伊達航(1)


掃除の時間、女生徒が萩原と合コンの話をしている際に零のことをW金髪の外人さんWと称した。そのことに伊達は怒る。W誰が外人さんだって?Wと教官顔負けの表情で詰め寄ったのだ。

飯時もそうだ。零のことを金髪のハーフだから英語がペラペラなんだろ?と揶揄った奴にお灸を据えていた。そんな伊達を見て松田は飯を掻き込みながらふとあの女が頭に浮かんだ。

「お前ってさ…」

「ん?」

「伊達みたいなやつに好かれるよな」

「どういう意味だ」

意味が分からずジト目で睨む零を他所に松田は一人うんうん、と頷いていた。

松田は何となく察しがついていた。零と成瀬は特別な関係であるのだろうな、と。幼馴染みの諸伏とは違う空気が二人の間には流れていた。

「次!降谷!!」

「はい!」

逮捕術の授業。道場にて次々と相手をなぎ倒し10人抜きした伊達。既に伊達に負けた松田は防具をつけ試合に挑む零にエールを送る。

「行けえゼロ!リア充野郎に負けんじゃねーぞ!!」

彼女がいると言う伊達に向けた嫌味。まぁ、もし二人が本当に付き合っていたら彼もリア充野郎の仲間入りになるわけだが。態々訊くのは野暮というものだから何も訊かないがあれではバレバレだ。内緒にしたいならもっと気をつけろよ、と何となくその背を睨む。

「おい…萩。どっちが勝つか賭けねぇか?」

班長と零、どちらが勝つか。萩原と売店のパンを賭ける。先の自分との試合で伊達は右膝を痛めている。勝算があった上で萩原に持ちかけた賭けなのに降谷は直前に右膝を狙うのを躊躇してしまう。それが仇となり零の負けとなってしまったーー…


「・・・・」

売店で売っているパンを買い、不機嫌そうに下顎を出しながら廊下を歩いていると肩をポンッと叩かれる。

「二つとも食べるの?」

手に持っている焼きソバパン二つを不思議そうに見つめる成瀬がそこにいた。

「いや、萩に賭けで負けたから。あいつのだけ買うのも尺だから自分の分も買った」

「ハギ?」

「萩原研二。俺やゼロ、諸伏と同じ班」

二人で話ながら歩く。足は自然と屋上に向かっていた。

「…少し髪の長い彼?」

「そう、そいつ。で、デケェのが伊達班長」

「彼は伊達君というのね。良い体格してるよね。すごく強そう」

「あぁ、マジ強ぇ。で、ゼロとの試合の時どっちが勝つか賭けたってわけだ」

「どっちに賭けたの?」

「ゼロ」

「えっ?ってことは降谷くん、負けたの?」

意外そうな顔をする彼女。ついた屋上の扉を開けると風が強く吹いた。

「まぁ、怪我してた班長に気を使ったせいもあるが…」

それに成瀬は「そうなのね…」とその眉は少しだけ下がる。降谷のことを心配しているのかもしれない。しかし直ぐ様、表情は元に戻る。

「松田君も負けたの?」

「あ"ぁん?」

睨む松田に察した成瀬は「コテンパンにやられたのね」と余計なことを言う。

「コテンパンじゃねぇ!」

「挙句焼きソバパンまで奢る羽目に…」

パンだけに…。と言う彼女に松田の口の端がヒクつく。

「くそつまらねぇ、1点」

「W返してく零!Wよりも下なの?残念だわ」

「掃除の時の会話聞いてたのかよ。つーかそう思うならもうちっと残念そうな顔しろや」

そ・れ・に!と松田は自分用に買った焼きそばパンの封を力強く開ける。

「殴り合いなら負けなかった」

半分に千切った焼きソバパンを彼女に渡す。惚けたままの成瀬に「あ?食わねぇのかよ」と片眉を上げると成瀬は小さく笑った。

「ありがとう」

少し潰れた半分の焼きソバパンを手に取り、嬉しそうに一口頬張った。

「あ、美味しい」

「だろ?萩はここのメロンパン気に入ってる」

「今度買ってみる」

会話はそこで終わる。もしゃもしゃと二人で焼きそばパンを咀嚼する音だけが聞こえてきた。互いに無言だけど、嫌な沈黙じゃない。変な女だ。そして零や諸伏のような居心地の良さを感じる。

「伊達君…あのタッパで肩幅もあるから…ミドル級…いやライトヘビー級ぐらいありそう」

「あ?」

「再戦するならヘッドギア着けて、伊達君に減量してもらって…」

「・・・・」

これだ。これだな。この女、ボクシングのことしか頭にねぇ。だから同性との会話が合わないと見た。

「お前…強ぇの?」

「松田君と戦うなら…一ヶ月待って欲しい。本格的に体作ってから…」

「マジレスすんなよ」

「高校最後にしたスパーから降谷くんに勝てたことは一度もない」

ということは、だ。この女もボクシングをやっているということだ。マジか。人は見かけによらない。しかしよくよく観察してみれば確かに人を殴ったことがなさそうなその白い手には拳ダコがついていた。

「ヘッドギアとグローブつけてくれるなら降谷くんとの再戦を間近でみたいな」

「…どっち応援すんの?」

「え?」

「俺とゼロだったら、どっち応援する?」

「もちろん、降谷くん」

「即答かよ、ちくしょう。面白くねぇな」

ぷっ、と二人で吹き出して、ケタケタと楽しそうな笑い声が空に響いた。





本を胸の前に抱え、少し早足に歩く成瀬朔を目撃する。降谷や諸伏、それに最近では松田と話している姿を見掛けることが多い。何やら後ろを確認しながらそわそわと歩く彼女に疑問を抱く。

