ー薬指に口づけを 01ー



子供の無垢な気持ちを詰め込んだあの誓いから7年の月日が過ぎるのに、あまり時間はかからなかった。約束通りトムは毎日のように手紙をよこして梟を困らせていたし、誰よりも早く両手いっぱいのお土産を買って出来る限り二人の時間を大切にしてくれた。
それも今年で終わりだ。トムは今年、ホグワーツ魔法魔術学校を卒業する。

「トム、早く帰ってこないかしら」

あれから私は施設を出た。シスター達は相も変わらずよくしてくれているが、流石に成人に近づくにつれ施設に居座るのは憚られたし、針仕事などの技術も身につけたティナは一人暮らしを始めていた。
森の近くの自然の多い場所に小さな家を構えて細々と暮らしている。
トムがくれたあの小さな指輪を心の支えに静かにトムの帰りを待っていた。
私とトムとの約束の証は今でも押し花にして大切にしまってある。ミュータントであるティナを受け入れた唯一の人間との誓いの証。

トムが学校に通い始めてすぐ、ティナはここが自分のいた時代じゃないことを知ったけどもうどうでもよかった。きっとこれは神様がくれたプレゼントだと感じた。
幸せに生きるチャンスをきっと神様はティナに与えたのだ。


「ふぅ、これで完成」

針をおいて完成した刺繍をしまう。

あれから色々あった。
トムは時折黒く染まってしまったような目をするようになり、残酷になった。


そして彼は父を殺した。

私は怒った。

怒って怒って、そして受け入れた。


トムの望む道をともに歩む決意を私はその時改めてしたのだ。


きっとトムはさらに黒くなる、私の手が届かない闇まできっと沈んでしまう。


今はそれがただひたすら怖かった。




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