私たちの温度差は明らかであった。
「みんなで集まってたんなら呼んでくれても……。うう……」
「うわぁ……。清光、ねえ。真空がいじけてるからなんとかして」
「俺今忙しい。原因はお前なんだし自分で何とかして」
「ええ〜。堀川ぁ…はだめだし……。はあ…」
「安定ひどい」
めんどくさそうに他の人に押し付けようとするなんてあんまりではないだろうか。もともと私が落ち込んでるときは清光か堀川が何とかしてくれるから、慣れてない彼がこうなってしまうのは仕方ないのかもしれないけど。それにしたって、女の子の扱いがまるでなっていない。こいつ、絶対彼女できない。
「真空その日は友達と遊び行くって喜んでたでしょ?兼定来ること知ったら悩んで困るだろうと思って……別に悪気があったわけじゃなかったんだよ」
机に伏せた頭の上になだめるような声が降ってくる。心配を孕んだような弱弱しい声に許してあげようかなんて一瞬思ってみたりするが、先程のめんどくさそうな態度が脳裏を過ぎる。こんな時彼氏のいるような女子であれば、ありがとう。だとか、そうだったんだごめんね。みたいに気の利いた言葉を言えるのかもしれないが。
「もう安定とは話さない」
「ああもう、ごめんって」
「許さない」
生憎、私も安定と同じように恋人いない側の人間であって。そんな可愛げのある台詞だなんて言えないのである。短いひねくれた台詞を、伏せたまま吐き捨てた。腕の中で抱き込んでいるように話せばそれは当然くぐもっていて、最早彼に聞こえているのかわからない。
「真空そんなむくれないでよー」
「ほっといて」
「すーぐいじける……。あぁほら、この前行きたがってたクレープの店連れてってあげるから!」
「……クレープ?」
“クレープの店”その単語に顔を上げる。新しく出来たという女子に大人気なそのお店。常に人が絶えないような店にぼっちで行く勇気、私にはなかった。そこで一緒に行こうと皆を誘ってみたのだが、めんどくさいだの、人混みはちょっとだの。流石男子高校生、と言いたくなる理由で断られてしまい、未だに足を運べていなかった。ふわふわクリーム、艶のあるチョコソース……甘美な誘惑が脳裏を支配する。
「おごり?」
「え?あ……」
「お・ご・り?」
疑問符を投げつけて見れば、間抜けな疑問符が返ってくる。すかさず真っすぐと目を見つめて唱え続ければ、安定はあからさまに怯んだ。しばらく間をおいてから、観念したのかぐっと奥歯をかみしめてから大きく口を開いて。
「わーかった!わかった!おごるから!」
「ほんとう!?やったー!!」
喜ぶ私とは対照的に、頭を抱えて今月の残高がどうだとああだとか言っている安定。そのわけはなんとなく察しがついていた。今月彼はゲームを買って金欠になっているはず。恐らくそのせいだろう。可哀想だとは思う、だが許してはやらない。人を雑に扱った罰である。
「今月はあと5000円……」
「なんだ、意外とあるじゃん」
「兼さん兼さん!あぁ……はやく会いたいなあ」
うっとりとした様子で、兼さん兼さん言っている堀川は、まるで王子様の到来を待ちわびるプリンセスのようにキラキラと輝いていた。きっと話しかけても無駄なので放っておいてたが、教室に現れてから未だにこの様子。よくもまあ飽きないものだと薄っすら感心すらしてしまう。
「あああもうっ!ちょっとうるさいんだけど!?今日こっち朝小テストなんだから、少し静かにしてよ!」
そんな堀川を眺めていたら、いままで静かにプリントとにらめっこしていた清光が、しびれを切らしたように机をバンと叩いて立ち上がる。兼定のこととなると騒ぎ始める堀川同様、こんな風に怒りだす清光もまたいつものことなので、そのこと自体には大して驚きはしない。しかし。
「小テスト??」
「加州君まだ勉強してなかったの?」
小テストなんて初耳なんだが?思わず聞き返す。一方で、さも勉強は終わっていますとばかりに堀川が、さっきまでのあらぶったご様子とは異なり、いつもの落ち着いたポーカーフェイスで聞き返す。
「堀川は勉強しなくてもいいだろうけど、こっちはそういうわけにはいかないの!」
「小テストってなに?え?英語??」
「そんなことないよ、ちゃんと寝る前にやってきたよ」
「こっちは寝る前はネイルとか肌の手入れとかいろいろあるの!」
さすが清光。JK顔負けの女子力。まぁ高校にネイルしてきちゃダメなんだけどな。本来であれば呑気にそうツッコんでいるところであるが、今はそれどころじゃない。清光の机の上に広がる参考書と同じ物を慌てて机の中から探し出す。
「やばいやばい、清光何ページ」
「お前本当に知らなかったの……25だよ」
「ありがとう!!」
「真空の場合しなくても0点確実でしょ」
「おい、安定どういう……」
その瞬間、無慈悲にもチャイムが鳴り響いた。