ー触れる指先 03ー


私はトムを怒らせてしまったのだろうか。ティナは困惑した。トムは俯き唇を噛み締めて口を開こうとしない。
トムの顔をはっきり見る事のできない状況にティナは不安に駆り立てられる。

「トム、ごめんなさい。私、トムが嫌がる事しちゃったのね。」

ごめんね、ごめんなさい。
ティナは繰り返し謝った。独占欲を受けた事のないティナにとって自分が何か不愉快な事をしてしまったのだと感じたからだ。始めての友人と呼べる存在が怒りをあらわにしている。どう対処していいのかわからなかった。

「ごめんなさい、私次からはちゃんと気をつけるわ。トムが嫌がることはしないから。」

だからお願い、顔を見せて。声は尻すぼみ最後まで音となる事なく消える。トムの笑った顔が微笑んだ顔が見たい。辛そうな顔なんて見たくない。だからそんな顔をさせてしまった自分が悪くて許してもらう為に謝る。
何がいけないかはわからないけれどトムの曇った表情はティナの心を締め付けた。

「ちがう、違うんだティナ。
ティナが僕を探しに来た事はわかってる。それはとても嬉しいんだ。
でも、あいつらがティナを傷つけないか心配でいてもたってもいられなくなる。僕こそ悪かった。」

「トム、トム。私が一番大切なのはトムだよ。だからトム以外の人が何言ったってへっちゃらなの。トムが笑ってくれればそれだけで幸せよ。トムが一番。他の人なんて私はどうでもいいの。」

そう、ティナを一番認めて受け入れてくれるのはトムだけ。施設の人はティナの顔(かんばせ)に寄っているだけ。ミュータントだとバレれば手のひらを返してくるかもしれない。
トムにちゃんと伝わるようにティナは繰り返した。

貴方が一番よ、と。




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