クリスマス、安室さんに下着を贈る話


「安室さんは付き合ってもいない女性から下着を贈られたらどう思いますか?」

「え?」

カウンター席でコーヒーを啜っていた彼女は突然そんなことを言い出した。

「ちなみに私は付き合ってもいない男性からプレゼントされたら例え友達でもちょっと引いてしまうかもしれません」

「プレゼントされたんですか?」

「いえ、されたわけではなくこれからするというか…」

濁す彼女に安室は首を傾げる。何やら言い辛そうな彼女に安室はあらぬ方向へと察しがついてしまう。

「どなたかの男性に買われたんですか?」

しかも下着を。

拭いていたカップをギュッと強く握りしめる。彼女とはいい関係が築けていた筈だ。むしろ両想いとすら思っていた。それが少し目を離した隙に違う男性に…あろうことか下着を贈り合う中までになっていようとは。今日もこうして客がいない時間を見計らって新作ケーキの味見だなんだと適当な理由をつけて呼び出したというのに。意中の男性でも思い浮かべているのか彼女は頬を染めカップに視線を注ぐ。

「ほら…その…世間は今クリスマスじゃないですか。新一くんへのプレゼントを一緒に選んで欲しい…と蘭ちゃんからの頼みで先程行ってきたわけです」

下着を買った言い訳にしては随分遠回りな切り口だ。安室は笑顔を貼り付けながら聞いてはいるものの心中穏やかではなかった。

「園子ちゃんも一緒だったんですけどね?ほらあの子たち、なんちゃら作戦を立てるの好きじゃないですか」

背中に隠すように立て掛けてある紙袋がちらりと見える。如何にもクリスマスを彩った煌びやかなそれに、もしや自分宛と舞い上がったその時の己を殴りたい。違う男性の影がチラついた以上、今はその袋を見るのも嫌だった。

「それで…今年は下着を買って、W心も体も貴方のもの!これを着て今夜は私と一緒にいて作戦!W…なんて今思えばどうかしてると思うんですけどその時はクリスマスのムードと園子ちゃんの力説に圧倒されてしまって、私も蘭ちゃんもそうかも?なんて思ってしまったわけで…」

カップを置き、指先を弄りながら視線は左右に忙しなく動く。

「後で冷静になってみると、ハンカチとかでも良かったんじゃ…なんて、ね。」

今頃蘭ちゃんも同じように頭を抱えてそう…ハハハ。と最後は乾いた笑みへと変わる。

「安室さんの意見をちょっと訊いて見たかっただけですので…お気になさらず」

「僕は…」

ぴくり、と彼女の肩が跳ねる。安室が口を開いたことにより緊張しているのが窺えた。

「貴女からプレゼントを貰う男性が羨ましいです」

「え?」

「どんなものであれ、好きな女性からのプレゼントは嬉しいものですよ」

「あ、むろさ…」

「その背中にあるプレゼント…僕が貰うことは出来ないんですか?」

もうヤケだった。彼女が他の男性のところに行くのも、その男と甘い夜を過ごすのもとてもじゃないが耐えられなかった。悲しそうに眉を落としている安室に対し彼女は泣きそうな顔をしていた。

すると背中にある紙袋を手に取り、そっと安室の前に差し出した。それに目を見開く。

「ほ、本当は…安室さんに、か、買ったんです…」

震えている声。彼女はギュッと目を瞑り、紙袋で顔を隠した。唖然と口を開け、その袋を視界一杯に入れる。

「自分で決めて買ったくせに、変な防衛線を張って、回りくどい言い方をしてごめんなさい。う、受け取ってくれますか?」

緩んでしまいそうになる表情を必死に保つ。安室は手を伸ばし、紙袋もろとも彼女の手を包み込んだ。

「これを履いて、今夜は貴女と過ごす…ということでいいんですよね?」

「え?」

惚けている彼女を他所に握ったその手を掴み唇に持っていく。手の甲にキスを落とせば彼女の顔は真っ赤に染まった。

「少し恥ずかしいけど…僕も君に着てほしい下着、選んでもいいかな?」

更に首や耳朶まで赤く染まってしまった彼女に安室は満足そうに微笑んだのだった。


おわり
2021.12.24
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