Largo


故郷は


マリア・ロスと無事合流し、互いの情報を交換したあと再び砂漠を越えてきたブレダ少尉、エドワード、アームストロング少佐の三人は再びリゼンブールに戻ってきた。

エドワードはそのままリゼンブールに残り少佐によって不自然に凹まされた機械鎧を直してからいくとのこと。

「おぉそうであったな。我々はこのまま中央に…」

「少佐、実は自分も他に行くところがありまして…」

「そうか。では我輩だけ先に行っておるぞ」

少佐を見送ったあとブレダも別方向へ、歩き出す。

汽車を乗り継ぎ、しばらく歩いた場所にそれは存在した。正確にはしていた、か。

“ルクタール”

これ以上先に進めば、見張りの軍人に見つかる。現在は閉鎖地区となっており、軍所属の自分でさえ近づくのが困難な場所。

完全に廃虚と化したそこは当然ながら誰も住んでいない。調べによるとルクタールの住人は比較的被害の少なかった近くの町に移ったとのこと。

ブレダは途中、通った馬車の荷台に乗せてもらいながらその町へと向かった。

町につき、行き交う人々に声をかける。この数件先の家にルクタールで村長をやっていたという老婆がいるという。

ブレダはさっそくその家へと向かった。

「あの時は必死で逃げたからねぇ。なぁんも残っちゃいねぇさ。焼け野原。本当は別の物をもってくるべきなんだろうが…この書物らは村がそこにあったという証。死んでもこれだけは手放せなかった」

老婆は言った。以前はもっとこの町にルクタールの住民がいたらしいのだが土地や人になれず、出て行った者が多かったと。

「その書物、見せてもらっても?」

「あぁ構わないよ」

五、六冊ある中である書物が目に止まる。住民の名簿票だ。パラパラと捲るとアルファベット順に並べられていた。エナン・ガーネットの名前を探したが気づけばもう最後のページに差し掛かっていた。

見落としたのか?もう一度探す。もう一度。もう一度。三回目で自分の見間違いではないことに気づく。

「婆さん、エナン・ガーネットって奴、村にいなかったか?」

「エナン・ガーネット…?おや、だれだい?」

そんな奴、知らないよ。

汗が頬を伝った。ドクンッと心臓が慌て始めた。

いやいや、まてまて。決めつけるのはまだ早い。婆さんが忘れている可能性もあるのだ。老婆に他の住民がどこにいるのか聞いてみた。

老婆に礼を言い、この町にいる数少ないルクタール住民の元へと向かう。だが会う人会う人皆声を揃えて言う。

そんな奴、知らないと。

どういうことだ?何故、だれも彼女を知らない?

全員が村の情報を知れるほどとても小さな村だったらしい。誰が結婚し、誰が生まれ、誰がこの世を去ったか。本当に皆が知れるほど小さな村なのだ。

だから彼女が村の住民だったなら知らないなんてことはあり得ない。

じゃあ、彼女は一体、、、

「こんなところまで来て。少しやり過ぎでは?」

背後で声。同時に銃を引き抜き、振り返る。構えたと同時にブレダはそれを落としそうになる。銃の先端は彼女の額に触れるか触れないかの位置で止まったからだ。それほど近くにいた。気づかなかった。気配が、なかった。

「お、お前に聞きたいことがある」

「なんでしょうか」

声が震えた。態勢ではこちらが有利なはずなのに、少しも安心出来なかった。

「お前は、だれだ…?」

「エナン・ガーネットです」

ピクリとも表情を変えずに言う彼女。それがよりブレダを苛立たせた。

「ルクタールの奴らに聞いても誰もお前を知ってる奴はいなかった!名簿票にも名前は記されてない。もう一度聞く、お前はだれだ」

彼女の口端が微かに動いた気がした。

「ひとつ、忠告しておきます」

冷めた、黒い瞳がブレダを捉える。

「あまり私を怒らせないでください。最悪、誰か…」

冷たい風が、吹き抜けた

「犠牲になりますよ」

ざわっ!!

全身が一気に冷えていく。鳥肌となって銃を支えている腕がカタカタと震える。
汗が頬を伝ったとき、ガーネットから殺気が消えた。

「冗談です」

「…なっ」

「今回は報告があってブレダ少尉の所まで来たんです」

ブレダは眉を寄せる。この状況で彼女は何を言うつもりなのか検討もつかなかったからだ。

「マスタング大佐とハボック少尉が留置所襲撃犯を追ってる最中、大怪我を負いましたので至急中央へお戻り下さい」

「た、大佐とハボが⁈おい、嘘を…」

「言ってると思うなら、連絡してみてください。みんなこぞっと居なくなってしまったがために、仕事が終わらないんです」

では、と踵を返し去っていく彼女。姿が見えなくなったところでブレダは大量の息を吐き出した。

「ぶへぇ!なんなんだ、ありゃぁ」

どさっと腰が抜けたように座り込む。
だいたい何故居場所がわかったのだ。どうやってここまで…。

発信器でもついてるのか…?

急いでポケットや靴、鞄やらを探したがそれらしきものはない。いっそ見つかればよかったのかもしれない。でなければ彼女はどうやってここがわかったのか疑問のままだ。正直気味が悪い。

「取り敢えず電話だ」

そのあと、本当に入院している事実を知ったブレダの肌は今までにないくらいに総立ちになった。

おわり
2018.10.09

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