「成瀬さーん!どこー?」

その声に肩が跳ねる彼女。どうやら何人かの女生徒に追いかけられているらしい。

「おっかしいな…こっちのほうに行ったと思ったんだけど…」

「あっちかな?」

廊下の角から彼女たちの様子を窺っていた成瀬は近づいてくる彼女たちに慌ててその場から逃げようとする。が、振り返ったところで行き止まりだと知る。キョロキョロと隠れ場所がないか探している彼女とバチッと目が合う。

「・・・・」

「・・・・」

パチリ、とお互い目を瞬かせた。






「どこ行ったのかなぁ」

「せっかくあの金髪の外人さんのこと訊こうと思った、の…に…」

ででん、と廊下中央で太い眉を釣り上げている教官顔負けの伊達と鉢合わせになる女生徒たち。何やら怒っている彼の気迫ある顔に彼女らは「すいませんでした!」と青い顔をして走り去ってしまった。

「…行ったぞ」

ひょこり、と伊達の背中から顔を出す。ナタリーの背と同じぐらいだろうか。見上げる彼女にそう思った。

「ありがとう。伊達くん、だよね?」

「あぁ。お前は成瀬、だろ?」

「知ってたの?」

「降谷たちがよく成瀬と話してるのを見かけるからな」

「同じ高校だからつい、ね。それより伊達君、近くで見ると思った以上に大きいのね」

「そうか?」

「2メートルはある?」

「あー…この間の身体測定のときはだいたいそれぐらいだった、か?」

「ちょっと触っても?」

「あ、あぁ…」

両手で伊達の両腕部分を軽く叩くように筋肉を確認する彼女。入国審査を受けている気分になる。ナタリー意外に女性に触れられる機会もないため、少々緊張してしまう。

「いい筋肉してる。ヘビー級より一つ下のクルーザー級ぐらいか…」

「え?」

そのまま腰回り、太腿の筋肉を確認する成瀬。徐々に下がっていく彼女に伊達は慌てる。

「おいおいおい成瀬?」

「右膝、痛いの?」

膝のところで動きを止めた成瀬に伊達は瞬きを一つする。

「…よく分かったな」

「触れようとした瞬間、ほんの一瞬だけど膝が動いたから」

「さっき道場でちょっとな」

「テーピングは?」

「いや、なにも…」

「私ちょうど今持ってるからそこに座って」

空き教室の椅子を指差す彼女に伊達は困惑する。

「いや、しかしだな。若い女子にそんなこと…」

「同い年よね?」

クスクス可笑しそうに笑う彼女は先程の雰囲気よりも柔らかく感じた。

「匿ってくれた礼にどうかな?歩くのもちょっと楽になるよ」

変な女だ。降谷たちが打ち解けているのもわかる気がする。伊達は受け入れるようにその椅子に座ったーー…。


その夜。門限までまだ少し時間があり夜風に当たりながら月を眺めていると歯磨き粉を買いにコンビニに行くという降谷に偶然会う。

「少し…話さないか?」

コンビニまでの道のりを二人で歩く。伊達は昼間道場で情けをかけた降谷に誰よりも強くなければ正義は遂行出来ないのだと、少々キツい言い方をしてしまったことを謝罪する。彼は気にするな、と首を横に振った。

伊達は話始める。

幼少期、木刀を持った男がコンビニに押し入り、警察官の父親が財布を出し、その男に土下座する姿が今でも忘れられないことを。親父が強く、その犯人を捕まえられたら被害者は誰一人出すことなく正義は遂行されたのだと、もう一度強い言葉で降谷に告げる。降谷は何も言わずにジッと耳を傾けていた。

「くだらねぇ話に付き合わせて悪かったな…。買い物を済ませてとっとと戻ろう…」

門限もあるし、とコンビニに入ったタッパのあるその背は寂しげに少し丸まっているように見えた降谷だったー…。




降谷は目当ての歯磨き粉を探しているとふとこのコンビニ『ナウソン』名物、WナウチキWが目に入ってくる。

ここのチキンを朔が食べたがっていたことを思い出し、買って行こうか悩んでいると伊達が自分より先に歯磨き粉を見つけてくれていた。

「これでいいか?」

「班長、ありがとう」

「こんな時間にナウチキか?」

バレてしまっていることに苦笑いで返す。

「いや、成瀬が食べたがっていたのを思い出して…」

「そういえば昼の後、彼女と初めて話したよ」

「成瀬と?」

「あぁ。松田との試合で痛めた右膝に気づいてテーピングを巻いてくれた」

「そうか」

嬉しそうな顔をしていた降谷だが、途端ジト目へと変わる。

「伊達班長」

「なんだ」

「君は周りに悟られないよう痛いのを隠していた。成瀬はどうやって気づいたんだ」

「・・・・」

途端言葉に詰まり明後日な方向を見る彼を降谷零が見逃すはずもない。もう一度低く伊達班長、と彼を呼ぶ。観念したのか彼は咳払いを一つ、した。

「筋肉が気になるからと…その体中を…その…触られてだな…」

その言い方は大分語弊があるんじゃないか?と降谷の顔がだんだんと険しくなっていく。そんな彼を見て伊達はゴホンッ!と大きめの咳払いをする。

「彼女は何故か何人かの女生徒に追いかけられていたようだが?」

「え?」

「お前のことを成瀬に訊きたいように感じた」

「あぁ…なるほど…」

大方予想がついたそれに降谷は、何故僕に相談しない、と溜息をついた。

「交際を内緒にしているのはその為か?」

「え?」

ダァン!!

同時に聴こえた発砲音。降谷たちは驚愕する。天井に向けて放たれたそれは穴を開け、破片がパラパラと落ちてくる。

「死にたくなければ全員、言う通りにしろ」

降谷たちに銃口が向けられたのだったーー…。



2020.12.1
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