色々かっ飛ばして家に誘う安室さんの話
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「安室さん!すみません!少しの間、雨宿りさせてもらってもいいですか?」
濡れた体では店内に迷惑がかかると思ったのかハンカチで叩くように体を拭いている彼女に安室はバックヤードからタオルを持ってきて彼女の頭を拭いてあげる。顔は見えないが声だけで彼女が慌てているのがわかった。
「あ、安室さん!自分で!自分で出来ますから!」
忙しなく動く手の動きが可愛くて思わずクスッと笑ってしまう。すると何かに気づいた彼女がコーヒーを頼む。何も注文しないで店に居るのは悪いと思ったのだろう。
「今は僕と貴女以外誰も居ませんし、雨が落ち着くまでどうぞ雨宿りしていってください」
小首を傾げ、目尻を落とすように笑えば彼女は必ず顔を赤くする。その反応見たさにわざとしているなんて彼女は露程も思っていないだろう。
「あ…ありがとうございます」
「ですが、その状態だと風邪を引いてしまいますね」
髪から垂れた滴が首筋を通り、鎖骨へと流れていく。
「服、貸しましょうか?」
彼女を心配するふりをして谷間への吸い込まれていった先程の滴の行き先が気になって仕方がなかった。
「い、いえ!すぐタクシーを呼ぶので大丈夫です」
あくまで自分は雨のせいで仕方なくポアロを訪れた客でありたいのだろう。しかし安室は知っている。彼女の会社からここまで来るには必ずコンビニの前を通らなければならない。そこで傘も買えた筈だ。買えなかったとしても雨宿りはそこで出来た。わざわざこちらに来たのは彼女にもまた下心があると安室は踏んでいる。気づかない振りも出来るが安室も男であり、そこまでお人好しなわけではない。
「ならタクシー会社に電話してみますね」
自分で電話すると申し出ている彼女を無視して安室はどこにも繋がっていないスマホを耳に当てる。タクシー会社と会話をするフリをして残念そうに眉を落とし、スマホをポケットの中へと仕舞った。
「この雨で全部出払ってしまっているようですね。一時間あればつくとのことですが…」
「さ、さすがにそこまでお店にいるのはご迷惑になりますので…」
帰ります、と言いかけた彼女の濡れた両腕を掴む。抱いた劣情を隠してはいるが、まん丸に見開いている彼女の瞳に映る自分はまさに獣のそれだった。ぽたぽたと髪から落ちる滴が肌を流れ、服の中へと流れ込んでいく。
「名前さん…」
熱を含んだ瞳に気づいた彼女の頬は徐々に赤みを増していく。
「僕の家に…きますか?」
弾くような雨音がするなかで、彼女は静かに、ゆっくりと頷いたのだった。
おわり
2021.2.19
いいね♡
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