ー指切りげんまん 01ー


ティナとの喧嘩から数日後、トムは入学の準備をするべくダイアゴン横丁にやってきていた。初めての魔法使いの街は今までの空想を詰め込んだおもちゃ箱の様に輝いて見える。全てがきらきらとしていて興奮した。
そして何よりもティナに見せたいと、そう思った。

あれから扉の前で何日も何日も説得を続け、やっとティナは部屋から出て話してくれる様になった。しかし、学校のことはまだ折り合いがつかないのか話すとすぐに逃げてしまう。
「ごめんなさい。」
そう言って涙ながらに走り去るティナは痛々しくて心臓が握りつぶされそうだった。
ティナが自身のことをそれだけ必要にしてくれるのは嬉しい。
しかし、トムはホグワーツ魔法魔術学校で魔法を学ぶ必要がある。それは周りを傷つけないためであり、何よりもティナのためだった。
僕はホグワーツに行かなきゃならない。強く強くトムはそう思った。ティナと過ごすこれからのためには力を制御する必要あったし生活のためには知識が必要だ。

今、ティナとの時間を犠牲にして将来のために学校に行くことはどうしても必要なんだとトムは自分に何度も自分に言い聞かせた。

心の底では気づいている。興味や憧れでそこに行きたいと強く願う自分も確かにいる。でもティナのためだというのも嘘じゃない。
僕はずるいなと自分でも苦笑いしかできなくて。そうやって彼女を理由に逃げる自分が情けなくて仕方なかった。

まだ若いスポンジの様な頭に詰めれるだけの知識と知恵を詰め込んでティナと共に生活するだけの力を手に入れる。堂々巡りの思考の先はいつもそんなことを考えている。

僕は君と共に生きていきたい。
トムの望みはいつでもただそれだけだ。たったそれだけ。











「ティナ、君に大切な話がある。」

「なに、かしら。」

ティナはトムのいつにない真剣な顔にまた魔法魔術学校の話だと直感的に感じた。だからまた部屋に逃げこともうかと考えながら消え入りそうな声で後ずさる。
するとトムは力強くティナの腕を掴み引き寄せた。

「聞いてくれティナ。君にプレゼントがある。」
「え?」

プレゼントとはなんだろうかとティナはトムを見つめた。心なしか赤らんだ頬。真剣な瞳に心臓が跳ねる。
トムはティナの前で跪いた。

「ティナ、受け取ってください。」
そう言ってトムはティナの左手を取り、そっと人差し指に指輪を通した。それは年齢相応なシロツメクサの蕾で出来た小さな指輪。

「トム、これ、これって!」
婚約指輪、そう言おうとしたティナの口にトムは人差し指をそっと当てた。

「ティナ、見て。」

トムが愛おしげに花に息を吹き付けると、固い蕾のままだったシロツメクサは嘘のようにするりと花が咲いた。
ティナはあっと声を出す。可愛らしい花の指輪がティナの左手の薬指に収まっていた。

「ねぇ、ティナ。
今はこんな物しか渡せないけど、いつか立派になってまたティナにプレゼントする。僕は君のことが好きなんだ、だから待っていてほしい。

僕は必ず君を迎えにいく。」

だから、僕のことを待ってて。
僕を信じて。

トムはティナの耳元でそっと囁いた。その言葉は誓いのようにも懇願のようにも聞こえてティナの心の中を愛おしさで埋め尽くしていく。
気づけば返事はとても簡単に喉から滑り出ていた。

「……はい。」




《12/18》
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