もうすぐ
「シェスカ」
振り返ればマスタング大佐が立っていた。エドワード君の上司。実際にお会いしたのはヒューズ准将の死後、少し話した程度である。
あの時は生前の彼を聞かれた。それから顔を合わすのは一ヶ月ぶりぐらいだ。少しヤツれたような気もする。
「君に頼みごとがある」
過去に起こった事件を調べたい。書庫を開けてくれないか、と言われた時は例え大佐でもすぐに首を縦に振ることは出来なかった。なぜなら軍法会議所勤務以外の者の資料閲覧は禁止されており、必要な場合は申請を行った上での承諾書類が必要なのだ。無断での入室は許可されていない。
「許可申請書の発行を待っている時間がないんだ。無理は承知だ。頼む開けてくれ」
その必死な様子に思わず了承してしまう。過去の事件なら三番書庫だ。ちょうど自分が鍵を持っている。
「ヒューズから以前聞いた。君は記憶力に長けていると」
「え!えっと、でもそれは一度読んだ本の内容を忘れないと言うだけで」
「十分だ。今から言う資料を出してもらいたい」
確かに初めて入る人はこの膨大な資料の中から探すだけでも時間がかかってしまう。使用時間が少しでも短かければ自分も他の者に見つかる心配はない。
言われた資料は中央刑務所の死刑者リスト、軍上層部での起こった過去の事件、国家錬金術師の事件例、第五研究所に関する書類、そしてヒューズ准将の事件。
言われた書類を全て出し終えたシェスカはさすがに自分もここにずっといる訳には行かずそそくさと出て行こうとする。
「それでは大佐、私は一度仕事に戻ります。鍵は閉めてくださいね」
「あぁ、わかった。ありがとう」
「いいえ、では」
「最後にシェスカ。ここの書庫を多く使用している者は君か?」
「えっと、皆それなりに使用してますけど…。そうですね、今は私が多いです」
「“今は”…?とは」
「えっと…その前はエナンさんがよく使ってました」
「ガーネット大尉が?」
「はい。三番書庫の鍵が必要だった時は皆、エナンさんに借りに行くことが多かったので」
開放厳禁なここではよくあること。皆、それぞれ担当分野が決まっているため必然とその書庫での作業が増える。所用で少し抜けたりする場合はそのまま鍵を持ち歩く者が多いため、鍵入れにない場合はその人物に借りにいくことが多い。皆だいたいは誰がどの担当で何番の書庫か把握しているため、あまり困ることはない。
彼女が移動してからは自分がその担当になっただけのこと。
「エナンさんって確か大佐の所に移動になったんですよね?」
元気ですか?と聞いたときには彼は資料に夢中になっていた。
シェスカはそのまま黙って部屋を出て行く。
閉まるドアの音がやけに寂しく感じたーーーー…
ガーネット大尉の軍法会議所勤務は異例だった。
もともとフォッカーが大尉という地位にいるため、同じ部署で大尉が二人いることになる。しかし彼女が国家錬金術師ということでヒューズが許可したのだ。もちろん補佐にしたのもヒューズ自身の意思。
「彼女の出身、ルクタールについては載ってないな」
もう一度ブレダ辺りにも調べさせるか。
シェスカに起こされ、ようやく自分が寝ていたことに気づく。
時計をみれば軍議まであともう少しだった。許可申請書を発行なんてしたら名前が残る。少々手荒だったが、シェスカのおかげでだいぶ情報が掴めた。
もう少しだ。
もう少しで真実に近づける。
もう、一息だ。
終わり
2012.09.29
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