景光くんとギャルA
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「景光くん、あの子と付き合ってるらしいよ」
「うそー!超ショック!景光くん趣味悪ッ!」
「ねー!つり合ってないよね」
廊下で女子とすれ違えば必ず聞こえてくる今のような陰口。本人に態と聞かせるぐらいのその大きな声が出せる根性があるなら面と向かってきて欲しい。
しかし悪口を言われることに慣れはしないが、自分と付き合うことで景光が悪く言われるのは自分の悪口より嫌な気持ちになる。
もしかしなくとも景光とは別れた方がいいのだろうか。前の学校だとこの格好をしていても浮くことはなかったのにな…と染まった毛先を指先に絡める。見た目が違うだけでこんなにも非難されるとは…。もともと勝気な性格も中学からの付き合いのある友達なら理解してくれた。しかしここでは自分を変えないと受け入れてくれる子はいないようだ。
「ねぇ、ちょっといい?」
クラスの女子数名に呼び出される。校舎裏に連れてかれ、さらにそこでも何人かの女子が待ち構えていた。
「この子さ、景光くんのこと中学の時からずっと好きだったんだよね」
泣いている子がどうやら景光のことを好きな子のようだった。
W景光くんW
ずっと、気になっていた。何故なら自分でさえ本人の前でまだ名前を呼べていない。
「何か景光くんの弱みでも握ってるんじゃないの?」
「景光くんがあんたみたいなギャル好きになるはずない!」
泣いているその子を守るように、肩を寄せ合い、攻撃してくる。心臓は慣れない避難を受けバクバクしているが、影で言われるよりこちらのほうがまだ良い。
「気軽に呼ぶな」
あー…なんだかすごく窮屈だ。
無理に自分を変えたくなんかない。
低く呟いた声が聞き取れず彼女らはえ?と訊き返した。
「誰と付き合おうが、好きになろうがそれは景光が決めることだ」
なんで本人に言う前にこの子らに景光と言わねばならんのだ。
だって…なんか、悔しかったから。
自分なんて口に出すのでさえ心臓が破裂しそうなのに。
簡単にW景光くんWと呼べる彼女らが羨ましかった。
ギロリと睨めば、びくりと肩を震わせる彼女たち。こんなの性分じゃないのに…。もっと要らぬ噂が広まるだけなのに…。景光にも迷惑掛けるかもだけど…
「景光のこと、私は諦めるつもりはない」
誰にも渡したくなかった。
もちろん、誰と付き合うかなんて彼が決める事だし、もしかしたら明日にはフラれるかもだけど…
「景光のことを好きなのは私も同じ」
踏み出し、距離を縮める自分に彼女らはびびって後退りする。メイク、今日はちょっと濃い目に気合い入れてきたから迫力はあるはずだ。
「これ以上景光のこと悪く言ってみろ。川に沈めてやる」
「その顔の傷、どうした?」
「え?」
屋上で一緒に昼飯を食べている時、頬の擦り傷に景光の指先が優しく触れる。
「何か…予想外に…取っ組み合いの喧嘩になって…」
え?と固まる彼に自分の顔も引きつる。言葉だけで牽制出来ると思ったのだが、あのあと泣いてる子が、泣きながら自分に突っ込んできて、爪で引っ掻かれたり、髪やら服を引っ張るものだからつい、自分も本気を出してしまった。
「オレと付き合うことで何かされた?」
心配そうな顔で見つめてくる景光。それにうん、と頷く。嘘はつかない。表情が変わる景光に対し、自分はニシシ、と笑って見せた。
「でも勝った!」
この学校で笑顔を見せたのは初めてかも知れない。ポカン、と口を開ける景光の顔が可笑しくて声を出して笑った。
「君の…そういう不器用なところ、結構好きだよ」
へ?と箸で掴んでいたタコさんウインナーを落としてしまう。照れ臭そうに優しく微笑む景光。自分が素直になろうと思うのは景光の真っ直ぐな性格のせいかもしれない。
「わ、わたしも…あんたの、こと…」
W景光くんW
言いかけて口を噤む。あの子たちの前であんな啖呵を切ったのだ。そんな自分が根性見せなくてどうする、と意を決して息を吸う。
「ひ、ひろ…みつ、の…お節介なところ…は、結構…好き」
言えた。やっと本人目の前にして名前を言えた。ちらりと彼の表情を盗み見れば頬を赤く染めて薄く口を開いている景光がいた。
押し倒してやろうかと思った。
「こ、今度オレの親友に会ってほしい。君に、少し似ているんだ」
照れ臭そうにはにかむ景光。せっかく素直になれたというのに照れ隠しで顔を背けてしまう。取り敢えず頷くだけで精一杯だった。道のりはまだまだ遠いらしい。赤い顔を隠すようにその後は黙って弁当を食べた。
余談だが景光の親友に会ってみたらそいつとはびっくりするほどウマが合わず、景光を巡って喧嘩をするのはまた別の話…。
おわり
2021.01.09
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