いち

「あ、安室くーん!」

たまたま商店街に足を運んでいたら毛利ハルが買い物袋をぶら下げながら嬉しそうにこちらに手を振っているのが見えた。

「すごい荷物ですね」

「蘭のね、大会が近いからご飯くらいは手伝おうとおもって」

少しでも部活に専念出来るように、と成長期の子供二人の栄養を考えて購入したたくさんの食材を満足げに掲げてみせた。

「せっかくなので荷物、お持ちしますよ。先生の事務所まで送ります」

「え?いいよ、いいよ。また戻るなんて面倒でしょ?」

ポアロの仕事終わりにこの商店街に立ち寄ったと推理したのだろう。気遣うハルに安室は優しく微笑む。

「日頃毛利先生にはお世話になっていますので。それにこの状態のハルさんを素通りしたと知られたらそれこそ怒られてしまいます」

そんなことで怒らないと思うけどなぁ、と彼女は可笑しそうに笑う。

「ならせっかくだし…お言葉に甘えちゃおうかな」

ありがとう、と目尻を下げて笑う彼女に安室も嬉しそうに頷いた。

「安室くんはここの商店街よく来るの?」

「いつもはスーパーで済ませているんですがたまにはと思いまして…」

すると彼女は少し得意げな顔をして道すがらにこの商店街のことを話してくれた。

「あの店は小嶋くんのご両親がやってらっしゃる酒屋さんで…あそこのお肉屋さんはよくサービスしてくれるの」

知らぬ間に上がっている頬に安室は気づかない。嬉しそうに目を細め、楽しそうに話す彼女の横顔を眺めながら穏やかな表情で相槌を打つ。

じっとハルのことを見つめている安室を彼女は「ん?」と不思議そうに首を傾げた。

「いえ、なんでもありません。あそこのお店はなんですか?」

「あそこはねー…」

彼女は自分が育った街をとても誇らしげに、嬉しそうに語る。その屈託のない笑顔で話す彼女に安室はまた優しく目尻を下げたーー。




「あれ?安室さん?」

探偵事務所に着き、彼女の後ろで荷物を持っている安室透に小五郎とコナンは首を傾げる。

「さっき、仕事上がってたよね?」

「実は偶然商店街でばったり会って、荷物を持ってもらったの」

安室が口を開く前にハルが答えれば読んでいた新聞から顔を上げた小五郎は怪訝そうな顔を向けた。

「おい、安室くんはお前の小間使いじゃねぇんだぞ」

「いえ、毛利先生自分が勝手に…」

「わかってますよー」

ハルが言葉を被せる。次には「安室くん、ありがとうね」と小五郎の言動など別段気にする風もなく穏やかな表情で安室から荷物を受け取ろうとしたので咄嗟に引っ込めてしまった。

「あむ…?」

「せっかくなので上までお持ちしますよ」

「えぇ?本当?助かるー!」

嬉しそうな顔をするハルに「いいように使ってんじゃねぇか!」という小五郎の小言は無視して二人で三階に上がる。合鍵を使って勝手知ったる我家のように彼女は安室を家に上げた。

「今電気つけるね」

何も警戒していない無防備な彼女の背を追いかける。こうして彼らのテリトリー内に不自然なく入り込めるのも人懐っこい彼女の存在が大きい。

「今日鍋なんだけどせっかくだし安室くんもご飯食べてく?」

その誘いに安室は数回瞬きをする。まさか誘われるとは思っていなかったからだ。

「それは流石にご迷惑になるかと…」

そう断ると何かに気づいた彼女がハッと口に手を当てた。

「そうだよね。さすがに家族以外の人との鍋は気になるよね…」

「いえ、そういうわけでは…」

「兄さん、弟子なんてあまり取らないからなんか家族が増えたみたいで嬉しくて…一人勝手に舞いあがっちゃった…」

ごめんね、と困ったように笑う彼女。

「食べて…行きます」

気づいたらそんなことを口走っていた。

「え?本当?」

「…折角、なので」

なにを言っているんだ安室透と脳内にいる降谷零が怒る。しかし次にはパァッと明るくなった彼女を見てこの笑顔に弱いんだよな、と降谷零ですら思ってしまうのだからもうどうしようもない。





二人で鍋の準備をしていると蘭が帰ってきた。

「ただいまー」

「お帰り!」

「お帰りなさい蘭さん」

「えっ!安室さん⁉」

「私がね、誘ったの。鍋はみんなで食べた方が美味しいし」

ローテーブルの真ん中でジト目顔のコナンと目が合う。何か物言いたげなその視線を無視して安室はカセットコンロをテーブルの真ん中に置いた。粗方公安の人間なのに人様が作った料理を食べるのかと言いたいのだろう。あぁ、だからせめて一緒にキッチンに立ったんだと届くわけもない弁明を胸の内でする。彼が本当にそう思っているかは知らないが。

「あっ、そうだ。この間和葉ちゃんたちと鍋したんだけど、雑炊の時はいつも卵が固まる前に混ぜるんだって」

それが意外に美味しかったという蘭。

「じゃあ今日の締めは雑炊にして、和葉ちゃん流でやってみよう」

そう楽しそうに蘭と話すハルを横目に鍋の準備を進めていると「…暇なの?」と小さな少年から発せられた。心外である。




これは安室透がこの女性にひたすら振り回される話である。



彼女は毛利小五郎の妹さん




おしまい
2024.07.29.いいね♡

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Largo