松田陣平
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仕事が終わる時間に陣平からメッセージが来ていた。どうやら会社近くまで車で迎えに来てくれたらしい。今日はバレンタイン。付き合って三年経つ自分たちにはこのイベントに緊張感はない。しかしチョコ選び自体はすごく楽しいため、毎年気合を入れて選ぶ。告白したのもバレンタインの日であったから、ウキウキする気持ちより懐かしいと思う気持ちの方が勝るかもしれない。
会社を出て、路肩に停めてある陣平の車を発見する。車体の低いその車は身を屈ませないと運転席に座る陣平は見えない。窓をコン、コンッと叩き、ひらひらと手を振る。気づいた彼がサングラスをズラし同じようにひらひらと手を振った。が、すぐ様そっぽを向くように前を向いてしまう。
なんだ?ご機嫌斜めか?
とりあえず外は寒いし、暖房の効いてる暖かい車内に入りたい。もう、夕方をとっくに過ぎたその時間帯は当然車内も暗い。いつものようにドアを開け、座り込もうとしたところで陣平が大きめな声を上げる。
「あー!おまっ…!バカ!」
「うぇっ!なになに⁉」
車体が低い為に手に持っている鞄が視界の邪魔をして助手席のシートにきちんと目を向けていなかった。酷く慌てた様子でシートを守る陣平。あまりの必死さについ自分も足と腹筋に力を入れ、ぎりぎり体勢を維持する。
「何してくれようとしてんだ」
なんだかよくわからんが怒られた。え?座るなってこと?空気椅子状態のままなんだけど?とドアを掴んでいた手はそろそろ限界を迎えていた。
「も、もう、座っても、いい!?」
日頃の運動不足がたたり、足と腹筋はぷるぷると震えていた。
「あぁ、座っていいぜ」
お許しが出たことにホッと胸を撫で下ろし、ゆっくりと腰を下ろす。
「で?急になんな…ぶっ!」
バサッと何かが顔に当たる。近すぎて何も見えない。さっきからなんなんだ、もう!
「…やる」
「はぇ?」
手探りで掴んだのは陣平の腕。そこから伝うように手首、手、指へと這わせていき、陣平が手に持つそれを受け取った。ようやく視界に入れることができた一輪のそれに目を丸くする。
「…薔薇?」
「・・・・」
「え、えぇ?え?ど、どうしたの?」
「…っ…」
こんな、陣平らしくないプレゼントを貰ったのは初めてだ。いったいどうしたというのだ。今日はやけにらしくない。
「今日って…バレンタイン、だよ…ね…?」
ガンッ!と陣平が顔面を強くハンドルに打ち付ける。エアバックが作動しないか不安な勢いである。
「……じ、陣平さん!?」
顔は未だ伏せたまま。ハンドルを抱くようにして腕で顔を隠している陣平。
「……萩が…」
ボソボソとようやく放ってくれた言葉は彼の親友の名前。
「え?萩原くん?」
「萩が…新鮮味がないなら花束でもやって驚かせたらいい…なんて変な入れ知恵するから」
「驚かせたかったの?」
「は…花屋に行ったらよ。薔薇がいいなんて、店屋のねーちゃんが…」
「お店の人に相談したの?」
あ"ー!くそ!とガシガシと頭を掻く陣平。
「付き合って今日で三年じゃねぇか!だからだよ!」
顔を真っ赤にしながら、彼は照れ隠しも入っているのか、如何にもやけくそな感じで乱暴に言い放った。やばい…。これは思った以上に…嬉しい、かも。にやける顔を隠す様に薔薇で顔を覆った。
「・・・・」
陣平は未だ顔を上げることが出来なかった。わざとらしく「へぇー、そうなんだ〜」「ふ〜ん」と明らかに揶揄を含んだ言い方をする彼女に小さく舌打ちをする。そして余計な入れ知恵を寄越した萩原を呪った。
あー!くそ!柄にもねぇことするんじゃなかったぜ、と茶化してくる彼女に我慢出来ずに顔を上げる。
「あのなぁ!いらねぇなら…」
陣平はそこで口を閉じてしまう。何故なら、彼女はその包装された一輪の薔薇で顔を隠してはいるものの、隠し切れていないその口元は大変ににやけており、見えている耳の先は赤く染まっていた。
とても、とても嬉しそうな彼女を見て、陣平はフッと息を吐くように笑った。
「ホテルでもいくか」
「そこは愛を囁くんだよ!!」
台無しだわ!と彼女は未だ嬉しい気持ちを隠し切れない面で陣平の肩を叩いたのだった
2021.2.14
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