妹の知らないところで
安室は現在、小五郎たちと一緒にレストランWコロンボWにて依頼人である樫塚圭を待っていた。
「あ、ハルお姉ちゃんからメールだ」
ちょうど小五郎から依頼内容を聞いた直後だった。メールの受信に気づいた蘭が携帯を開き、漏らしたその名に安室はコーヒーカップの取っ手に掛けていた指を離す。
「あん?あいつなんだって?」
「明日仕事休みだから今日の夜、皆いるならお邪魔してもいいかな?って」
「あぁ?先週も泊まったばっかだろ」
「是非来て、っと」
「おい、何勝手に…!」
「コナン君は明日確か博士たちとキャンプだったよね」
「うん!」
「俺にも予定ってもんがなぁ…!」
「いいじゃない、別に。ハルお姉ちゃんいると私も助かるし」
「だからってお前…」
「なぁに?まるでハルお姉ちゃんがいたら何か不都合なことでも?」
「………んなわけねぇだろ」
間が空いた小五郎の返答に蘭の目がジト目に変わる。逸らす小五郎に交わることのない視線が数秒続く。見かねたコナンがぽそりと口を開いた。
「明日新台が入るっておじさん言ってたよ?」
「おまっ、何バラして…!」
「明朝からお父さんはパチンコを打ちに行くみたい、っと」
「だからお前勝手に送るなっつーの!」
「あっ、さっそく返事がきた。えーっと…W新台が出たからとりあえず打ってみる、という考えはそろそろ卒業しては?どうせ当たらないのだから…Wだって」
「あいつ…!」
だから言いたくなかったんだ!とこめかみに青筋を立てる小五郎。そんな彼に蘭とコナンは薄ら笑いを向ける。彼は相当なギャンブル好きであり、またその才覚はないのだろう。ぶつぶつ文句を言いながら注文したピラフを頬張っている小五郎を横目に安室は苦笑いを浮かべながら再びコーヒーに口をつける。すると安室が会話に入って来なかったのを蚊帳の外にしてしまったと勘違いしたのか蘭は申し訳なさそうに口を開く。
「すみません、こんな身内話…。つまらなかったですよね」
それに安室は小さく首を横に振る。お陰でこちらは詮索していると勘繰られずに自然に会話に入り込めるのだから、とほくそ笑むのは胸の内だけに留めておく。
「いえいえ、そんな。ハルさんとはずいぶん仲がいいんですね?」
「生まれた時から傍にいるので、もう姉のような存在です」
「へぇ…先程の会話から察するに結構頻回にいらっしゃってるんですね?」
「この坊主が来てからは特にな」
小五郎の言葉に対し、コナンという少年は反論する訳でもなく、只々苦笑いを浮かべているだけだった。見た目に反し彼の精神年齢はかなり高いようだ。大分大人びている。
「………」
安室は結婚パーティーでの小五郎の推理にずっと引っかかっているものがある。まだ憶測に過ぎないが、この子はもしかして…
「君は確か、訳ありで毛利先生のところに居候しているんだったかな?」
「う、うん…まぁね」
にこり、と笑ってはいるもののそれ以上の詮索を拒まれているように感じた。やはりそこは年相応の子供なようで、デリケートな質問だったのかもしれない。その証拠に彼は早々に自分の話題からハルへと話しを戻した。
「ハルお姉さんって結構寂しがり屋さんなのかもね?」
「えー?そうかなぁ?」
彼女のことを思い出しているのか蘭は視線を上に向けながらもその眉はやや寄せられている。蘭の中でその印象は薄いようだった。
「だって!基本僕達がいるかどうか必ず確認するじゃない」
「まぁ、たしかに…ここ最近は必ず皆がいるかどうか訊いてくるかも」
「鍵をお持ちでないとか?」
「いえ、自宅の鍵と一緒にキーケースに入っているの見たことがあるので…合鍵は常に持ってると思います」
なるほど。彼女と鉢合わせる可能性が無きにしも非ず、ということか。なら探偵事務所にあったPCを調べるのは敢えて彼女が毛利家に泊まりに来た深夜を狙った方がいきなり来た彼女と出会す可能性は低そうだな。
「あいつももういい歳だからな。独りで家にいるのが寂しいだけだろ」
「ハルお姉ちゃんに彼氏が出来ないのはお父さんとお母さんのせいなの知ってるからね?」
「あぁ?なんの話だよ」
あとはあのPCに掛けられているパスワードをどうやって知るかだな。と、賑やかな会話が繰り広げられている中、安室は一人コーヒーを啜る。そのカップで隠された口元は微かに上がっていたーー…
「へっくしゅん!」
ベタなくしゃみをしてしまった、と仕事中だったハルは恥ずかしそうに鼻の下を擦る。誰か自分の噂でもしているのだろうか。まぁ、大体予想はつくが。先のメールで兄が自分の悪口でも言っているに違いない。明日パチンコに行くの絶対阻止してやろうと意地悪を思いつつもその顔は笑っている。ご機嫌取りに今日はケーキでも買っていってやるか!なんて、この後彼らが事件に巻き込まれるとも知らずにハルは呑気にそんなことを思っていたーー…。
2021.04.02.いいね♡